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バーベナなんていらない  作者: ゆうま
9/15

第8話 手に入れるということ

生存者:岸、金井、村田、戸羽、他3名

死亡者:喜多、小野寺、片瀬、他2名

「これはどういうこと。どうして空席が2つ増えてるの」


全員の視線が村田さんを刺す


「1日目はたまたま人狼と動きが被ったんだと思いますけど…」

「そう主張するしかないですね。峯さんを占った理由を聞かせて下さい」

「自分…畠中さんを占ったんです…」


全員が、金井さんまでもが、呆けた顔をしている


「だって昨日の様子おかしいじゃないですか…!お互いを占い合ったって黒だって言い合うことになるって思ってました。でも、自分昨日片瀬さんに……だから、早く人狼見つけないとって…!」

「それなら園田さんを占った方が良いと思いますが」

「白なら狂人だってなるだけだと思いますけど…!本当に村人だったら負けます!負けてしまいます!」


確かに一理ある

だけど、興奮していまっていて、まともに話し合いが出来そうにもない


「畠中殿が妖狐という認識で全員よいのでありますな」


全員が静かに返事をした

村田さんは騒ぐかと思ったが、思ったより落ち着いているのか


「峯さんはなんの役職も自称していない。それなのに峯さんを襲ったということは、よほど特殊な理由がない限り、人狼は狂人を特定出来ていない」

「更に言えば、人狼は片方が役職を自称しています。だから潜伏している占い師か霊能者を潰そうとしています」


役職自称組に人狼、狂人、本物が1人ずつ

残りの4人は村人が2人、人狼が1人、本物の占い師か霊能者が1人

用心棒が生き残っていれば、僕でない方の村人が用心棒


「昨日片瀬さんが言ったことだけど、的を得ていると思う」

「僕もそう思います。畠中さんと片瀬さんを除いて投票をやり直しても同じ結果になるだけですからね。園田さんに入れられなかった村田さんが人狼であると見るのはおかしなことではありません」

「人狼は狂人を見つけられていないという仮定もあります。つまり、人狼は村田さんと園田さん。2人を処刑すれば狂人は死ぬのでどちらでも良いです」


それでも生き残った人狼が狂人を襲わない限り、もうあと1人死ぬことになる

なんとか狂人に誘導して生き残りを…


「待つであります!まだ話しは終わっていないであります!」


金井さんと多岐川さんが広間を出て行こうとしていた

歩き出した園田さんの腕を掴んで止める


「今話してもなにも変わらない。違うって言うなら夜の話し合いで証明して。聞かずに投票なんてさせないから」

「…分かったであります」


広間を出たその足で屋上へ行こうかと思ったが、昨日そのまま寝たためにシャワーを浴びていないことを思い出して部屋に戻った

鏡を見ると目の腫れは随分良くなっていた

片瀬さんのことを思い出しても涙はもう出ない


「薄情だな…」


その呟きは反響して僕に返ってくる

言われなくても分かっている

なにが「アンモナイトは許されない」だ

過去を手放すつもりなんかない


「…風に当たろう」


屋上に後悔が増えた

それでも僕は屋上へ行く

理由は馬鹿だから

僕が馬鹿で愚かで、力を持たず守れなかったから

だから後悔が増える


「遅かったですね」


寝ころんでいた身体を起こして体育座りになる

僕もその近くで体育座りをした


屋上にいても一緒にいるのが金井さんだと、やっぱり不安な気持ちになったり焦燥感に駆られることはない

彼女と風貌が似ていないからなのか、笑顔が想像出来ないからなのか


「シャワーを浴びずに寝ちゃったから」

「そうでしたか」


…あれ?無言

なにか用があったんじゃ?


「峯さんとは以前からの知り合いですか」

「違うよ。そう見えたんだ」

「人狼に襲われたのが峯さんだと知ったときショックそうでした。でも、その後何事もなかったかのように普通に話していました。なので、なんとなく分かっていたのでは、と思っただけです」


