2話
行商の護衛をしてから翌日の朝、俺らはクレア商店に向かっていた。というのも護衛の報酬には金銭とは別に試作魔道具の譲渡もあったからだ。昨日は到着時が既に遅かった故今日引き渡される事となったのだ。
「おはようございますクレアさん、報酬である魔道具を引取りに来ました」
「出来るなら危なく無い奴をお願いしたいです」
「それは扱えるかどうかで変わってくるから何とも言えないな、とりあえず実物を見てもらおうか」
そう言ってクレアさんは少し長い筒状の物体にそれと同じ位の大きさな長方形の物体、そして”節目”と思われる模様が等間隔で刻まれているショートソードを見せてくれた。
「今回の報酬はこの三種類だよ」
「これらはどう使うんですか?特に剣じゃない謎の物体2つ」
「それはこれから説明するね。まず筒状の物は懐中魔灯って名前で魔石を動力とした光源だよ、スイッチを押して作動させるんだ。そうじゃない方の名前はチェンジャー、魔力形成装置でこっちも同じく魔石を動力としてるけどこれは光源じゃなくて武具として使うんだ例えば──」
クレアさんはその魔道具を手に取って少し離れると徐ろにスイッチを押し始めた、すると魔道具から青白い刃──魔力刃が現れた。
「うわ?!」
「こうやって剣にしたり出来るんだ」
「凄いですね!」
「ふっふっふ、この装置の凄い所はこんな物じゃないのだよ」
そう言うと魔力刃は形を変え、魔道具を中心とした円状の魔力体──魔力盾となった。
「こんな風に使用者の想像した通りに形を変えられるんだ。ただ少し魔力を多く使うから魔力切れが近くなるとスイッチの横にあるこの結晶体が点滅し始めるから、そこには気をつけてね」
「はい!それで最後にこのショートソードは何ですか?」
「これはスネークソード、柄の所に引鉄が有るだろ?ここを引けば作動させれるんだ」
そう言いながらクレアさんはスイッチを押すと刀身は節目模様の通りに分裂し、各々の刃の中心には青白く光る糸が通っていた。
「これはチェンジャーとは違って形自体を変える事は出来ないけど魔力で糸を操れば刃も連動するから”間合いを伸ばし、意のままに操る”事が出来るんだ。ただこの糸は魔力で造られた糸じゃなくてあくまでも”魔力によって操作”しているだけだから伸ばせるのは最長でも5メートルが限度だよ」
「それでも凄いですね!だけどどうして想像した風に魔力の形を変えられたり、魔力で操作できるんですか?私は魔導師ですがまだまだ魔力操作が未熟で……」
「うーん、これは魔法じゃなくて”魔力を使っているだけ”だから何とも。それにこんな風に出来るのだってちゃんとタネがあるんだ。感応石って知ってるかい?」
「知らない、クロガネは?」
「俺も知らないな、何ですか?その感応石ってのは」
「簡単に言えば魔力と思考を繋げられる石なんだ、そして感応石と魔石を一緒に加工して動力として使う。僕の魔道具は大体こんな感じで作ってる。っと説明はそろそろ良いかな、二人には懐中魔灯を二つ、チェンジャーとスネークソードを1本ずつ。そして魔力が切れた時用の魔石も渡しとくね、全部で8本袋に入ってるから。魔石は全部の魔道具に入るよう加工してある」
クレアさんはそう言うと奥からもう一つ懐中魔灯に加えスネークソード用とチェンジャー用にベルトに外付けするホルダーを貰った。
「それじゃあ護衛任務の報酬はこれで全部支払ったからね」
「はい、昨日も言いましたが何かある際はまた声をかけてくださいね」
「出来る範囲で力になますので」
「うん、その時はまた頼むね」
挨拶を済ませてクレア商店を後にした俺らはギルドの掲示板で魔道具の”試し斬り”に良さそうなクエストを探している。
ギルドにくるクエストは幅広いが荒事が多い、と言うのも冒険者自体が傭兵のような側面もある為仕方の無い事だが今回に関しては有り難いこと事である。
「まぁ無難に魔獣討伐でいいかな」
「クロ、これなんてどう?」
「ソードウルフの群れか、こいつらなら俺らでも何とかなるしやるか」
「うん!」
俺らはそのクエスト用紙を受付にもっていき、手数料を支払い受注を済ませる。というのもギルドは依頼者からは依頼料の十分の一、冒険者からはクエストの情報料に加え各種支給品等による手数料によって稼ぎを得ているからだ。
「今回のソードウルフ、依頼書には凡そ七匹くらいって書いてたけど多分もう二、三匹増えてるだろうな」
「うん、あいつら言うほど変貌能力は高くないけど、依頼日から二週間ぐらい経ってるからね。」
魔獣とは太古より存在し、未だ全貌が見えない生き物である。奴らは星の魔力によって地中から産まれる為に結界が無い所では何時襲われるかも分からない。それから星の魔力という膨大な力で産まれる為か超常なる力を身につけている。
その一つが変貌能力である、魔獣達は皆身体の何処か──主に心臓に魔石が存在し、その欠片を他の生物に埋め込む事で生物を魔獣に変貌させる。変貌が完了する前に魔石を取り除かなければ生物の原型は残らず、瓜二つの魔獣になる。
「兎に角ソードウルフ達は素早い連携が厄介だから気張れよ、チェンジャーは盾にしてセラが使って後ろから援護してくれ」
「わかった!じゃあ後でいつものお願いね」
「それはいいけどあんまし期待すんなよ?俺の異能でも限度があるんだからな」
「うッ…わ、分かってよ」
「それならいいけどさ」
そんな事を話しながらソードウルフが出たと書かれていた森に向かう二人。
♢
日が昇りきる頃合いに二人は件の森に着いた。
「じゃあクロいつものお願い」
「まて、先に索敵だ」
クロガネはセラに断りを入れると自身とセラに”範囲内に居る魔獣の位置が分かる”という概念を付け加えた。
範囲は半径凡そ三十メートルの円状である、その範囲に居ればどんな魔獣も探知出来る。
「……近くにはまだ居ないみたいだね」
「だな、そうと分かればさっさと強化済ませるか」
その後クロガネは自身には筋力と素早さ上昇の概念を、セラにはそれらに加えて魔力の放出量制限と魔力譲渡に概念維持を自前の魔力で行う概念を付与した。”異能は自身以外に付与すると、時間が過ぎたら消えてしまう”ためこうするようにしてる。
「どうだ?全部付与したが、ちゃんと出来てるか?」
その問いにセラは軽く体を動かし、魔法撃ち、クロガネにを譲渡して確認した。
「うん、大丈夫!全く、クロは心配性だな~毎回絶対確認するんだから」
「コレの扱いだってまだ完璧じゃないから仕方ないだろ、そもそも使い方だってコレで合ってるかも分からないんだから」
「それもそうだねー」
そうして二人は探索を始めた。