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奇妙な晩餐会「スパイシーチキンカレー」

作者: 等々力天海

挿絵(By みてみん) 

 



私にはなにもない。


 勉強はふつう。


 運動も普通。


 容姿やスタイルも、これといって特別なものは何もない。


 高校に入って1年半、特に何も起こるわけでもなく、私の毎日は淡々とすぎてゆく。


 平凡な日々に、何か文句があるわけでもないんだけど、そんな私にも、引き下がれないものはあるのである。




 好きな人がいる。


 バスケット部の杉本拓郎くん。


 身長183センチで70キロ、ハンサムで明るい性格で、誰にでも優しいし友達も多い。


 勉強もクラストップだし、服装のセンスも素敵。


 彼に憧れている女の子は、…………実に多い。


 校内でも一、二を争うモテモテ男の子だ。



 そんな人に恋しても、私のような女の子を選んでもらえるはずは、……ない。



 でも、そんな理性的な確率論と、恋をするということは別だ。



 スキになってしまったら、たとえ天文学的数字の可能性だとしても関係ない。



 彼が…………………………………………………スキだ……………。









 誰にでも優しい彼。


 通り雨でびしょぬれになって、雨宿りしていた本屋さんの前。


「使いなよ」


 雨の中に「ひゃーっ」と言いながら消えていく彼。


 私の手の中に残った彼の折り畳み傘。








 たとえ叶わないと判っている恋でも……………。


 無駄な努力になるかもしれなくても……………。



 私は何もしないでいる事なんか出来ない。

 私にも戦える舞台はある。

 たとえとどかないと判っていても……………。

 私は、私の精一杯で、彼の心に思いのたけを込めたひと矢を放つのだ!







 私の強みは手間を惜しまない事にある。

 ルーのベースのタマネギは、大量に薄くスライスしたものを、2時間近くかけてローストしてゆく。


 濃いキツネ色になるまで、焦がさぬように、細心の注意で炒めてゆく。

 火加減が重要だ。

 いい香りがたち、はじめの量の10分の1になるまで炒めたら、カレー粉を混ぜてゆく。


 カレー粉はタマネギと一緒にローストすると、最高のルーが出来上がる。


 具材はローストした鶏肉にニンジンだけ。


 でも、その鶏は、醤油と香辛料とパイナップルをすりつぶした調味液に1日漬け込んでから、こんがりローストし、それを一口大にして煮込むので、うまみは肉に閉じ込められているし、香辛料の香りが染み込んだ上、パイナップルの消化酵素で信じられないくらい柔らかくなっている。これだけですでにもう絶品なのだ!



 これを一日天日で干してうまみを増幅させたトリガラと一緒に、三時間煮込んだあと、柔らかくした角切りニンジンを加え、スパイスを追加して香りを引き立たせる。



 クミン、コリアンダー、カルダモン、を多めに加えたガラム・マサラは、私のオリジナルミックスだ。



 最後に、お客様に出す直前にヨーグルトを加えてコクを出す。

 インド料理の店でバイトしたとき教えてもらったレシピだ。



 私はこれで、文化祭の企画提出をし、カレーショップ「がむらんでぃ」を出展するのだ。



 カレーなら誰にも負けない!



 彼のハートを、これで射抜くんだ!



 届け私の思い!



 とどけスパイシーチキン・インドカレー!















 ど、どうしよう………………………………………………………。



 どどどどどどどどど、どどどど、どうしよう……………!



 担任のハゲヒゲ眼鏡、先生達をこんなにいっぱい連れてきて!



「おう、篠崎、客をいっぱい連れてきてやったぞ、お前のその自慢のカレーを食べさせろ、うははははは」





 ブッコロス!





 なくなっちゃうじゃん!



 うううううう、コロス、もう……………うう……………。



 ご飯もルーもちょっとにしちゃえ……………うう。



 え、お、お、おかわりって……………、



 ふ、ふ、ふ、ふざけるなよおまえええええ……………………ウエエン……………。



 は、は、早く来て、杉本君!

 はやくーーーーーーーーーーーーーーーーー!














 雨に濡れながら、私は空っぽになったずんどう鍋や、食器を洗っている。



 カレーは完売した。



 物凄い人気で、あっという間に行列が出来て、先生達も全員が並んで、おまけに校長先生が絶賛して、今回の文化祭の最優秀店舗企画に選ばれて、表彰までしてくれるそうだ。



 ううう、……………うううう、……………うう……………。



 ………………………………………ひっく……………。



 そんなものはいらないよ。



 わたしは、……………わたしはただ杉本君に、…………………………カレーを…………………………、ふぇぇぇん、……………………………。



 秋の雨が涙を洗い流して、私は心も身体もびしょびしょだ……………………。



 私のタタカイは………スパイスの香りとともに………惨敗に終わった………。








「何だ篠崎、またお前濡れてんじゃん、どんだけ雨が似合うんだよ、ははははははは」



 え、あ、あ、スギモト………………クン………………。



「ほら、傘持ってろ、鍋ぐらい洗ってやんぜwww」



 あ、………、ワタシビショヌレデトンデモミットモナインデスケド…………。



「ふーん、なるほど………………ね………………」



 ………………え………………、な、なんのこと?



「すごいなあお前、スパイス使いこなしてんじゃん、それに最後にヨーグルトか、どんだけ本格的インドカレーだよ、ははははははは」



 ………………え、………………ん、なんでそんなことがわかるの?



「俺もカレーマニアなんだ、スパイスも嗅ぎ分けられるぜwwww、クミン、カルダモン、コリアンダーか!」



 ええっ!



「篠崎、お前のこのカレー、すごい評判だぜ、担任のハゲ眼鏡とか、『もう他のカレーは食えん』とか言ってるし、どんだけだよってwwww」




 ………………………………




「ほい、終わり、終了www」




 あ、………………ありがとう………………。





「んであらためてお前に勝負を挑みたい!」




 ………………えっ………………!




「カレー対決だよ、あたりまえだろう、スギモト神カレーと評判をとる俺としては、お前の存在は見逃せん。改めて勝負だ。俺んちは厨房広いんで、今度の日曜、クラスの奴ら呼んで勝負だかんな、あ、ハゲ眼鏡もよんでやろう。逃げんなよコラ、傘かしてやったし、鍋も洗ってやったんだからな、逃げんなよコラ!………………………………あ……れ、………お前なに泣いてんだよ、まるで俺が泣かしたみたいに見えるじゃんよ、………こら………おい……………篠崎ってばよ、…………おーーーーい!」





 おしまい


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