アルフのやり方
「何よ? またあんた?」
エマはアルフを見て少しひるみつつも気丈に言い返す。私も出ていきたかったが、アルフの言葉を思い出してぐっとこらえる。
「そうだ。相も変わらずクラスメイトに暴力を振るっているようだな」
「え、アルフ君?」
ミラは突然現れたアルフの登場に目を白黒させている。
取り巻きの女子たちもしばらく悩んでいたが、やがて自分たちの方が数が多いと思ったからか元気を取り戻し、アルフを取り囲む。
「彼女はシルヴィアさんに言いがかりをつけていたのよ!?」
「いくらシルヴィアさんの成績が凄まじいからといって許されることとそうでないことがあるわ!」
が、彼女らが次々とわめきたててもアルフは一切動揺しなかった。
「ミラ、僕はいいからさっさとこの場を離れてくれ」
「は、はい」
まずミラをこの場から離れさせる。
それから女子たちをぐるりと見回した。
「それを言ったら彼女が何を言ったからといって手を上げるのは良くないだろう」
「さっきから何様のつもり? いくら男だからといって容赦はしないけど」
エマは強気に叫ぶ。それはアルフに対しても数の力を使って陰湿な嫌がらせを行うということだろうか。
私がこんなことを頼んでしまったばかりにアルフも嫌がらせに遭うのは申し訳ない、という思いがわいてくる。
が、アルフは落ち着き払った表情のまま言う。
「ミラもこの場を去ったから言うが、僕は君たちの良くない校則違反の数々を知っている。例えばエマ、君は三か月前の月末の日曜日、無断で学外の男の家に外泊したね」
「な、何でそれを」
アルフの台詞にエマの表情は凍り付く。
そんなことがあったのか、と私まで驚いてしまう。
「何でこんなことを知っているのかは言えないが、僕はたくさんのことを知っている。例えばそこの君」
「は、はいっ」
アルフに指を指された女子はびくっとする。
「君は寮の自室に男を連れ込んでいたね?」
「嘘……」
彼女の表情も一気に蒼白になる。
「い、一体何でそんなことを知っているの!?」
一人の女子が叫ぶ。おそらくだろうが、アルフは彼の任務を遂行するために様々な調査を行っており、その過程で様々な生徒の校則違反を知ってしまったのだろう。とはいえそれを明かせば正体を明かすことになってしまう。そうなれば彼の仕事にも支障が出るかもしれない。
私のために自分の正体がばれるかもしれない危険を冒して彼女らに立ち向かってくれたのが私は嬉しかった。
「まあそんなことはいいじゃないか。僕は君が同級生の物を盗んでいたことを別に暴露するつもりはない」
「何でそれを……」
「僕は君たちの校則違反には何の興味もないんだ。だからもし君たちが今後も優等生として学園生活を送りたいのであればもうこういう胸糞悪いことはやめてくれ」
アルフの言葉に先ほどまで意気軒高だった女子たちは一気に沈んだ空気になる。
名指しで違反を指摘されていない女子も大なり小なり心当たりはあるのだろう、先ほどまでの強気は完全に失われてしまっていた。
そして幸いなことに、アルフがなぜそれらのことを知っているのか追及する空気は完全に失われていた。
「あ、あなたの要求は何?」
エマが精いっぱいの虚勢を張って問いかける。
「クラスメイトのいじめや嫌がらせをやめてくれ。君たちがシルヴィアの犬をするのは気に食わないけど、まあそれは勝手にすればいい。あ、それからこれまで嫌がらせをした相手にはきちんと謝っておくように」
「そ、そんな」
「別にしたくないなら無理強いはしないけど。その場合、僕も好きにさせてもらおう」
アルフの言葉にエマは悔しそうに唇を噛む。
が、アルフが一歩も退くつもりはないのを見てやがて悔しそうに頷いた。
「わ、分かりました。これからは心を入れ替え、これまで嫌がらせをしていた人にも謝りますのでどうか黙っておいてください」
「まあ、それは今後の心がけ次第だな」
アルフが言うと、エマたちは意気消沈して去っていった。
それを見てようやく私は出ていく。あまりに鮮やかなやり方にただただ感心するしかなかった。
「ありがとう、私やミラのためにここまでしてくれて」
「別に大したことじゃない。敵国の兵士やスパイに比べればあんなの物の数には入らない。彼女らに僕の正体がばれると少し困るが……今後うかつに僕に近づいてはこなくなったんじゃないかな」
アルフは何でもないことのように言うのだった。