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バーベナなんていらない  作者: ゆうま
11/15

第10話 辞書にはない強さ

生存者:佳賀里、岸、金井、村田、多岐川、戸羽

死亡者:喜多、小野寺、片瀬、峯、畠中、園田

今日は生存者全員が8時5分に広間に集まった

こうして他の4人を眺めているということは、僕も集まることが出来たわけだ

いないのは岸さん

襲う人選が明らかにおかしい


普通は役職を自称していない金井さん、多岐川さん、僕の中から襲うはず

もうひとりの人狼は勝つことが目的ではない―――

じゃあ一体なにが目的だって言うんだ

勝たなくちゃ死ぬのに

死にたいならとっとと死ねば良いだけの話しじゃないか


「我から1つよいか」

「園田さんの結果ですか」

「いいや」


胸の前で握っている手が震えている


「すまない!」


勢い良く頭を下げる


「本当は占い師なのだ」

「どういうことですか。顔を上げてきちんと説明して下さい」


多岐川さんも流石に慌てているのか、少し早口になっている

僕だって十分驚いている

ここで役職スライドする理由なんて、本物で人狼を見つけた以外にあり得ない


いやでも、もし狂人なら…

おかしい、変だ

協力関係のラインを切ったからといって、人狼色が一番強いのは村田さんだ

村田さんと占い師の争いをしても意味がない

人狼側の負けで自分も死ぬか、今日の処刑に自分が選ばれるかの2択


そうだ、村田さんの人狼色が強いのは誰から見ても明らか

人狼は2人とも潜伏だったということにしようという作戦なんだ

でもそれなら村田さんはなんのために占い師を…?


「占い師だと言うと人狼に狙われると思って怖くて言えなかった。そしたら2人も占い師が出てきて…どうして良いか分かんなくて…」


ボロボロと涙が溢れ出す


「役職言っとかないと処刑されるかもって思って。人狼だって襲うのは霊能者より占い師を優先させる。だから、ずっと嘘吐いてた…。ごめん」

「言っていることは分かりました」

「急にこんなこと言っても信じられないのは分かってる。だけど、」

「佳賀里さん」


落ち着いた多岐川さんの声に肩をビクリとさせる


「聞きますから、落ち着いて下さい」

「あ…ありがとう…」

「聞くだけですから、お礼を言うのは早いです。まず占いの結果と占った理由を教えてもらえますか」

「初日は金井さんを占って、白だった。理由はそもそも喜多さんと片瀬さんのどっちかにしようってなったのは金井さんの発言が原因だから」


分からない理由ではない

確かに金井さんがタイトルについて聞かなければ、ああはならなかっただろう

だけど、情報のない初日は誰が処刑されてもおかしくない

それを誰かのせいにするのは難しい


「2日目は峯さんを占った。結果は知ってると思うが、妖狐だった」


これまでとは全く違うことを言ってきた

言い分によっては先の展開を知って考えたと指摘出来るかもしれない


「話すとボロが出やすいから、潜伏してる人狼見つけて早い内に正体明かさないとって…。峯さん、気弱そうに見えるけど、意外とやるときはやるのだ。それに、気弱な第一印象の人が話しを回すのってなんか違和感あるし、潜伏かなって…」


これも分からなくはないってくらい

「アケルナーの向こう側」でなにがあったか知る人は今佳賀里さんしかいない

なんとでも言えてしまう


「それで、今回は…」


言いにくそうに目を伏せると、少しして顔を上げて村田さんを見る


「その前に1つ聞きたい。村人なのに占い師だと言ったのは、2人のためなのか?」


村田さんが驚いた表情で多岐川さんを見ると、自然と多岐川さんに視線が集まる

多岐川さんを占って黒だった、ということか


「良かった…」


佳賀里さんがへなへなと座り込む


「我が占ったのは戸羽さんなのだ。黒だった」



―――――

慌てて否定する

感想を一言言う←選択

―――――



「良く考えたね、すごいよ」

「少しも慌てないんですね」

「十分驚いて慌てています。でも、慌てふためいても事態は好転しませんから」


肩をすくめて小さく笑う

僕の話しを聞いてくれるようだ


「僕視点の結論から言うと、残りの人狼側は村田さんと佳賀里さん」


村田さんはともかく佳賀里さんは騒ぐかと思った

騒ぐ方が不利だと分かっているらしい


「佳賀里さんはすぐに結果を言わなかった。それは、村田さんにどういう意思でそういった発言をしているのか知らせるため。そして、村田さんがなにをしようとしているのか知るため」

