第3話
授業終了の鐘がなる。お昼休みだ。
「熊ちゃん。一緒に食べよ。天気良いから外で食べたいな」
早速、北条君が話しかけて来た。
「えっと、私・・・」
「早く行こ」
「え?ちょっと・・・」
北条君に腕を取られ、強引に教室の外に連れ出されてしまった。
「外で食べるのに良いところある?」
「・・・じゃあ」
私が選んだのは人目につかない裏庭だった。人目につかないと言っても、裏庭に着くまでに沢山の人に北条君と歩いているところを目撃されてしまった。絶対、なにかしらの噂になる。
「じゃあ食べよう。いただきまーす」
「いただきます」
北条君はコンビニで買ってきたらしいパンをほお張る。私はお弁当の包みを開けた。
「熊ちゃん、お弁当は自分で作ってるの?」
「え?うん。両親と自分の分を作ってるよ」
「へぇ、偉いな!あ、卵焼き欲しい」
「・・・どうぞ」
北条君に向かってお弁当箱を差し出す。北条君は少し首を傾げて言った。
「食べさせてくれないの?」
「へ!?」
「冗談だよ。いただきまーす」
北条君は卵焼きを素手で摘まみ、口へと運んだ。
「美味しい。甘めなんだね」
「ウチはこの味なんだ」
なんとか答えながらも心臓はバクバクだ。国宝級美形の首傾げ・・・まだ、お弁当食べてないけど、ゴチソウサマです。
って、違う違う。私の推しは東雲君。北条君にはいろいろ聞かないと・・・。
「北条君、小さい頃に会ったって、いつの事?」
「えっとね。うん。思い出してくれるまで秘密!」
そんな可愛く言わないで欲しい。追及できない。
「そんなことより、ねえ熊ちゃん」
「な、何?」
「今度、僕にお弁当作ってきてよ。お金払うからさ」
「え?あ、別にお金は払ってもらわなくても良いけど・・・」
「作ってくれるの?」
「・・・良いよ」
「やったー。いつ?いつ作ってくれる?」
「じゃあ、明日。でも、普通のお弁当だよ?」
「普通のお弁当が食べたいの」
こうして、東雲君にも作ったことがないのに、北条君にお弁当を作ることを約束してしまったのだった。面食いの自分が恨めしい。あの顔で頼まれて断れる人、挙手をしろ!!
午後の授業を終え、放課後になった。
「熊ちゃん!一緒に帰ろ」
「・・・北条君、部活とか入らないの?」
「あまり興味ないんだ」
「そうなんだ・・・後ろの子達も一緒に帰りたそうだけど・・・」
クラスに敵は作りたくない。そう思って、他のクラスメイトの、女子の存在をほのめかす。
「ええ~。僕は熊ちゃんと帰りたいの。良いよね?」
北条君が後ろでソワソワしていた女子たちに言い放った。頬を染めて「はい」って言うんじゃない。もっと食い下がるんだ。
「良いって。熊ちゃん、帰ろ」
その笑顔は反則だ。負ける。
結局、北条君と二人で帰ることになった。ミサトが心配そうな視線を送ってくれたが、助けてはくれなかった。ミサトとメグミには東雲君の機嫌回復をお願いしたいところだ。
「熊ちゃんは、今まで北条君と帰ってたんだよね」
「うん。北条君だけじゃなくて、ミサト・・・犬飼さんと隣のクラスの鹿野さんも一緒だけど」
「なるほどなるほど」
北条君は少し早歩きして私の前に回り込んでこう言った。
「女の子は、まあ我慢するけど、基本的には僕と一緒に帰ること。熊ちゃんは僕の取り巻きなんだから」
顔を近づけないで!その顔面は凶器だ。
「わ、分かった」
顔をそらしながら答える。ずっと向き合っていられるわけがない。
「良かった。あ、朝も一緒に行こうよ。駅には何時くらいに着くの?」
「7時30分くらいかな」
「じゃあ、駅で待ち合わせね」
「ほ、北条君!」
「何?」
「北条君の取り巻きになりたい子、沢山いると思うよ?」
「そうだね。今までもそうだったから」
「転校してくる前?」
「うん」
「だったら・・・」
「もう熊ちゃんだけで良いよ。取り巻き」
「え?」
「ううん。熊ちゃんだけが良い!」
「・・・なんで?」
「だって、熊ちゃん。俺より東雲君の事を気にしてるでしょ?」
「そりゃ、今まで取り巻きやってたくらいだし・・・」
「そこが熊ちゃんの良いところだよね」
「・・・私たち、会って2日しか経ってないけど」
「でも、僕は熊ちゃんの事、分かってるから」
話している内に駅に着いた。
「熊ちゃん、また明日ね」
大きく手を振る北条君に手を振り返して帰った。
その日の夜、私の連絡先を知っているであろう学校の友人全員から『北条君とどういう関係?』と言った内容のメールが来ることになるとは、この時の私に知る由もなかった。