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バーベナなんていらない  作者: ゆうま
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第9話 駒は踊り、諭吉が舞う

生存者:園田、佳賀里、岸、金井、村田、多岐川、戸羽

死亡者:喜多、小野寺、片瀬、峯、畠中

生存者全員が広間の椅子に座った


「ひとつ疑問…というより確認なのでありますが、何故片瀬殿は自分に票が集まると思ったのでありますか」

「僕も言ったと思うけど、無意味な人に投票を誘導しているから怪しい。それに賛成していた人が多いから」

「畠中殿に票が入ってもおかしくない状況だったと自分は思うであります。村田殿が畠中殿に入れたからといって、村田殿と自分を人狼だと考えるのはおかしいであります」


それならこの発言はおかしい

なんの意味があるんだろう


「それならどうして村田さんを擁護するような発言をしているんですか」

「自分も村田殿も少し怪しいという現状は理解しているであります。ですが、少しラインが見えるからといって無理に結び付けて固定した思考で議論を進めるのが危険だと言っているまでであります」


一応理論的ではあるし、納得出来なくはない

ただ、これで考えを変える人物はいないだろう


「占い師を自称している人物が1人なのでありますから、占い師は村田殿のはずであります。であれば偽物同士だったのは霊能者であります」

「け、今朝の話しを聞いてなかったの?」

「聞いていたであります。戸羽殿は「峯さんを襲ったということは、よほど特殊な理由がない限り、人狼は狂人を特定出来ていない」と言ったであります」

「言った」

「峯殿に作戦会議の場を見られたと考えるのはどうでありますか」


確かに理由としては十分

でも、それなら


「どうして峯さんはそのことを言わなかったのでしょう」

「脅されていた―――なんてどうでありますか?」


この言い方、本気じゃない?

だったらどうしてそんな発言を…


「――ま、流石にそれはないでありますな。ですが、どうでありますか。少し頭がほぐれたのではないでありませんか」


なるほど

今の自分がなにを言ったところでどうせ取り合ってもらえない

まず真面目に聞いてもらえるようにするにはってことか


それなら食堂で一緒になったのは偶然じゃない

自分の話しをそこそこ聞いてくれる発言しそうな人

それは僕しかいないだろう

だからわざと僕にあの言い方を聞かせた


「じゃあ主張の本題を聞かせてもらえる」

「流石戸羽殿、話しが早いであります」


今日自分が処刑されるかもしれないというのに危機感がないのか

それとも余程自信があるのか


「自分は片瀬殿の意見に半分、賛成するであります」

「どういうことか分かりませんけど…」

「自分はこう考えたのであります。昨日の投票で自分に票がある程度集まることは全員が理解していたわけでありますね」


…もし村田さんと園田さんが人狼なら、園田さんは最低だ


「村田殿はそれを利用し、自分を人狼に仕立て上げようとしているのであります。つまり人狼は村田殿と金井殿か多岐川殿ということであります」


3人を見て堂々と宣言する


「もっとも、人狼が2人とも出ている可能性があるわけですから、喜多殿や小野寺殿が役職であった可能性も考えるべきではあります。ですが、この仮定に賛同してもらえるのなら」


今日処刑するべきは村田さん

そんなこと言わせてたまるか

昨日から言っている

園田さんは投票先を誘導し過ぎなんだ


「どうして僕が含まれていないのか分からない」

「初日の処刑で戸羽殿は自分に投票したであります。誰もなにも言わなかったのは、自分が戸羽さんの真正面であり、誰よりもあの状況に心を痛めていたことが分かっていたからであります」

