chapter3_1TB 顔役代理 side S
島を守るため、それぞれが動き出した。
私たち3人はクズハとカヤと共に、居住区域の住民を、立ち入り禁止区域の中の一角に避難誘導をすることになった。
中には自分が希楼種であることに気づいていない住民もいるので、クズハの暗示とナギの薬により、全てが終わるまで眠らされることとなった。
はじめて立ち入り禁止区域の中に立ち入った。
一見するとただの森なのだが、なにか威圧感がある。
畏れに自然と包まれるというか、神々しさすら感じる。
「.......寒い」
常春の気候のはずなのに、身体の芯から底冷えする。
「はぐれたら死ぬわよ」
先頭を切るクズハに脅されて慌てて前を向く。
しばらくすると、目的地に着いた。
鬱蒼と茂る木々に覆われた、大きな洞窟だった。
「こんなところが」
内部は広く開放的で、天井部分から日の光が零れていた。
足下は苔に覆われて、これなら横たわっても痛くなさそうだ。
クズハの暗示がかかっている住民が1人、また1人と間隔を取って眠りにつく。
眠りについた住人から順にナギが薬を投与する。
「何ぼさっとしてるの、出るわよ」
「あ、うん.......」
洞窟を出る、なんだか洞窟内より意識が清明になった気がする。
「あそこに生育する植物には毒性があるの」
それを利用して一時的に仮死状態にするようだ。
「え.......じゃあ」
「あのままいたらあいつらと同じか、最悪二度と目覚めなかったかもね」
悪びれずクズハが言う。
「まあ、お前さんの場合は、覗き見がいるからそんなに強くは効かないと思うけど」
「.......」
ありがとうシェムー。死なずに済んだ。
「はいご苦労さん。ということで一旦解散」
これからは各自別行動である。
住民の避難が完了した段階で、クズハは森の奥に籠もり、決戦に備えるとのことだ。
この準備により、クズハの島の生物へのコントロールが細部まで行き渡らなくなったのも、住人の避難の理由の一端である。
クズハをここまで本気にさせるとは、私たちが相手にしなければならない相手はどれほどの者なのだろうか。
カヤはクズハのサポートに回り、クズハの体調管理や顔役代理として島の統率を担っている。
迷ったが、私はクズハの側にいることにした。
何が出来るかとかは分からないけど、でもせめて側で見守っていたかった。
邪魔だと言われたらおとなしく引き下がろう。
一応カヤに聞いてみた。
「くずはがどういうかはわからないけど、そういうことならそばにいてあげて」
「わたしもずっとそばにいれるわけじゃないから」
島の様子の監視など、やることは山ほどあるのだろう。
「うん分かった。ありがとう」
「あんないする。ごはんとかはあとでもっていく」
カヤに導かれ、私はクズハの元に向かった。