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バーベナなんていらない  作者: ゆうま
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第5話 キス

生存者:園田、峯、佳賀里、畠中、岸、金井、村田、多岐川、片瀬、戸羽

死亡者:喜多、小野寺

「…「永久不変は叶わない」」

「え?」

「それが、僕が参加した「ギャンブルの塔」のタイトルの意味です」


峯さんが優しく微笑む


「戸羽さんは永久不変を願ったんですか?」

「それを願う人に叶わないと証明しました。でも、僕もどこかで願っていたんだと思います。だから証明したんです」


だけど彼女が既にこの世に存在しないことは、永久不変だ

もし黒魔術や錬金術で死者を蘇らせることが出来たとしても、彼女が死んでいたという事実は変わらない

僕の目の前で、笑顔で、学校の屋上から―――

それだけは変わらないんだ


「雨が降らないと虹は見えません。未来が希望的とは限りませんが、永久不変が良いことだとも限らない。そういうことで良いんじゃないでしょうか」

「…そうですね……」


永久不変でないことに意味があると言うのなら

彼女が話したことを忘れていってしまうことに、意味はあるのだろうか

彼女の笑顔がぼやけていってしまうことに、意味はあるのだろうか

彼女を忘れたくないと思うことに、意味はないのだろうか


「戸羽さん」

「はい」

「今日は安心して寝て下さい」

「どういう意味ですか」


握ったままだった手が優しく包まれる


「大丈夫ですから」


再度聞こうと息を吸う

でも微笑みに遮られ、言葉にすることは出来ない

そっと手を離すと立ち上がる


「峯さん」

「また広間で」


閉められてしまったドアを開けても追いかけることは出来ない

例え見つけられたとしても、なにか聞き出せるとは思えない

それでも僕はドアノブを回した


「―――っ」


叫びそうになるのをなんとか堪えた


「…………」


多岐川さんも驚いた表情をしている


「…トイレで待っていれば会えるとは思っていましたが、まさかそんなところから登場するとは思いませんでした」

「僕を待っていたんですか」

「はい」


今出て行ったばかりの峯さんを見てはいないだろう

早く探して…


「屋上で会っていた誰かを探そうとしているんですか」


出て行こうとしていた足を思わず止める

もしかして誰かが不自然にここから出て来たからそんなことが言えるんじゃないか


「その人は別れる前、なんと言っていましたか」

「また広間で、と。それがどうか――そうか」

「相当慌てていたようですね」

「闇雲に探すところでした。助かりました」


峯さんは階段のある、あの妙な部屋に直前までいる気だ

全員かどうかは分からないが、屋上の出入口は異なっている

僕が峯さんと階段の部屋で会えなかったということは、少なくとも僕と峯さんの出入口は違うことになる


「僕をここで待つくらいなら屋上に来た方が早いと思います」

「まだ屋上への入り口を見つけられていないんです」

「そうでしたか」


多岐川さんに場所を移動する気はなさそう

変に場所を移動して誰かに見られると密談と言われて人狼に仕立て上げられるかもしれないし、止めた方が良い

気になっていたことを聞いてみるか


「どうして1人少ないんだと思いますか」

「なにがですか?」

「役職を自称している人数です」

「人狼が両方潜伏とかですかね。でも、どうして僕にそんなことを聞くんですか?」


さっきから、わざと分からないフリをしているのか?


