3話
森を散策し始めて凡そ数十分、ソードウルフを探していたクロガネとセラだが、ここでようやく魔獣の反応を右前方に感じ取った。
「……ッ!クロ!」
「分かってる──数は七、群れで行動してる事から恐らくそうだろう。急ぐぞ!」
二人は場所が分かると其方に向かい、残り十五メートル辺りから相手も接近に気がついたのか此方に向かってきた。
だが、この距離ならこっちに部が有る。
「先手必勝、ぶちかましてやれ!」
「うん!速き雷刃、その輝きにより仇なす敵を打ち滅ぼせ──サンダーランス!」
セラの伸ばされた右手より放たれた雷の槍はそのまま真っ直ぐ飛んでいき、ソードウルフが回避をする暇もなく撃ち抜いた。
魔法──自身の考えやイメージを魔力を介する事で世界に上書きする技術であり、それらを扱うもの達を魔道士と呼ぶ。魔力を身に宿しているのなら原理上誰にでも魔法は使え、魔道士一人で幾多の奇跡を起こして見せる事ができる。
だが現実問題としてそれは困難を極める、まず発動させるには類まれなる想像力を必要とする為一つの魔法を発動すること自体が難しいのだ。
その難易度に加えて魔力の有無を確認する手段が"魔法を発動させる事"以外ない為よしんば魔力の才があったとしても、魔法を使おうと思わなければそのまま分からず一生を終えるだけである。
これらの理由から魔道士は少なく、原則として一人の魔道士につき魔法は一つである。
だが、このセラという少女はこと"魔法を発動させる事"に関してはそれこそ王族に仕える宮廷魔道士を遥かに越す才を持っている。
セラはおもむろに右手を引っ込め左手を伸ばすと、今度はこう刻む。
「まだまだぁ!熱き輝き、その燃え盛る炎で仇なす敵を消し滅ぼせ!──ファイアインパクト!」
そう詠唱すると掌からハンドボールサイズの炎が飛び出し、さっきとは別のソードウルフに命中する。
此方は当たった途端爆散し、ソードウルフの血肉をぶちまけた。
これにより残りは五匹。
「よくやったセラ!俺が前に出るからセラはチェンジャーを構えながら魔法で倒してくれ!」
「わかった!」
クロガネはセラに指示した後、腰に差していたスネークソード抜くと引き金を引きながら振るった。
(さっきはこっちがただのガキだと思われていたから魔法を当てれたけど、遠距離攻撃が来ると分かっているなら避けられる可能性がある。幸いなことにセラの詠唱は長くないし出も早い、だから──)
「はああぁぁぁぁ!」
クロガネはなるべく間隔が近く、かたまってる三匹に狙いを定めたら連結刃で囲った所で柄を引き、囲いを狭め切り刻む。その際一匹取りこぼしてしまったが──
「セラ!」
「速き雷刃、その輝きにより仇なす敵を打ち滅ぼせ──サンダーランス、三連!」
セラの魔法により一匹も取り残さずに倒した。
(こうして俺が体勢を崩せば簡単に屠れる)
残り2匹もクロガネが削り、隙を作ってセラが倒すという役割分担で危なげなく倒していった。
そして周囲に危険がないのを確認すると二人はソードウルフ達を解体、ソードウルフと言われる由縁である額の鋭利な角を七本、小石大の魔石を六つ、握りこぶし大の魔石を一つ手に入れた。
「解体、そっちは終わったか?」
「うん、終わったよーってその魔石少し大きいね」
「あぁ、そこそこ動きが機敏だった奴の魔石だ。攻撃も何度も避けられたからめんどくさかったが、どうやろ魔石が周りよりも成長してたっぽい」
「でも良かったね!これで少しは何時もより高く交換出来る!」
「そうだな、さっさと帰ってギルドで換金してもらうか」
魔法は魔力を持つ者だけが使える奇跡であり、魔力とは産まれ持ってその素質が決まる。”成長等で魔力が増減する事はあっても無くなることはなく”、”逆に成長によって突然魔力が発現する訳でも無い”と言われている。
故に魔力の結晶体とも言える魔石は魔法が使えぬ者達の希望であり、魔道具は奇跡を追い求めた者達が創った精一杯の奇跡なのだ。