chapter3_2TB 森との接続 side S
「じゃあこれで」
そう言ってカヤは戻っていった。
クズハは森の奥深くにある日の光のほとんど当たらない場所にある湖にいた。
いたというか、瞳を閉じて水面にたゆたっていた。
力を増幅させるために、滅びたドメインノヴァや空間を構成するエーテルなどを吸収する必要があり、この状態で森と接続しているらしい。
何というか、芸術品の様な美しさと神々しさを放っている。
そんな場合ではないのに、おもわず見とれてしまう。
『何ぼさっと突っ立ってるのよ』
「え?」
クズハの声が頭に響く。
慌ててクズハを見るが、微動だにしていない。
『それは単なる容れ物。
今はこの場と繋がっているから、ここからお前に介入している』
そんな規格外もできるのね.......。
『その代わりここから動けないし、ここから出た奴らには一切干渉できないけど。末梢器官は全て接続を解除しちゃったしね』
クズハはこの島にいる私たち以外の全ての生物に憑依感染して、情報を集めたり、監視していた。
でもそちらに気を回す余力が無くなったため、今接続しているのは本体とこの森だけらしい。
『敵が来るまでのことはカヤに任せているし、カヤの能力を低く見積もっている訳ではないけど、それでも彼女には大きな負担を強いてしまったわね。
仕方ないこととはいえ.......。』
確かに、数ヶ月とはいえ今までクズハがやっていたことをカヤ一人でやるのはかなり大変そうだ.......。
『というわけで』
声色とよべばいいのか。クズハの言葉の雰囲気ががらっと変わった。
「?」
『お前さん、近くに大きな樹があるだろう?
』
「.......どこを見ても大きな樹しかないけど」
『一番近いやつ!』
「あーこれかな.......?」
『見つけたわね。近づいて、木の根元を探りなさい』
「.......?」
疑問だらけだが、とりあえず言われた通りに樹に近づいて根元を探る。
そこには、少年が眠っていた。
「!」
というかクズハだ。
クズハを小さくしたような子供がいる。
隠し子?
『冗談でもぶっ飛ばす』
「ごめんごめんごめん!」
森が不穏な気配を帯びてきたのでとりあえず死ぬほど謝っておいた。
「しかしてこの子は.......?」
『それは私の分御霊よ』
「分御霊.......?」
『私の特性の2つ目、「自己分裂」で創ったサテライト機ね。元々は原型の十八番だから、私のはあまり質が良くないんだけど』
「島のみんなみたいなのとは違うの?」
『あれは私の欠片の欠片。だから簡単な暗示とか指令系統しか使えない。情報の双方向性はあるけど、基本的に感覚共有しかできない。そっちは私の性質もコピーしてるから、私のように振る舞って、自律的行動も可能。だけど意識だけしかコピーしてないから能力とかは使えないけどね。』
なんだか難しい話だ。
理解したようなしてないような.......。
というかこれを創ってたらクズハの負担は減らないのでは.......?
『そいつは完全自律思考型の子機だから、私が管理しなくていいの。というか原理なんてどうでもいいのよ』
『それ、貸してあげるから。カヤを助けてあげて』
「分かった」
『あとで同期するから、壊れないように見張っておいてくれない?』
「えーと」
『つまり、そいつのお世話係ね、頼んだわよ』
「う、うん」
『じゃあそいつを連れて戻りなさい。案内はそれがやるから』
そう言ったきり、クズハは応答しなくなった。
.......側にいるつもりが予想外のことが起こった。
「とりあえずこの子を起こせばいいのか」
.......どうやって起こせばいいんだ?
しばらく頭を悩ませた。