第2話 次は…
生存者:園田、峯、佳賀里、小野寺、畠中、岸、金井、村田、多岐川、片瀬、戸羽
死亡者:喜多
ドアをノックする音で目が覚めた
時計は8時5分を指している
「誰?」
「多岐川です」
ドアを開けると金井さんもいた
「おはようございます。全員の安否を確認しています。良かったです」
「ご苦労様です。…おやすみなさい」
「待って下さい」
ドアを閉めようとすると足を挟まれる
仕方なく再度大きくドアを開ける
「朝集まって占いの結果なんかを聞きたいなって思っているんです。参加してもらいたいです」
「分かりました」
多岐川さんに頷くと、後ろから金井さんが顔を出した
「鏡、見た方が良いです」
「急に訪ねて来られて鏡を見る暇もなかった」
「それはすみません」
昨日からずっと一の字だった口が右端だけほんの少し緩んだ
「僕たちは他の参加者に声をかけるので、昨日の広間に先に行っていてもらえますか」
「はい」
酷い寝ぐせを水で押さえてクローゼットにある全く同じ服に着替える
広間へ行くと片瀬さん、畠中さん、岸さん、村田さんがいた
男性陣に混じって片瀬さんがいるのは落ち着かず起きていたせいだろう
多岐川さんと金井さんが来て座ると、村田さんがなにか言いたそうに口を開く
それを首を振って止める
園田さんが来て空席は2席になった
全員揃ったことになる
昨日の夜人狼に襲われたのは小野寺さん
「ひ、人を殺して…しまいましたけど…!」
動揺して言う村田さんの言葉に全員が驚いた様子を見せた
人狼がそんな告白をするとは思えない
どういう意味なのか、全員が村田さんに注目した
「自分、昨日…小野寺さんを、占ったんです…」
占った人物が死んだということは妖狐
そして、護衛が成功した
初日の夜にそんなこと、都合が良過ぎる
ただ、起こらないわけじゃない
対抗が出ないなら一先ず村田さんを占い師として見る他なくなる
でも、きな臭い
「それは嘘だ。俺様が占い師だ。昨日片瀬クンを占った。白だ」
「畠中さんはどうして片瀬さんを占ったんですか?」
「もし人狼ならあれだけ目立って役職持ちかも分からない喜多クンを嵌めるのは愚策だが、可能性はひとつずつ排除していくべきなのでな。占う明確な意図がない人物よりも有効だと考えたのだ」
嘘にしても本当にしても、意外と頭が使えるんだ
…流石に失礼か
「賛成出来る意見ですね。村田さんはどうして小野寺さんを占ったんですか?」
「自分は、片瀬さんは今日…、その…かなって」
ちらりと片瀬さんを見て肩をびくりとさせる
「それで…、小野寺さんは畠中さんと岸さんを怖がってる?のが、芝居っぽかったので…なんでだろうなって思っただけなんですけど…」
「一理ある意見ですね」
「それはアタシに今日死ねって言ってんの?」
「そうではありません。ただ、身の振り方を考えないとそうなりますよ」
口調は今までの柔らかい物言い
でも今までとは全く違う、低い声
流石に片瀬さんも黙った
「霊能者は喜多さんが人狼でなければ今日は名乗り出ない方が良いと思います」
「何故でありますか」
「用心棒が守れるのはひとりだけです。無駄に役職を明かす必要はありません」
「確かにそうでありますな」
園田さんはなにがしたいんだろう
昨日の発言を深読みすることは意味のないことなのだろうか
…ん?
「しかし我は今日の処刑に選ばれないかが心配なので言わせてもらおう。我こそが霊能者である。そして喜多。ヤツは白だったのだ」
今2人の視線がぶつかった…?
