第12話 存在
生存者:佳賀里、金井、村田、多岐川、戸羽
死亡者:喜多、小野寺、片瀬、峯、畠中、園田、岸
タイトルの意味
それが分かる人、分からない人
3人と次のゲームに進む人数を半ば固定したにも関わらず、それとは関係ないグループ分け
8対3対1
1である畠中さんはタイトルの意味を正確に理解していた
峯さんが指摘しなかったということは、園田さんも大きく意味の外れる解釈をしていない
大方分かると考えて良いだろう
村人側には僕と金井さん、峯さん
自分のしなくちゃいけないことが分かった
でも、分からないことが増えた
「―――どうして、村田さんにあんなことを聞いたの」
「それが戸羽さんの聞きたいことであることは分かっていたつもりなのだ。だが、質問が飛んではいないか?」
「本気で言っているの」
キョトンとした顔をしている
ここまで情報を集めておいて本気で分かっていないらしい
「…うむ、なにが分かったのかは分からんが、なにか分かったことは分かったのだ。それがその質問に繋がるのだな」
「うん」
なんて説明すれば良いんだろう
「我ら3人のためとはいえ、その――」
「え、待って。聞かなくて良いの」
「説明の必要はないのだ。どの道もうじき終わるこの命、なにを聞いても聞かなくても変わらぬ」
「じゃあもし僕が佳賀里さんのこと好きって言っても?」
「変わらぬのだ。それに嘘ではないか」
「人として尊敬出来る部分があると、本気で思っている」
少し照れた様子で微笑む
こんな顔も出来たんだな、なんて平凡な考えしか浮かばなかった
「我ら3人のためとはいえ、園田さんは1人を意図的に見捨てて手に入れた命を投げ打った。そのことと我が生きていることとで勝利する道が出来た。それでも村田さんは勝たないのか、と問いかけたのだ」
村田さんが勝とうとしていないと判断する材料はあまりにも少なく曖昧だ
ただ、村田さんがどういう考えでいるにしても、佳賀里さんが生き残るには村田さんに狂人が生きていることをアピールしなくてはいけない
確認とアピールの両方が出来る方法は、あれ以上の良い案を僕は思い付かない
「聞きたいことがもうないなら出て行くのだ」
「そうだね、居座ってごめん」
「そうではない。行くべきところがあるではないか」
「――うん。ありがとう」
金井さんは多分、屋上に来る
時間も12時丁度だし、屋上に行く前に腹ごしらえをしよう
「…またカレー」
今日はみそ汁がついている
変わった組み合わせだ
それより、カレー以外は出ないのだろうか
「あ…」
「1日1食だとお腹が空くよね」
相手が誰だろうと気にしてはいけない
気にしたら、掴みかかってしまいそうだ
「そうですけど…」
多分時間になってすぐなら誰もいないと思って来たのだろう
「食べないの」
「食べますけど…」
僕のはす向かいに座ると黙々と口へ運ぶ
「2日目に屋上で会ったとき、本当はしたい質問があった。今しても良いかな」
「はい…」
「どうして金井さんか多岐川さんを占わなかったの」
「信じてるからですけど…」
もう人狼だとバレていることは分かっている
こう答えるはずだ、という体で答えてくれているのだろう
「僕は逆だと思う。信じているから占うんだ。これからも信じたいし、初めの内なら裏切られたときのショックも小さいから」
「それは人それぞれの考え方だと思いますけど…」
「そうだね。でも考えは時と場合によって同じ人でも変化する。村田さんの発言は怯えているのにも関わらず理論的で、一貫し過ぎている」
そんな設定はいらない
人は変わる
展開を知っていれば答えは変わる
時間だけではなく、考え方だって元に戻すことは出来ない
「自分だって戦って勝って来たんです。失礼だと思いますけど…!」
「じゃあどうして生き残りが3人でない「ギャンブルの塔」があったとき驚いたの」
「驚いてなんてませんけど…」
「表現を変えよう。僕が「悔いないペテロ」ではないと分かったとき、金井さんを振り返ったのはどうして」
「それは…」
苦い顔をして唇を噛む
「あまりいじめないであげて下さい、戸羽さん」
「話しに入って来ないから良いと思っていたのに、邪魔するんですね」
