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バーベナなんていらない  作者: ゆうま
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第14話 アパサイトとアマリリス

「始まりますよ」


男が見た方を見ると、ただの壁だったはずの場所に画面がある

今僕がいる部屋と同じような部屋に入った金井さんと多岐川さんが映っている


違う部分は3つ

運営側の人間がいないこと

画面が1つしかないこと

台があり、そこになにかが置かれていること


『第3回戦「バーベナなんていらない」お疲れ様でした。第4回戦は「ロシアン銃」です』


無機質な機械の声が画面に流れる文字を読み上げる


『銃を選んで下さい。一丁だけ全く弾が入っていない銃がありますので、是非探して下さい。重さが違うので、触れることは出来ません。銃に触れた時点で決定となります。このゲームのタイトルは「マリーゴールドを撃ち抜け」。ゲームスタートです』


タイトルが決まっている…

これまでも後から聞いただけで、元々決まっていたのだろうか

それとも、このゲームの攻略のヒントになっているのだろうか


『6丁ありますね。全て「名前当てゲーム」のときの花瓶に生けてあったものですか』

『はい』


画面にはそれぞれ彫られている花が拡大されて表示されている

でに僕にはそれがなんという花なのか分からない


『多岐川さん、この――』


ザザザッと耳障りな音が響く


『相談するのはNGです。自分の運命は自分で切り開いて下さい』


続いて聞こえた無機質な声に多岐川さんが笑う


『では僕は――』


多岐川さんが壁に向かって歩き出す

しゃがんでなにかすると、金井さんの方を振り向く


『これにします』

『この6丁の中にその銃があるとは言っていませんでしたから、そういう選択肢もあると思います』


この言い方はやっぱり気付いている


『私はこれにします』


男はにやにやと笑っている

そりゃそうだ

金井さんが勝つと分かっている賭けに大きく負けるということは、金井さんが死ぬということだ

恐らく金井さんがなにを選んでも変わらないのだろう


でも、いくら高確率でタイトルの意味が分かる者が勝つと分かったところで「ここ」がそんなことをするだろうか

本人の意志決定とは関係なく死ぬしかないとは思えない

可能性は低いが、道は残っているはずだ


その場合、重要なのは花言葉の知識量ではない

2人が共通して知っている花言葉が使用された場面に対する認識

つまり、僕にはここまでしか分からない

賭場の富豪たちはこれに気付かないだろう


『選択した銃で互いを撃って下さい』


驚く多岐川さんと黙って無表情のまま銃を構える金井さん

こんなことにも気付いていたのか


2つの銃声が響く


『折角救ったのに残念です。いつの間にそんなに馬鹿になったんですか』

『どう…して…』


血を流しているのは多岐川さんだけ


賭場を映した画面では大の大人が騒ぎ立てている

十分なルール説明がなかったから無効、は言い分が幼稚だけど冷静に言っているだけまだ良い方

死にたくないと喚き散らす男

賭場から逃げようとする男

大パニックだ


『「絶望を打ち抜け」るのはこの中なら「希望」だけです。それに「名前当てゲーム」のゲームマスターがトルコキキョウを持って言いました。希望を忘れないから、と。それをあなたは知っていたはずです』

『だからって…この銃に、弾が入っていないとは…限らないですよ…』

『「全く」弾が入っていない銃は1丁です。でもその他の銃に全て弾が入っていると誰が言ったんですか』


恐らく金井さんが撃ったトルコキキョウの銃以外は1発目だけは空砲なんだ

花の銃の中から選んでいれば、きっとこんなことにはならなかった

どうして多岐川さんは他の銃を先に選んだんだろう

どうして金井さんは報酬を使ってまで助けた多岐川さんを殺すのだろう


『戸羽さんが言ったことが事実なら誰が勝つかは明白です。でも、「ここ」がそんなことを許すはずがありません』

『そう…ですね…。でも、金井さんの…考えの、裏をかく可能性も…ありますよ…』

『多岐川さん、あなたは勝っても次のゲームで死にます。でも、こんなことを言われていたらどうでしょうか。金井茉莉を殺せたら生きてこのゲームから解放してやる。二度とゲームには関わらせない』


…は?

自分を救ってくれた教え子を殺すって?