「アケルナーの向こう側」の2人は常に園田さんを気にしているし、たまたま園田さんが佳賀里さんの方を向いただけかもしれない
もし園田さんが人狼だとしても、まだ狂人は分かっていないはず
それならあの視線はなんだろう
「そ、それは嘘だよ。僕が、本物の霊能者だから。だ、騙されないで」
「結果を聞かせてもらえますか」
「じ、人狼ではなかった。え、と白って言うのかな」
「そう言うことが多いですが、言い方は気にしなくても大丈夫ですよ」
大きく息を吐くと全体を見回す
「今日は占い師と霊能者を自称した4人と自称占い師が占って白だとされた片瀬さん以外の僕、金井さん、園田さん、峯さん、戸羽さんの中から選ぶことになります」
「どうしてですか?村田さんか畠中さん、佳賀里さんか岸さんが嘘を吐いてるんですよね」
「そうです。でも、確証もなしに処刑するのは危険です。人狼側のみが残った場合村人側に勝ち目はありません」
「確かにそうです。でも、人狼が1人潜伏だとして1/5ですよ。そっちの方が当たらないじゃないですか」
いきなり名前が挙がって驚いたのか、峯さんは相当慌てている
人狼になにかの形で利用されないと良いけど、どうかな
「自分も犠牲になって村人側を勝たせようという精神はないであります。どちらが嘘を吐いているのか分かる方法はないのでありますか」
園田さん…分かって言っているのか
それならもう、園田さんが人狼意外に考えられなくなる
こんなに序盤からとばすかな、普通
それに自分になってしまう可能性だってある
「ひとつないことはないです」
平坦な声の主に視線が集まる
「自称占い師が全員同じ人物を占い、その次の日にその人物を処刑します。自称霊能者が白か黒か見る。4人全員が一斉に結果を言う。そうすれば分かる場合もあります」
小さく頷いて多岐川さんが言葉を続ける
「ただ、同じ結果を言えば意味がありません。それに、確実にひとりが「勝利のため」に死ぬことになります。それに、占った人物が人狼に襲われては元も子もありません」
「誰か死ねますか。そう聞かれて手を挙げられる人はいないと思います。なので、実質不可能です」
俯いていた園田さんが顔を上げる
その視線の先には片瀬さんがいる
「そんなの無駄に決まってんじゃん!畠中は結果を言ってんだよ?!」
「それは片瀬殿が本当に白だった場合であります」
自分が処刑されるかもしれないからと言って片瀬さんに擦り付けようとしているにしては落ち着いている
それに、一応話しの流れには沿っている
言い表せない違和感が拭えない
佳賀里さんと岸さん、峯さん、村田さんが片瀬さんに視線を向ける
畠中さんは意地でも見ないつもりだろう
多岐川さんと金井さんは片瀬さんを気にしながらも俯いている
流れに逆らうことは出来ないと思ったのだろう
片瀬さんと目が合った
―――――
片瀬を擁護する
視線を逸らす←選択
―――――
「っ!」
片瀬さんは走って広間を出て行ってしまった
いくら園田さんへの違和感を言葉に出来ないからって、方法はあったはずなのに
明らかに片瀬さんは人狼や狂人、妖狐ではない
今夜片瀬さんを処刑することは村人側に損しかない
流れを作った園田さん
方法を提示した金井さん
場を仕切っている多岐川さん
この中の誰かが潜伏人狼
いや、そう考えるのは早計か?
ここで下手に動けば人狼に狙われるかもしれない
ただ、動いた者がいなくなればいなくなって有利になる者が疑われる
それを避けるために不干渉である者を襲う場合もある
「では解散にしましょう」
多岐川さんのその声で散り散りに広間を出て行く
こんなときでも微笑んでいる多岐川さんは一体どういう心の持ちようなんだろう
そして、こんなときでも3人で行動する「オダマキは救えない」の3人は一体…
ここではなんとなく落ち着かない
思考を整理するためにも、どこか落ち着ける場所を探したい
階段の下に出来るような、ちょっとしたスペースがある
でも近くに階段はない
「…ここの隅で良いか」
僕は猫なので狭くて暗いところが好きだ
壁に手をついて座ろうとすると、壁が回転した
広いスペースの真ん中に螺旋階段がある
僕は馬鹿なので取り敢えず見つけた階段を昇る
階段が隠されていた理由とか、こんなにスペースがあるのに螺旋階段である理由とか、考えたって分かりそうにもない
馬鹿と煙は高いところが好きなんだ
昇った先にある扉を開けると、そこには青空が広がっていた
風も吹いている
床はコンクリートのタイルで、学校の屋上を思い浮かべる
良い思い出も悪い思い出もない
あるのは後悔だけだ
この建物の全容や周辺を知るチャンスだと思った
でも、下を覗けばあの光景が広がっているのかと思うと、覗く気にはなれなかった
僕には柵を超える勇気どころか、下を覗く勇気もない
柵が視界に入らないように寝ころんで、しばらく空を眺めていた
それで、気付いてしまった
空を流れる雲が一定の周期で見られること
風が同じ間隔で吹いていること
どうしてこんな場所を作ったのか
それを考えることは無駄なことなのだろう
僕が知り得る事実は、ここが室内だということだけだ
――そろそろ考えをまとめよう
生存者:園田、峯、佳賀里、畠中、岸、金井、村田、多岐川、片瀬、戸羽
死亡者:喜多、小野寺