chapter2_9TB ただ、そうであるだけで sideS
数日経っても待機の時間が続いた。
クズハは準備に追われているようだ。
忙しい間をぬって、私の話を聞いてくれたのは感謝しかない。
生きているだけで罪だなんて、そんなことは無い。
クズハと話すことが出来て、その思いに自信を持つことが出来た。
「だけど.......」
これからも、ただそうであるというだけで、人ならざる者であるというだけで自分の大切な人たちが傷つけられるのは耐えられない。
「私は何が出来るのかな」
一個悩みが解決したら、また悩みが浮かんでくる。
「ううー、無力だー」
自室の机に突っ伏す。
『クズハも言っていたけど、悩んでもどうしようもないことなら別のことを考えたらどうだい?』
「でも.......」
『それに君にはやれること、ううんやらなければならないことがたくさんある』
「ほんと!?」
がばっと上体を起こした。
「何々!何があるの?教えてよ」
『今はまだその時じゃないね』
「ケチ!いけず!秘密主義!」
『後ろのやつは罵倒なのか.......?』
「何で教えてくれないのよ~」
『君は実感が湧かないかもしれないけど言葉というのは、とても重いんだよ』
「シェムーに関しては言葉を使ってないじゃん」
『あくま私は特殊な例だ。というか音を介してコミュニケーションをしてないだけで言葉自体は使っている』
「そうか」
納得した。
『言葉で誰かに伝えるという行為はとても恐ろしいことなんだ』
『言葉に限らないけど、他者に影響を与えるというの点でとても注意して扱わなければならないんだ』
『人間によっては、自分は他人に影響なんて与えないちっぽけな存在だと思う個体もいるみたいだけど大間違いだ』
『刃物で人を殺せるように、言葉で、動作で、他者は容易に傷付けられるし、殺せる』
『だから十分に自分の言動には気をつけるんだよ』
「.......分かった」
「分かったんだけど、なんか丸め込まれた様な気がする」
『そう?』
『まあこの話は今度にしよう』
『来客が来たみたいだ』
「え?」
コンコン
「はいどうぞー」
訊ねてきたのはナギだった。
「ナギ?」
「クズハから、みんなを集めるようにいいつけられました」
クズハの準備が整ったようだ。
「いよいよ、始まるそうです」