第5話
学生生活で忘れてはならないのが、定期試験である。1週間後に試験が迫ってきた今日この頃。いつもなら、東雲君のために試験対策を行うのだが・・・今回はどうしよう。中学生の頃は東雲君を囲んで試験勉強をしていた。とりあえず、ミサトに連絡してみよう。
『北条君が東雲君との勉強会を許すとは思えないけど?』
『やっぱり?』
『東雲君との勉強会は私とメグミでやるから、北条君と勉強したら?』
『ミサト・・・冷たい』
『試験終わったら遊ぼ』
『はーい』
でも、授業の様子を見ていると北条君に試験勉強はいらなそうだ。特に英語なんかは先生の上を行っている気がする。取り巻きとして、試験勉強をどうするか聞いてみよう。そう、北条君の取り巻きであることには、もう諦めがついていた。
「試験勉強?」
「うん。北条君は頭良さそうだから、あまりしないタイプ?」
「そんなことないよ。古典とか苦手だし。熊ちゃんは古典得意だよね」
前世の記憶のお陰か国語系、歴史系は得意だった。数学は苦手だが・・・。
「そうだ。僕が数学教えるから、熊ちゃんは古典教えてよ」
「良いよ。どこで勉強する?」
「う~ん・・・僕の家は?」
「は?」
「図書館だと他の人の迷惑になるから声出せないし」
「・・・北条君、一人暮らしだったよね?」
「うん。あ、部屋は綺麗だよ?」
悪意も下心も無い顔で言われた。北条君が私に下心なんて烏滸がましい考えをしてしまった。彼は純度100パーセントだ。
「じゃあ、お邪魔しようかな」
「うん。今度の土曜日はどうかな?」
制服姿以外の北条君が見れる・・・!!待った、制服じゃないのは私も同じだ。まともな私服あったっけ?そんな心配が頭をかすめた。
そして、とうとう土曜日。北条君の家の最寄り駅で待ち合わせだ。結局私はブラウスにジーンズという自分では無難と思える恰好を選んだ。鞄を抱えて待っていると後ろから声をかけられた。
「熊ちゃん、お待たせ」
「北条君、おはよう」
「おはよう。行こうか」
北条君は黒のパンツに黒のブイネック、伊達メガネというモデルのような格好でやって来た。心なしか周りがザワザワしている。
「5分くらい歩くよ」
「分かった」
私服で北条君の隣を歩くのは、制服の時より緊張するのは何故だろう。そんなことを考えている内に、大きいマンションの前に着いた。
「ここだよ」
エントランスに入る。
「お帰りなさいませ」
「ただいま~」
コ、コンシェルジュが居る!?マンションじゃなくて億ションでしたか。
エレベーターに乗り、5階で降りた。503号室が北条君の家だった。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
通されたのはリビングだった。大きいテレビがある。
「早速、始めようか」
机の上には、すでに勉強道具が広げられていた。
北条君との勉強会はスムーズだった。北条君は古典を、私は数学の問題を解き、詰まったらお互い教え合う。
東雲君との勉強会は如何に東雲君を煽ててヤル気にさせるかといったものだったから、こんな勉強会は新鮮だった。
「そろそろ休憩にしようか」
黙々と勉強していたので気が付かなかったが、2時間くらい経っていた。もうお昼だ。
「お腹すいた。ねぇ、熊ちゃん。お願いがあるんだけど・・・」
「何?」
「冷蔵庫のモノ、なんでも使って良いから、お昼作って。熊ちゃんの手料理が食べたい」
私に彼のお願いを断れたことは一度も無い。
冷蔵庫の中を確認する。色々と揃っているようだった。
「普段はコンビニか外食って言ってなかった?」
「今日のためにコンシェルジュに頼んだんだ」
最初から計画されていたらしい。あ、鶏肉がある。あと卵と・・・棚にレンジでチンするご飯があった。今から炊きたくは無かったので、有難く使わせて貰おう。
「何、作ってくれるの?」
「親子丼」
あ、女子力の事を考えてオムライスにすれば良かった。
丼に親子丼を盛り付ける。箸は北条君が並べてくれた。親子丼を食卓に運ぶ。
「良い匂い~。半熟で美味しそう」
「冷めないうちに、どうぞ」
「いただきまーす」
北条君が親子丼を口に運ぶ・・・北条君に親子丼。似合わないな。やっぱりオムライスにすべきだったか。
「美味しい!!何杯も食べれそう」
「おかわりあるよ」
「絶対する」
ニコニコ食べる北条君が・・・可愛い。
「僕って、この見た目でしょ?なんか食べるものにも理想を押し付けられてさ。パスタとか食べてそうって言われるんだ」
「なんか分かるかも」
「だから、今日、熊ちゃんが親子丼作ってくれて嬉しかった」
似合わないって思ってゴメン。男の子だもんね。ガッツリ食べたいよね。
結局、北条君は2回おかわりした。