「どんな役割にしろ、そんなことをしそうなのは金井さんと僕、多岐川さんくらいだという第一印象からです」

「面白いですね。でも、言って良いんですか?僕が人狼だったら今日襲われてしまうかもしれません」


今日処刑されるとは言わないんだ

多岐川さんの中では、もう片瀬さんから動かないとみなされている

確かにこれからもいちいち話しに上がっていては面倒だ

でも、だからって…


「僕が人狼なら僕は殺しません」

「どうしてですか?」

「残しておいても害がなさそうだからです」

「自己評価が低いんですね。僕はお昼過ぎからずっとここで待っていたというのに」


トイレに最低2時間はいたってことだよね

よくやるよ


「さっきも言っていましたね。僕になんの用ですか」

「特に用はないんです。ただ、2人で話してみたかっただけです」

「どうしてですか」

「大切な生徒と同じ雰囲気があるから―――でしょうか」


学校の先生か塾講師かなにかだろうか


「その生徒は他人を見捨てますか」

「現状のままなら片瀬さんのことは絶対に見捨てますね」

「どうしたら片瀬さんを…いや、違う」


人狼か狂人、妖狐を見つけて指摘しない限り片瀬さんはいつまで経っても処刑される危険がある

今回誰かに標的をズラせたとしても、その人が村人側なら無意味な犠牲となってしまう


「…こんなことは正しくない」


いじめの縮図だ

だから僕は人狼ゲームが嫌いなんだ


「誰かを人狼側や妖狐だと僕を説得出来るなら、協力します。僕の言うことが正しいと思えば必ず金井さんも加勢してくれます」

「園田さんが処刑先を誘導しています。園田さんは人狼側と見て間違いないと思います。でも、それだけでは場を動かすことは出来ない」

「そうですね」



―――――

峯のことを話す

誰が人狼だと思うか聞く

立ち去る←選択

―――――



峯さんの最後の発言が気になる

でも、なんとなく言ってはいけない気がした

これが正しい判断かは分からない


彼女が言っていた

だから僕はそれに従っているだけ


人間は常に合理的に合理的な判断をするわけでも、出来るわけでもないんだよ

だから、その人の気持ちを大切にしてあげてほしいんだ

それが悲しい結末を迎えると分かっていても

正しくないと分かっていても


僕はなんとなく、本当になんとなくだけど

峯さんのその決断が悲しい結末を迎える気がしている


多岐川さんに人狼が誰だと思うかを聞いても意味がない

僕と同じ考えだと言うだけだろう


「片瀬さんは屋上に来ると思うので、待ちます。多岐川さんに頼むことがあるかもしれません」

「打ち合わせをしている時間は今しかないと思います」

「流れで察して下さい」

「無茶を言うんですね」

「出来ませんか」

「引き受けます」


まるでゲームマスターが浮かべるようなニタニタとした笑顔を浮かべている


「楽しみにしていますよ」

「処刑されるのは多岐川さんかもしれません」


そう言い残して屋上に向かった

そんなことにならないことは分かっている

自分の処刑に手を貸すはずがない


「…やっと来れた」


目的の人物が現れたのは多岐川さんとの会話から1時間半が経とうとしていた頃だった

18時まで残り1時間

ドアが見えるように寝ころんでいたんだから僕が待っていたことは分かっているだろう

僕の隣で体育座りをすると空を見上げる


「言い合える人が初めてだったから、多分浮かれてたんだ。殺し合いってこと、忘れてたのかもしんない」

「それは良くなかったね」

「うん。…聞きたかったんだけどさ、昨日なんでアタシにも喜多にも入れなかったわけ」

「どっちも村人側だと思うから。園田さんを指したのは偶然前にいたから。それだけ」


ため息を吐いて寝ころぶ


「でも今日はアタシに入れるんじゃん?」

「さっきも言ったけど、僕は片瀬さんが人狼側や妖狐だとは思わない。だけど僕には流れを変える力はない。慰めにもならないと思うけど、入れるつもりはないよ」


あれだけ時間があったのに、片瀬さんに票を集めない方法は思い付かなかった

もうすぐある話し合いで最初にそういう発言をした人に標的を向けるやり方

これを考えなかったわけじゃない

でも、あまりに成功率が低い

噛みつけば本来入るはずのなかった票まで入る可能性もある


「そ。アタシ「ギャンブルの塔」でも信じてもらえなくてさ。だから…ありがとう」


そう言って片瀬さんは笑った

でもその瞳から涙が零れる


「アタシだって沢山人を殺したくせに、自分のときだけこんな…卑怯じゃん」

「誰だって死ぬのは怖い。僕はそれだけでここまで来てしまった」


生きたいと思ったことはない

死にたいと思ったことなら、一度だけある

僕がここにいるのは死ぬのが怖いから

ただそれだけ


「ねぇ―――キスして」

「どうして」

「そういう気分なの。それに戸羽、よく見ればイケメンだし」

「僕のキスなんてどこへ持って行っても土産話にもならないよ」

「しないよ。アタシと戸羽だけの秘密」


身体を起こして目を閉じる



―――――

キスをする←選択

キスをしない

―――――



小さく震える肩を抱きしめて、そっと唇を重ねた

生存者:園田、峯、佳賀里、畠中、岸、金井、村田、多岐川、片瀬、戸羽

死亡者:喜多、小野寺

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