「言っている意味が分からないのである」


口調が戻っている

こういう口調に特徴がある人は有利な場合もある

口調によって心境を考察されるから

落ち着いてきていて、冷静に話しが出来ることをアピールしている


「村田さんは金井さんと多岐川さんを守りたい」

「そうです。だから占い師だって言ったんですけど…」

「だったら2人を占って白だと言えば良いだけ」

「確定じゃないのに名前を出したら疑われてしまいますけど…!」


うん、語尾が強くなっている

良いね


「初日、村田さんは小野寺さんを占って死んでしまったと言った」

「それは人狼に狂人だと思ってもらうためですけど…!最初だから情報が少ない。だから占い師は処刑出来ない。人狼は狂人だと思っているから襲わない。そういう風に考えたんです…!」


筋は通っている

でもそれでは駄目だ


「人狼の勝利条件は人狼の数と村人の数が同じになること。人狼にとって狂人は切り捨てても問題のない存在だから、園田さんが場をかき回したり投票先を誘導していたのはおかしい」

「それは人狼側全員で生き残ろうと…」

「尚更変ですね」

「はい。人狼側全員で生き残ろうとしていて、村田さんを狂人だと思った。それなら少なくとも片方の人狼は村田さんに接触するはず。でも、村田さんは人狼を知らない」

「園田さんだと知っていたなら2日目園田さんに入れたはずですし、もうひとりを知っているなら今のような反応はしません」

「ただ接触してこなかっただけですけど…!」


こう上手い具合に進むと逆に申し訳ないな


「今の正しい返答は「園田さんに投票するともうひとりの人狼に狂人でないとバレてしまう、疑われてしまう可能性を考えたから」だよ、村田さん」

「事実が先に口から出ただけですけど…!」

「ならそれで良い。まだあるから」


一歩下がって身構えられる


「村田さんが占いの結果を言う前に佳賀里さんが役職をスライドした理由。僕はさっき「村田さんにどういう意思でそういった発言をしているのか知らせるため。そして、村田さんがなにをしようとしているのか知るため」と言った」

「ほんの少し前のことだ、覚えている。だが、意味が分からないのだ」

「人狼が誰にしたって、役職を自称していない参加者を襲撃するのが普通だと思う。だけど、残った人狼はそうしなかった。理由は簡単。守りたいから殺せなかった」

「自分が人狼だって、どうしても言いたいんですね…!」


睨まれたって僕の発言内容は変わらない

これから僕が言うことが正しいなら、早く認めれば良いだけ

それなのに、どうして抵抗しているのか分からない


「まず佳賀里さんが確認するべきなのは、自分を狂人だと認識しているかどうか。2日目に峯さんを占ったと言うことで自分が狂人であることをアピールする」

「だが、人狼でなければどちらを襲ったかなど分からないのだ」

「2択だからね、あの様子なら畠中さんが妖狐で良いと思うよ」

「適当なんですけど…!」

「村田さん、聞いて下さい」


微笑んで言っただけなのに、村田さんは苦い顔をして黙る


「狂人であることをアピールした佳賀里さんは村田さんに問う。「勝つ気はあるか?」と」

「意味が分かりませんけど…」

「…止めて下さい」


今まで俯いて黙って聞いていた金井さんが小さな声で言うが、俯いたままだ


「佳賀里さんの「村人なのに占い師だと言ったのは、2人のためなのか?」という問い」

「止めて下さい」

「とぼけるということは、展開を任せるということ。つまり勝ちへ駒を進めたいということ。多岐川さんが人狼であることにショックを受けるなら、感情論が展開され話し合いが停滞する。つまり、勝ってはいけないということ」


佳賀里さんがこんな問いをしたのは、優しさからだろう

殺し合いのゲームも3戦目

それなのに、こんな人ばかりがいるなんて変だ

だから考えてしまう

世界は案外、優しさで溢れているのかもしれないと


「止めてって言ってるじゃないですか!」


僕を睨む金井さんの瞳は、涙でキラキラと輝いていた

生存者:佳賀里、金井、村田、多岐川、戸羽

死亡者:喜多、小野寺、片瀬、峯、畠中、園田、岸

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