chapter2_3ヨゾラとの会話1
ふう、今日はなんか仕事が多かったなあ。そろそろ日が暮れ始めてくるな。急がないと。
この島にはいくつか守らねばならないルールが存在する。
そのうちのひとつに夜の外出禁止令がある。
島のルールに関しては色々と樟葉に脅されているがこの規則は特に念押しされている。
「破ったら容赦はしない」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながらも目が微塵も笑ってなかった。
「本当に急がないと、殺される.......」
最後の方は最早早足というより走っていたが、なんとか日没前に家の前にたどり着くことが出来た。
「ま、間に合った.......ってあれ?」
家の前でヨゾラが壁にもたれかかって立っていた。
隣にいるべきナギの姿は見えない。
「誰か待ってるの?というかナギは?」
「アンタを待っていた。クズハとかいういけ好かない野郎と話してるスキに置いてきた」
「.......怒られても知らないよ。」
「アンタが心配することじゃないさ、それより」
「それより?」
「アンタの意志を確かめたい」
「意志?」
一瞬逡巡したのち、再びこちらを見つめる。
「シグレ、アンタは記憶を取り戻したいと思ってるか?」
「!!!」
やっぱり、この男は、ヨゾラは私の記憶について何か知っている。
「ヨゾラは、私のことを、知っているの?」
「回答は俺の質問に答えてからだな」
「そりゃあ、記憶が戻る方法があるなら、取り戻したいよ」
「本当に?」
「え?」
「俺は正直そこまで事情に詳しくない。」
「だが、アンタは、ナギがどう思っているかを知ったとしても、それでも全てを思い出したいか?」
「.......なんで、そこでナギの名前が出てくるの。ナギは関係ないよね.......?」
「…本当に何も知らされてないんだな」
ため息とともに、憐れみの目でこちらを見つめる。
夜を閉じこめた瞳で。
「さっきから、はぐらかしてばかりで分からないよ.......」
頭のどこかが鈍く痛む。この先を知ってしまったら、戻れないような予感がする。
そしてそれは多分、正しいのだろう。
「アイツは、ナギは、アンタの記憶が戻ることを望んではいない」
「!?」
ナギが、私が自分のことを思い出すことを望んでない?
「しかも、アイツは既にアンタの記憶が元に戻らないように妨害行為を行っている」
「アンタはいたくアイツを信用しているようだが、残念ながらこれは事実だ」
「.......なんで、だって、ナギは、自分の名前も覚えてない、私を1年も助けてくれていたのに.......!」
「.......それは」
ヨゾラがなにかを伝えようとした時-。
「お前、そこで何をしている」
「ナギ!」
振り返るとそこにナギがいた。
初めて見る、なんの感情も浮かばない眼で、ヨゾラを見つめている。
ナギは、こんな顔をできるのね。知らなかった。
「何って、シグレとおしゃべりさ」
わざとなのか、おどけたような、少し小馬鹿にしたような笑みを浮かべヨゾラが答える。
「ちょっとこい」
いつもの、丁寧で穏やかな言動はどこにもない。
ナギはヨゾラの胸ぐらを掴んでそのままどこかに連れていこうとする。
「待って!日が暮れはじめてる!外に出たらクズハに.......!」
それに、聞きたいことがたくさんある。
「大丈夫、心配要りません。彼には許可はとってあります。コレも。」
コレと言いながらヨゾラを指さす。
「もし僕たちが戻ってこなくても、先に寝ていてください。戸締まりはしっかり、何があっても扉は開けないように」
「ナギ!ヨゾラ!」
「そんな泣きそうな顔するなよ、こいつの言う通り俺らは大丈夫だ、さっさと家に入れ」
ヨゾラはそういった後、ナギのなすがままおとなしくしていた。
ナギはこちらを一瞥することなく、二人はどこかに向かっていってしまった。
「.......何がどうなってるの?」
残された私に、答えてくれるひと誰もいない。