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バーベナなんていらない  作者: ゆうま
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第3話 信じたい

生存者:園田、峯、佳賀里、畠中、岸、金井、村田、多岐川、片瀬、戸羽

死亡者:喜多、小野寺

今までにあったことを整理しよう


まずは占い師

名乗り出たのは村田さんと畠中さん

村田さんが占った小野寺さんは死に、畠中さんは片瀬さんを占って白

それぞれの占い先の言い分は分かる


ただ、村田さんが小野寺さんを占う理由が弱い

確かに小野寺さんの態度は芝居臭くて気になったし、関わりたくなかった

だけど、目立ったら負けってところがあるゲームでわざわざ目立つ理由が分からない

人狼以外の役職持ちでなにかシナリオがあった可能性がある

それとも、2人を陥れるためだけで、役職はなかった?

普通にしていた方が生き残り易いから意味はない

でも、小野寺さんがなにに拘っていたのか分からない以上、気に留めておく必要がある


それから、金井さんと多岐川さんを占わなかった、という不思議もある

信頼している人物をこれからも信頼したい

早めに人狼だと分かれば裏切られたショックが少ない

それは誰だって思うことで、心の弱そうな村田さんが一番しそうなこと


片瀬さんが今日処刑されると思うなら、片瀬さんを占った方が信頼を得られると考えても良い

ただ、村田さんは少し甘そうだ

だから、本当のことを言っている自分が信じてもらえるはず、とか他に占い師を名乗る人がいる可能性を考慮していなかった、とかはあるかもしれない

いや、それは甘いわけではなく馬鹿だ

予想外の出来事に混乱したのかもしれないが、村田さんはきちんと対抗について考えたはずだ


畠中さんは一先ず不自然な部分はない

怪しいところをひとつずつ潰していくるのは普通のこと


霊能者を名乗った佳賀里さんと岸さんは情報が少ないから考察は難しい

佳賀里さんが多岐川さんの言うことを無視して名乗り出たこと、態度、園田さんとの視線、それらが気にならないことはない

でも、本当に自分の身を案じてのことだった可能性を捨てるには小さな出来事


村田さんが本当に占い師だとするなら、用心棒の守りが成功したことになる

あの時点では誰も役職を名乗り出ていなかった

用心棒が誰を守ってもおかしくはない

だから考えるべきは、人狼は誰を襲おうとしたのか、だ


脅威になりそうなのは多岐川さんと金井さん、園田さん…かな

ただ、あまり感情的な人や話さない人ばかり残すと理論的な話しが出来なくなる

ゲームに勝ち残ってきたはずなのに、落ち着いて冷静に考えられる人が少ない

僕が人狼ならもう少し考え方が全員に行き渡ってから殺す


だから初日に選ぶべきは発言しない人

考えを理解していたとしても、発言しなければ意味がない

だとすると狙う可能性が高いのは、村田さん、峯さん、岸さん、小野寺さん、僕

畠中さんと佳賀里さんは発言こそないけど一言が目立ちそう

まだなにも把握出来ていない時点で襲う人物ではない


小野寺さんではないということは、残る選択肢は4人

ここから先は仮説を立てることも難しい


もうひとつ考えるべき可能性は、喜多さんが用心棒である可能性

喜多さんが占い師か霊能者なら言えたはず

でも、言わなかった

場をかき回さなかったということは、狂人の可能性は低い

あの状況なら本物の霊能者が黒だと見ない限り黒だという発言はしない

喜多さんが用心棒である可能性は高いと思う

…もし役職持ちなら


ただ、それなら村田さんは嘘を吐いていることになる

狂人なら立派な仕事ぶりだ

妖狐なら自分が妖狐ですと人狼に言っているようなものだから妖狐ではない

村田さんが…


「人狼か狂人…」


僕が一番気になるのは役職を自称した人数だ

占い師1、霊能者1、人狼2、狂人1、妖狐1

この場合、役職を自称する人物は普通5人いる


狂人は人狼にアピールして夜襲われないようにしなくてはいけない

妖狐はどちらかを勝たせなければいけない

占い師を自称して場をコントロールするのがセオリー

人狼も妖狐と同じ理由で片方が占い師を自称、片方が潜伏するのがセオリー


だけど今役職を自称しているのは占い師2、霊能者2

どちからが偽物同士なのか

人狼が2人とも潜伏なのか

狂人か妖狐が出るタイミングを失ったか


仮に人狼が2人とも潜伏なら園田さんは人狼と見て良いと思う

もうひとりは金井さんか多岐川さんだろうな

これはただの印象だけど、どんな役職だろうと潜伏なんてことをするのは2人か僕しかいない


「分からないことが多い…」


