第4話
あまり眠れなかった。片っ端から『小さい頃に会ったらしいけど覚えてない』と返信をしては、また『本当にそれだけ!?』といった質問に返信して・・・その繰り返しだった。
ボーッとしながら歩いていると、道の先に東雲君とミサト、メグミを見つけた。いつもの癖で駆け寄ろうとすると・・・。
「熊ちゃん!おはよう」
「・・・おはよう。北条君」
そうだ。北条君と登校する約束をしていたのだった。
「僕の事、忘れてたでしょ?もしかして、お弁当も忘れちゃった?」
「いやいや、覚えてたよ?お弁当も作ってきたよ」
「本当!ありがとう。お昼が楽しみだな~」
・・・やっぱり注目されてるな。東雲君の取り巻きをしていた時も、それなりに見られてはいたが、今はその比ではない視線を感じる。主に女子の。
「熊ちゃん、どうしたの?」
「あ、いや~見られてるなって」
「・・・ああ。気にする必要ないよ」
「気になるよ。北条君は慣れてるかもしれないけど」
「僕はみんな根菜だと思ってるから」
「へ?」
「ああ、熊ちゃんは別だよ?」
ものすごく黒い事を言った気がしたが、聞き流すことにした。
教室に入ると、やはり注目を集めた。意を決したように「北条君おはよう」とあるクラスメイト(女子)が声をかける。それに対して「おはよう」と返す北条君。挨拶を返された子は嬉しそうだ。その子を皮切りにクラス中の女子が北条君に挨拶し始めた。私はそれに巻き込まれないよう少し離れる。
「やっぱりスゴイね」
そう声をかけてきたのはミサトだった。
「あれ?東雲君は?」
「職員室に用があるとかで行っちゃった」
「そう・・・機嫌は?」
「微妙」
「だよね」
「ヒカリは大丈夫?いろんな意味で・・・」
「・・・多分」
「何話してるの?」
「わ!北条君・・・」
挨拶の輪から抜け出したらしい北条君が寄ってきた。
「熊ちゃん、なんで離れちゃうの?」
「だって北条君が、みんなと挨拶し始めたから邪魔かなって・・・」
「邪魔な訳ないじゃん!あ、もしかして妬いてる?」
はっきり言って、国宝級に美しいが会って数日の北条君に対し、そういう感情は無い。無いのだが、顔を近づけられると赤くならずにはいられない。
「妬いてないよ」
「なーんだ。妬いてくれるかと思ったのに。あ、犬飼さんだっけ?東雲君が戻って来たよ」
「あ。うん。ありがとう」
ミサトは東雲君の方へ行ってしまった。
「あ、ミサト・・・」
「熊ちゃん、昨日の夜のバラエティ見た?あの芸人が出てるヤツ・・・」
ミサトともっと話したかった。北条君と話している内に始業のベルが鳴った。
「後でね」
北条君は自分の席に向かう。私も自分の席に座った。ミサトの隣の席だ。ミサトが口の形だけで「後で話そう」と言ってきた。私は頷いた。
授業の合間の短い休憩時間。北条君はクラスの女子に捕まっていた。私とミサトはトイレに行くふりをして教室を出た。
「1週間も経ってないのに、すごい噂だよ」
「悪い方?」
「う~ん。取り巻きに頂戴発言はクラスのみんなが目撃してたからね。ヒカリと北条君の関係は何なのか!?って感じかな」
「昨日の夜、その件でスマホが鳴りっぱなしだった」
「で、どうなの?」
「北条君曰く、小さい頃に会ってるらしいんだけど、本当に心当たりが無いんだ。親にも聞いてみたけど、北条って知り合いは居なかったって」
「あの北条君の懐きっぷりを見てると、幼馴染か生き別れの兄弟かって思うよ」
「本当に謎なんだけど・・・」
「独占欲も強そうだよね」
「え?」
「朝、東雲君が来たって私に言ってきたでしょ?あの時、言外に『さっさと行け』って言われた気がしたわよ」
「マジ?」
「マジマジ。まぁ、まだ本気の子はいないみたいだけど、嫉妬してくる子はきっと居るよ」
「嫌だなぁ」
「北条君がもっと取り巻き作ってくれると良いんだけどね。視線が分散されるから」
「ホントにね」
「・・・実は、ヒカリはもっと喜んでいると思ってた」
「は?」
「あんた、綺麗なもの大好きじゃん」
「綺麗なものでも限界があるよ。それに、私はアイドル好きだけど、アイドルと恋愛したいとは思ってないよ」
「知ってる。ガンバレ」
私たちは教室に戻った。北条君はまだ絡まれていた。
昼休みになった。北条君は一目散に私の所へ来た。
「熊ちゃん。今日は教室で食べよ」
「・・・分かった」
「あ、犬飼さん、席貸して」
「どうぞ」
ミサトは東雲君の元へ向かった。空いた席に北条君が座り、机をくっ付けてきた。
「ねぇ、お弁当は?」
「あ、これ。足りるかな?お父さんと同じ量は詰めたんだけど・・・」
カバンから弁当箱を取り出して渡す。
「ありがとう。開けて良い?」
「どうぞ」
北条君が二段の弁当箱を開く。段でご飯とおかずに分かれている。ご飯はシンプルに梅干しだけ乗せた。おかずは、卵焼き・ミートボール・インゲンなどを入れてみた。一般的なお弁当だ。
「美味しそう。いただきます」
「召し上がれ」
早速、北条君は卵焼きに箸をつける。
「やっぱり甘くて美味しい」
「口に合って良かった」
私も自分の弁当に箸をつける。
「熊ちゃん、週一で良いからお弁当作ってよ。コンビニは飽きちゃって」
「良いけど・・・お母さんは作ってくれないの?」
「ウチ、両親共に海外で仕事してて独り暮らしなんだ」
「そうなの?」
「だから、コンビニか外食でさ。ね。お願い」
「わ、私のお弁当で良いの?もっと料理が上手な子、居るよ?」
聞き耳を立てている料理部の小林さんとか・・・!
「熊ちゃんの作ったものが食べたいんだ」
そう言われて断れるだろうか。私には無理だった。