「そんな僕が人狼であるはずがない。…これまでの理論的な考えとは違って随分感情的だね」


黙っていないで誰かなんとか言えよ

金井さんと多岐川さんは人狼だって言われているんだぞ

なんで黙っているんだ


「人狼が園田さんと戸羽さんだというのは安直です。それに、今まで注目を集めていない戸羽さんの名前を出すのは人狼ならデメリットしかないです。つまり」


同時に全く同じ言葉で話し出した2人


「多岐川さんが」

「金井さんが」


互いに指す


「人狼です。―――ということですね」


手を膝の上に置くと、園田さんを見る

ここまでシンクロしていると怖い


「場を混乱させてるだけですけど…!」

「人狼ならそれが普通だと思う」


ただ、この作戦なら村田さんの役職なんて関係なく村田さんを処刑することになる

もし2人が人狼なら最低だ

裏目に出てはしまったけど、村田さんは園田さんを守ろうとしたのに


「その仕草――」


園田さんは僕を見ている

自分の手元を見ると、パーカーの引き手を握りしめていた


「説得出来なかったのでありますな。自分は人狼ではありませんが、ここは民主主義であります。人狼として死ぬ他、ないのでありますな」

「最期になにか言うことは」

「堪えたその涙は、誰のための涙でありますか」


―――違う

園田さんはもう片方の人狼を、村田さんを、守ったんだ

あのままだったら村田さんと園田さん、順番は分からないけど2人ともが処刑されていた

だけど園田さんは村田さんとの協力関係の繋がりを切った

そして、他の誰でも人狼で有り得ることを言った


今夜占い師が占うのは村田さんだろう

でも、それも現状では100%ではないし、生きていない可能性だってある

園田さんは生きていないことに、殺すことに、占われないことに、賭けた

そして、村田さんを守った


この問いは僕を試している

気付いているか、と

解答を間違えれば僕が処刑されるようなことを言うのかもしれない


いや、そんなことに意味はない

きっとそれについての感想を言うだけだろう

それを他の生存者がどう捉えるかは考えないかもしれないけれど、わざとそんなことはしない

する必要がない



―――――

「村田さんだよ」

「園田さんだよ」←選択

「片瀬さんだよ」

―――――



「園田さんだよ」

「そうでありますか」


穏やかで優しい笑み


―――こんなの、言えない

言えるはずない

これを言えば村人は勝つだろう

でも、言えない


園田さんは今日処刑されるつもりでこの広間に来た

危機感がなかったわけでも、自信があったわけでもない

覚悟していたんだ


ただ、そうして守ったもうひとりの人狼の立場もかなり危うい

園田さんがなにを思ってそう選択したのかは分からない

だけど、最後の望みを潰すなんてことは、僕には出来ない


「せーの」


園田さんが6票

佳賀里さんが1票


園田さんがどうして佳賀里さんに入れたのかは分からない

なにかの合図にでもしてあったのだろうか

それとも佳賀里さんが狂人だと考えたのか、その逆か


「戸羽殿、頼んでもよいでありますか。流石に片瀬殿のように自分で打つ勇気はないであります」

「分かった」


例によって大きく音を立てて開いた箱に向かうと園田さんも一緒に来た

内緒話をしたと思われるのは嫌だけど、今の状況なら大丈夫だろう

それに、苦しい死ぬ瞬間を大勢にただ見られているというのは――安直な言葉だけど、とても嫌だろうと思う


注射器を持って、振り返る

差し出された園田さんの腕は、思ったよりも華奢だった

きっと強がってなにかになっていたんだろう


注射器の液体を押し込むと、園田さんが苦しみだす

倒れ込む園田さんを支えようとしたけど出来ず、僕も一緒に倒れてしまう


「気を、付けて…」


耳元で園田さんの声がした


「多分、目的は…勝つ、ことじゃ…ない…」


どういう意味

なんの?それとも誰の?目的が勝つことじゃないって?

聞き返したら内緒話がバレる

それは園田さんの意志に反する

一先ず聞こえたことを伝えないと


「…おやすみなさい」


小さく微笑む息遣いが聞こえた

それを最後に、園田さんは動かなくなった


「部屋に運びましょう」


村田さんが脇、多岐川さんが足を持ってベッドに寝かせる

僕はその様子をずっと見ていた


「築いた信頼が戸羽さんを助けてきたんでしょうね」

「それは…なんの嫌味ですか」

「え?」

「…なんでもないです」


部屋に入ろうとして気付いた

僕はまた、パーカーの引き手を握りしめていた






                  ―――――――――






「―――――に賭けてみえた方は賭け金が全て没収となります」

「現在の生き残りは6名。今晩人狼が襲うのは誰か!ベット開始です!」


会場内は騒がしい


「「ナスタチウムの決意」でも大番狂わせでしたからね、今回もやってくれるでしょう」

「そうですね。それに「アンモナイトは許されない」もいますから」


下品な笑い声があちこちで響く

本来笑っていない肖像のはずの福沢諭吉が角度と光の加減によって、笑って見えた

生存者:佳賀里、岸、金井、村田、多岐川、戸羽

死亡者:喜多、小野寺、片瀬、峯、畠中、園田

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