「僕が話しますよ。ほら、村田さんはもう食べ終わりますし」
早く出たかっただけかもしれないけど、早食いなんだな
小さくお辞儀をするとそそくさと食堂を出て行く
「僕は「オダマキは救えない」のゲームマスターだったんです」
「……え」
流石にそれは予想していなかった
でも、じゃあどうして「リアル人狼ゲーム」に参加しているんだ
「「名前当てゲーム」ではひとりで生き残ったときの報酬がありましたね」
「はい」
「金井さんは「ひとつ願い事を叶える」だったんです」
そんな曖昧な報酬があったのか
それを使ってゲームを降りれば良いだけなのに、どうして今もここに
「「ギャンブルの塔」開始時に報酬は「このギャンブルの塔が終わったとき、このギャンブルの塔で生き残っている者を生きて離脱させ、二度と参加させないこと」とされていました」
「それなら益々どうして金井さんがここにいるんですか」
「所持金がマイナスになった参加者は2名、勝利条件を満たしていない参加者は1名。金井さんは3人で生き残らなければゲーム自体をクリア出来ないと考えました。つまり、個人の勝利条件とゲームの勝利条件の2つがあると思ったんです」
思わず息を飲んだ
「金井さんは報酬を変更して僕を助けました。そして、第3回戦へ進んだ。しかし、すぐに自分の考えが間違いだったことに気付きます」
「どうして金井さんは多岐川さんと行動していられるんですか。もし間違いじゃなかったとしても元ゲームマスターとなんて行動出来ませ――」
そういうことか
多岐川さんが言っていた、僕と似ている大切な生徒は金井さんだったんだ
2人は元々知り合いだった
でも、だからって……無理じゃないから現実になっているのか
「僕は金井さんが通う中学校の教師でした」
「中学校?どう見ても金井さん高校生ですよね」
「はい。僕が「ここ」に来たのは3年前のことです」
「3年間ずっとここに…」
「はい。参加者として全てのゲームをクリアして、ゲームマスターになりました。恐らくゲームマスターを抜ける方法もあるとは思いますが、全く分かりません」
全てをクリアしても帰れない
また別のデスゲームが待っている
3年やって糸口すらない
そんなの詰んでる
「戸羽さんは帰りたいんですね」
「帰りたいかどうかは分かりません。でも、死にたくない。この不条理を、僕は絶対に許容しない」
「ゲームマスターをすると、そういう心を持った人から壊れていきます」
「自分が死なないために必要な行動で他人を殺しているからですか」
「はい」
「自分と他人を同じに見ているからそうなるんです。別の生き物なんですよ。それに、イスラム教徒が豚を殺しているわけではないんです」
驚いたような顔をするが、すぐにくすくすと小さく笑う
「やはり戸羽さんと金井さんは似ています。そういう人が一番長くここにいることになります」
「理論的に推察が出来、人の立場になって考えられ、その上殺すことが出来るから」
「はい。でも金井さんはどうなるか分かりませんね」
「そうですね。村田さんを突き放せないということは、多岐川さんを助けたということは、そういうことです」
にっこり微笑まれる
…気持ち悪い
「…ごちそうさまでした」
「金井さんが来たらなにか伝えましょうか」
「余計なことはしないで下さい。というより会わないで下さい」
「会わない保証は出来ませんが、留意します」
煙に巻くような態度が気に食わない
何人も人を殺してきて、穏やかに微笑むことが出来るなんてどうにかしている
矛盾なんてしていない
別の生き物だから殺して良いなんて思っていない
同視し過ぎていると言っただけ
人類は皆家族、とかそういう考えが嫌いなだけ
屋上に行くと、今まで絶対に自分から近づかなかった柵へ真っ直ぐ向かう
柵に触れる
手が震えているのが良く分かる
大きく深呼吸
勢い良く、下を覗いた
「――そうだよ、彼女がいるはずなんてないんだ」
ただ、覗かなければ良かったと思った
地面が見えないほどの真っ暗闇だったから
僕は今、どこにいるのだろう
確かにここに存在しているのに
生存者:佳賀里、金井、村田、多岐川、戸羽
死亡者:喜多、小野寺、片瀬、峯、畠中、園田、岸




