chapter2_8夜の秘密
「.......本当に覚めた」
この前と同じ、自分の家。
「もう朝になったのか」
『君には真実を見つけてほしい。そして私たちを導いてほしい。』
「今日もまた意味不明だった.......」
「にしても、君に見てほしいことが起きるって何が起きるんだろう」
「ナギとヨゾラは.......今日もいないの?」
おかしい。
2日連続夜にいないなど異常事態だ。
クズハがこのことを知ったら島から追い出されかねない。
「二人は何をしているの.......?」
もともとナギが夜出かけることがあった。
しかし理由はどうしても教えてもらえなかった。
今回もそれと同じなのだろうか。
ざっ、ざっ。
「.......!」
足音が聞こえる。
二人が帰ってきたのか?
「ど、どうしよう」
とりあえず隠れないと.......。
起きているのがばれたらまた何も教えてくれない。
慌てて自分の部屋に戻り、扉を閉める。
この扉、老朽化が進んでいてあちこち割れ目があるのが不便だったが、今回はのぞき穴として役に立ちそうだ。
「前回の反省も活かさないと.......」
今度はばれないようにしよう。
ガチャ。
「ったく、この島は本当にやっかいだな。アンタは毎日こんなことをやっているのか?」
ヨゾラだ。
「毎日という訳ではない。必要なときに招集されて、やるべきことをなす。それだけだ」
ナギも後に続いて戻ってきた。
「!?」
声が出そうになり、慌てて手で口を押さえる。
二人とも、服の至る所に血がついてる。
怪我をしたのか、それとも、誰かを傷つけたのか。
何をしてきたの?
「シグレは.......この時間ならまだ寝てるだろうな」
「そうでなければ困る。彼女には何も知らせたくない。.......何も知らなくていい」
#ヨゾラ
「.......そうやって箱の中でずっと匿っておくつもりなのか?」
「そうだが?それの何が悪い?」
「本当にシグレはそれを望んでるのかって聞いてるんだよ」
!
私が望むこと?
「望むも何もないだろう。シグレには記憶が無いんだ。以前の彼女ではない」
昔の私を知っているの?
「今は、だろう。なあ、いつまでこんなことを続けるんだ」
「お前には関係ない」
「関係あるよ。アイツもアンタも、自分を蔑ろにしすぎる。」
「確かに今のアイツには記憶は無い。だけど、それでもアイツがアイツであることには変わりないだろ?」
「この前あったとき、確信したよ。たとえ記憶が無くたってアイツは何も変わってない。」「だからきっと、今おれとアンタがやらされていることを知ったらアイツは怒ると思うぜ」
「『なんで教えてくれなかったんだ』ってね」
いつも喧嘩ばかりで、ナギのことが嫌いなんだと思っていたので、ヨゾラの発言は意外だった。
ひょっとしたら、彼は嫌っていたのではなく、怒っていたのかもしれない。
一人で背負い続けるナギに。
「.......言ってどうなるっていうんだ」
ずっとヨゾラの話を聞いていたナギが、口を開いた。
「この島のこと、僕たちがやっていること、それをシグレに話して、何が変わるって言うんだ」
どこを見ているのか、ナギの視線は定まらない。
低く、この世全ての呪っているような、声に背筋が凍る。
「ナギ」
「何も変わらない。状況はむしろ悪化する。」
「僕の願いは1つだけ。そのためなら僕はどんな犠牲だって喜んで払う。誰にだって、シグレにだって邪魔はさせない」
「.......記憶がなくなったところで、彼女が変わらないことくらい僕にだって分かるさ」
「分かっているからこそ、僕はシグレには何も知らないままでいてほしい」
「二度は間違えない。今度こそ、僕は彼女を守ってみせる」
ナギの願い。
私を、守る?
「.......目的は同じはずなのに、俺たちはいつも道を違えるな」
そう言ってヨゾラは少し困ったように笑った。
「ナギ、アンタの気持ちも、分からなくもない」
「それでも、アイツは、全てを知るべきだと思う」
「どちらにせよ、選ぶのはアイツだ」
「やっぱりあのまま閉じ込めておけばよかったよ」
苦虫をかみつぶしたような顔で、ナギが吐露する。
「俺がいなくても、いずれこうなってたさ」
呆れたようにヨゾラが返す。
そう言ったきり、二人は言葉を交わさず部屋に入っていった。
「.......この島で何が起こっているの?」
みんなは何をしているの?
数時間後
もうすっかり朝だ。
起きていたのがバレないように寝たふりをしていたが、そろそろ起きることにした。
「おはよう」
ナギが寝室からでてきた私に気づいた。
「おはようございます。ずいぶん早いですね」
「そういうナギも、十分早いけどね。」
「ヨゾラも、おはよう」
私は椅子にかけたヨゾラにも挨拶する。
「.......おう」
いつもと変わらない日常。
でも当たり前じゃない、誰かの苦しみの上にたつ砂の城。
「.......ちょっと外の空気吸ってくる」
2人を前に、どうしていいか分からず、気がついたらそう呟いていた。
「分かりました。朝ご飯までには戻ってきてくださいね」
「わかった」
昨夜のことを聞く勇気は、私にはなかった。
ナギのあんな悲痛な顔を見たら、簡単には聞けなかった。
どんどん知らないこと、分からないことが増えていく。
なんとなく二人と一緒にいると、昨日のこととかを聞きたくなってしまうので、とりあえず外にでることにした。
だけど足取りは重く、どこに行けばいいのかも分からない。