本当はあの言葉の真意なんて、聞くまでもなく分かっていた

今夜僕が人狼に襲われる心配がないということだ

もっと言えば、自分が襲われるだろうと示唆していたことになる


「それが以前からの知り合いってことにはならないと思う」

「見ず知らずの者に差し出せるものではありませんよ。命は」


知っている人にも差し出したくない

誰かのために死ぬなんて、そんなのは嫌だ

その人に命の押し売りをしているようなものだ

望んでいるならまだしも望んでいるかなんて分からない

無責任に押し付けてくる人は、嫌いだ


「どんな話しをしたのか、聞いても良いですか」

「峯さんが占い師だって、どうしようって言っていたって言ったら信じるの」

「信じません」

「そういう話し」


再び仰向けに寝転ぶ


「過ぎればどうでも良いけれど、とても大切な話しだったんですね」

「言葉にするとそうなるんだ」

「聞いてもいないのに分かったようなことを言ってすみません」

「悪い意味で言ったわけじゃない。その通りだと思って感心したんだ」

「そうですか」


そう、僕は確かにここで峯さんと約束をした

もうどうしよもない約束だけど、確かに交わしたんだ


「…ひとりの方が良さそうですね」

「なにがあっても、なにもなくても、僕はひとりが好きだよ」


そうしたら誰も傷付けない

誰からも傷付けられない


友達も仲間も必要ない


独りで生きていきたい


「でも戸羽さんは人に手を差し伸べます。どうしてですか」



―――――

「そんなつもりはないよ」

「分からない」←選択

―――――



「…分からない」

「そうですか」

「それが救いになるとは限らないと分かっていて、どうして僕は…」

「でも、手を差し伸べなければ絶対に救えません」


立ち上がるとドアへ向かって歩いて行く


「冷めた目をしている戸羽さんよりも、人のために奮闘する戸羽さんの方が素敵です」


そりゃ誰だってそうだ

だけど僕は冷めた目で見ていたい

なにかを得るということは、いつか必ず失うということ

僕はそれが怖い






                    ***






ふと顔を上げると時計は12時40分を指している

体育座りをしたまま寝ていたらしい

昨日から変な体勢で寝てばかりで身体のあちこちが痛い

立ち上がって伸びをすると、食堂に向かった


「…またカレー」


昨日はサラダがついていて、今日はカツがついている

でもね、そういう問題じゃないんだ

…文句を言ってもメニューが変わるわけでもないし食べよう


「いただきます」


言った瞬間食堂のドアが開いた


「今朝のこと、感謝しているであります」

「なにかした覚えはない」

「戸羽殿がそう言うのであれば、そうなのでありましょう」


穏やかな笑みを浮かべて僕の正面に座る


「どうして向かいに」

「一緒に食べた方が美味しいでありますよ」

「それは仲が良い者同士に限ると思う」

「例えどちらかが人狼側だったとしても、食事時くらい忘れても良いと思うのであります」

「つまり一個人として話しているってことになる」

「そうであります」

「それなら尚更他へ移ってくれないかな。僕はひとりが好きなんだ」


ここまではっきり言えば別の席へ行くだろう

だけど園田さんはスプーンを握りしめたまま俯いただけだった


「…戸羽殿の様子が気になったのであります」

「金井さんにも言われた。そんなに顔に出ていたかな」

「顔や態度、声色などには少しも出ていなかったであります」

「それならどうして気になったの」

「パーカーの引き手を握りしめていた自覚はないのでありますな」


バレバレだよ

なにか言いたいことがあるけど言えないときはいっつもブレザーのボタン触るんだから

ほらほら、言ってみなされ


彼女に指摘されたことがあった

忘れてしまっていたのか、思い出さないようにしていたのか

どちらにしろ、その前後の会話は思い出せない


自分で証明したんだから仕方がない

僕らは永久不変ではいられないんだ

彼女を忘れていってしまうことは、僕が変わっていく証拠


「んー、それがどうかしたの」

「昨日片瀬殿が処刑されたとき、パーカーの引き手を握りしめていたのを自分は見たであります。昨日は気にしていませんでしたが、今朝も同じ仕草をしていたため、気になったのであります」

「良く見ているんだね」


園田さんと視線がぶつかる


「なにか思い当たることがあると見受けたであります」

「どういう意味」

「例えば…嘘を吐こうとしているときの仕草だと指摘されたことがある―――なんてどうでありますか?」

「それ、話し合いで言わなくて良いの」

「本当にそう思っているのなら、そうするであります」


水を勢い良く飲む

少し辛い


「分からない」

「本当でありますか」

「本当。ただ、」

「ただ」

「泣いちゃいけないって思っていた」


食べ物に感謝の言葉を告げて、食堂を出た

園田さんがどんな表情をしていたのかは、見ていない

生存者:園田、佳賀里、岸、金井、村田、多岐川、戸羽

死亡者:喜多、小野寺、片瀬、峯、畠中

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