『仮に、それが本当だとして…、投票のために広間に、集まってからここに来るまで…ずっと一緒だったはずですよ…。いつそんなことを…』

『役職のカードが入っていた封筒に手紙が入っていたと考えています』

『それなら、僕はずっと…金井さんの命を、狙っていたことに…なりますね…』


…だから金井さんは迷っていたのか

負けてこの話し自体をなかったことにしてしまうかを悩んでいた

僕は随分見当違いなことを言っていたということか


それにしても、どういうことだろう

金井さんが勝ったのに大勢が負けている

そして「死にたくない」と言っている

まさか彼らもデスゲームを?

それならあんなに呑気にしているはずがない


「彼らはどちらが勝つかではなく、どちらがどの銃を使用するか賭けていたんです。そしてこの賭場には1つ特殊なルールがありまして―――」


大きく口を歪めてニヤリと笑う


「全員が外した場合はあなたの全てをいただきます」

「趣味の悪いルール。で、誰も見抜けなくて当てた人がいないから騒いでいるってこと」

「無表情で抑揚なくそれを言う戸羽様も趣味が良いとは言えませんね」


ほっとけ


『多岐川さんが私を殺せるタイミングはありました。でも殺さなかった。だからそのことは抜きで考えていました』

『聖人ですね…』

『戸羽さんの話しを聞いて多岐川さんはこう思ったはずです』


そうでないと分かっていて言ったであろう嫌味な言葉を無視して続ける


『私が生き残ってもいつ終わるか分からないゲームマスター地獄が待っているだけ。だけど自分には終わりが見えている。それなら私を殺して自分はこの地獄から逃げよう、と。違いますか』

『自分だけ逃げるなんて、させない…。そういうこと、ですか…』

『いいえ。私がそんなに他人に興味があるように思えますか』


自分を利用して逃げようとしている

それにすら興味がない

一体どんな生活を送ったらそんな風になるんだ


『思わないですよ…。でも、それならどうして…僕を殺すんですか…』

『役職の入っていた封筒に手紙が入っていたのは私も同じです』

『だから、自信あり気だった、わけですね…』


乾いた笑いが響く


「これで金井さんも帰れるんだ」

「いいえ、帰れません」

「この賭場がなくなったら金井さんがタイトルの意味を知っていると知っている人がいなくなるから?だったら僕だって同じだ」

「戸羽様は他人に自分の運命を預けたいのですか」

「なるほど」


僕は同じ「ギャンブルの塔」に参加した人がいない

金井さんはいる

その違いなんだ

でも、それなら金井さんにはどんな手紙が入っていたんだろう


『参加者である間に自分の手で人を殺せ。そうすれば店は潰れる。きみの将来を邪魔する者はなにもない。―――これが私の封筒に入っていた手紙です』


例えば実家が飲食店だったとしよう

食中毒なんかが起きれば今後の人生に少なからず影響が出るだろう

そんな感じではなく店を潰す

どんな規模の店かは分からないけど、巨大な力がありそうだ


『つまりこれは、参加者である内に自分の手で人を殺せばゲームマスターをやることなく生きて帰れるということです。私の将来を邪魔する者はなにもないんですから』

『それで僕を殺そう、ということですか…』

『いいえ、花の銃の中から選べば殺すつもりはありませんでした。あなたが愚かだからいけないんです』


銃を額に突き付ける


『さようなら、多岐川先生』


銃声が響き、全ての画面が真っ暗になる






                     ***






ギャンブルの塔で得た7,520万円から様々な手間賃を引かれた5,000万円を手に、僕は新しい生活を始めた

同級生が同時に6人いなくなって突然1人が帰って来たとなれば警察が来るかと思ったが、来ない

そっちにも手が回してあるらしい


3年経った今は調理関係の学校に通っている

理由はある高級レストランの皿が前より汚いと評判が落ちたから

なにも出来ない人なんていないって、信じたい


「やっと見つけました」


突然後ろから手を掴まれる


「――っ驚いた。久しぶり、金井さん」

「戸羽さん、一緒にカフェを開業しませんか」


再び僕の運命は動き出す

「バーベナなんていらない」完結です。珍しく若干のハッピーエンドです。

金井が進んだ第5回戦は「トルコキキョウを枯らさないで」というタイトルであげます。少し期間が開くかと思いますが、良かったら読んで下さい。

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