黙っていれば早々に処刑されることはない

でも、襲われる危険はある

誰がどう考えるのかなんて分からない

ましてや僕は他の3つのゲームでなにが起きたのかすら分からない

どう出るのが正解に近いかなんて、分かるはずもない


「あ、戸羽さん。自分も良いですか…」

「どうぞ。ここは誰の場所でもない」


この一人称と語尾が弱くなる話し方は…

…ため息が吐きたい


「ここに来なかったら今頃学校の屋上でこうしていたんでしょうか…」

「今は授業中だと思う」

「そうですね…」


僕の傍に体育座りをして空を見上げる

その人は、僕の予想した通り村田さんだった


「自分がいなくても、自分がいた小さな世界ですら変わることなく回ります。自分はそれを寂しいと思いますけど…、戸羽さんはどう思いますか?」

「今はここが僕の小さな世界だよ。昔いた世界のことなんて知らない」

「かっこいいです…。自分はそんな風には思えませんけど…」

「そうかな。どこにだって不条理は存在する。それを自身が許容しているかしていないかだけの問題だと、僕は思う」


大きなため息を吐いて大の字になって寝ころぶ


「…自分、学校では空気だったんです。いじめの対象にすらならない、つまらない人間なんです」

「意外だよ」

「いじめられてそうって聞こえますけど…」

「決して違う。村田さんは人と向き合える人だと思ったから、多くはなくても友達がいると思っていた。それと、怒られると思った」

「どうして自分が…?分かりませんけど…」


身体を起こすと、村田さんの目を見る

戸惑った様子を見せたけど、僕の目を見返してくる


「殺し合いを許容しているのかって怒ると思った」

「言葉への仕方は違うと思いますけど…。自分は「こんな世界があることも仕方がない」と思っていたので…」

「それはきっと、僕みたいな長い物には巻かれろタイプか、村田さんみたいに覚悟を決めた人にしか思えないことなんだろうね」

「覚悟…ですか」

「そう、覚悟」


再び仰向けになる

こうしていると、あの頃を思い出す


「僕だったらすぐには言えない。信頼されないのが怖いから」

「自分だってそうです…。この役を全う出来る自信なんてありませんけど…」


何故「占い師」じゃなくて「この役」なんて言うんだ


「戸羽さんは自分のこと、信頼出来ませんか」


今度は村田さんが身体を起こして俺の顔を覗く

その目は怯えているけれど、とても真剣だった


あの日の彼女と同じ


だから僕は―――

目を逸らせない

嘘を吐けない

誤魔化せない


「…今まで沢山人を殺してきたはずなのに、あの怯え方は大袈裟かなって思った」

「そういう場面はありましたけど…。自分で直接ではないから動揺してしまいました…。今回も直接とは言わないかもですけど…。自分だけの行動が原因なので…」

「言い分は信じられる。でも役職は全面的に信じるわけにはいかない」

「少しは信じてくれてるって聞こえますけど…」

「そう言ったつもりだよ」


不自然な点はある

だけど現時点では畠中さんと比べてどうこう言うレベルじゃない

情報が足りない

今考えたことは全て仮定の上に成り立つ話しで、どれが正しいかはまだ分からない

だから今は、目の前にいる村田さんを信じたい


「だからひとつ教えてほしいことがあるんだ」


金井さんと多岐川さんを占わなかった理由

それをはっきりと本人の口から聞く


「はい」


立ち上がって嬉しそうに笑う

村田さんの足が向かっているのは柵

笑って柵に、向かっている


行かないで


聞かないと


「どうして―――ここに来たの」


どうして僕の目の前で、笑顔で―――


「え、えっと、戸羽さん…どうしたんですか?」


村田さんの手が肩に振れた

かがんで僕の顔を心配そうに覗き込んでいる


「顔色が悪いですけど…」

「あ、いや、大丈夫」

「そうは思えませんけど…」



―――――

手を振り払う←選択

質問をし直す

―――――



「大丈夫だって」

「立ち入ってしまったみたいですね…。すみません…」


僕が振り払った手をもう片方の手で包むと悲し気に俯く


「感情的になってごめん」

「謝らないで下さい。自分が踏み込み過ぎたんです…」

「そんなこと」

「自分、行きますね…。すみませんでした」


言葉を遮って言い、深めのお辞儀をすると慌てて出て行ってしまう

いつの間にか立ち上がっていた身体を地面に預けて偽物の空を仰いだ


「上手くいかないな…」

生存者:園田、峯、佳賀里、畠中、岸、金井、村田、多岐川、片瀬、戸羽

死亡者:喜多、小野寺

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