第42話~一騎打ち~
「陛下!危ない!!」
ランデスの動作を予見していたかのように、アンティムがセレスタ王の前へと踊り出た。
”グサッ”
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
ランデスが小さなボーガンから放った矢は、アンティムの左肩に深々と突き刺さり、周囲に鮮血が迸る。
「うぅぅぅ…」
強烈な痛さに耐え兼ね、アンティムが呻き声と共にその場にうずくまる。
「アンティム!!」
「へ……陛下………ご無事……でござい………ますね…」
「私は無事だ!それよりも、アンティム!今は自分のことを考えろ!!」
”ドドドドドド…”
”キィン!”
アンティムが矢で打たれたことを確認したセレスタ兵十数人が、ランデスを取り囲んで剣の切っ先を向ける。
「今すぐ軍医をここへ呼んで参れ!!」
「御意」
そして、ランデスを取り囲むセレスタ兵を指揮している隊長が、ランデスへの一斉攻撃を仕掛けようと手を挙げた、その時だった。
「ランデスを攻撃してはならぬ!!」
セレスタ王の言葉に、隊長を含めた全兵士たちの動きがぴたりと止まる。
「陛下!!何故でございますか!?この者は、アンティム様に牙を向いたのです。極刑を与えられて然るべきでございます!!」
一斉攻撃を指示しようとした隊長が、ランデスへの攻撃をセレスタ王に懇願する。
「極刑を与えないと、余は一言も言った覚えはないが!?」
セレスタ王の鋭い眼光が、ランデス一点に向く。
「ア…アンティム様!?」
「へ………陛下……」
即席の担架に乗せられ、幕舎へと運ばれようとしているアンティムが、軍医の制止を振り切り、セレスタ王に話しかける。
話しかけられたセレスタ王は、幾分表情を和らげ、担架に乗せられたアンティムを見た。
「アンティム。どうか私のために、軍医の言うことを聞き、治療を受けてくれ。お主を傷つけたあやつを、私は許す訳にはいかないのだ!!」
”バサッ!コツコツコツコツ…”
セレスタ王はマントを翻すと、取り囲まれたランデスの元へと歩を進めた。
「へ…陛下………どうかご無事で………」
最後は消え入るような声で、アンティムは気を失い、目を閉じた。
そして、ランデスの元へと着いた国王は、兵士を更に驚かせる命令を下す。
「剣を収めよ!!」
国王の命の意味が分からず、ランデスを取り囲む兵士たちが困惑する。
「…余の命が聞けぬと申すか?ランデスに向けた剣を収めるのだ!!」
2回目の命令で、ランデスを取り囲む兵士たち全員が剣を鞘に納める。
「…どういうつもりだ!?セレスタ王よ」
「…アンティムを傷つけた罪は、余が直々に下すということだ!さぁ、剣を持つのだランデス。この至近距離では、アンティムを傷つけた卑劣な方法は使えまい」
“キィン”
セレスタ王が、ランデスに向かって剣を構える。
“ギュゥゥゥ…”
そして、ランデスもセレスタ王に向かって剣を構えたその時、取り囲む兵士たちの中から、弓を弾き絞る音が木霊し、その音をセレスタ王は聞き逃さなかった。
「誰も手出ししてはならぬ。ランデスに罰を下すのは、余でなければならぬのだ!!良いな!!!」
「陛下…」
「ひと思いに殺せば良かったものを!好いた女の前で格好をつけたことを、後悔するがいい」
“ザザッ”
ランデスが地面を蹴り、セレスタ王に向かった突撃した。
“ブゥン”
“ギィン!!”
ランデスが振りかざした一撃を、セレスタ王は難なく受け止め、剣と剣がぶつかり合う音が木霊する。
“サザッ”
一撃を受け止められたランデスは、再び地面を蹴り、セレスタ王との間合いを取る。
「今度は、こちらからゆくぞ!!」
“ザザッ”
取られた間合いを詰めるように、今度はセレスタ王が地面を蹴り、ランデスに突撃する。
「私と同じ攻撃を私に仕掛けても無駄ですぞ、国王よ!!」
「…余も舐められたものだな!!」
するとセレスタ王は、右手に持った剣を後方に下げると、左手を前方に掲げた。
掲げられた左手の前に、セレスタ王の詠唱を待つことなく、小さな炎の玉が形作られていく。
「…それは………まさか!?」
「余も、王族の端くれ。魔法の一つや二つ、使えないと思うたか!?」
“ファイヤーボール!!”
セレスタ王の左手から火の玉が放たれ、ランデスに向かって一直線に飛んでいく。
「そんな魔法、我が剣で叩き切ってくれる!!」
“ブゥン”
“ヒュン…”
「??」
ランデスは、目の前に飛んできた火の玉を、剣で真っ二つにしたはずだった。
ところが、火の玉はランデスの間合いに入った瞬間に飛行方向を上方へとずらし、ランデスの一撃をかわした。
ランデスは、突然の出来事に狼狽し、火の玉の行方を見失ったものの、その微妙な気配は感じ取ったままだった。
「そこだ!!」
“ザザッ”
“ブゥン”
背後に気配を感じたランデスは、その場で振り返り、剣を振るった。
剣の一撃は見事火の玉に命中し、火の玉は真っ二つになって地面に落ち、その場で消え失せた。
「セレスタ王よ………私はどうやら、本気を出さないといけないらしい…」
ランデスはそう言うと、おもむろに懐から紫色の小瓶を取り出した。
「ワイギヤ教の神々よ。我に力を!!」
“ポンッ”
“ゴクゴクゴク”
ランデスは小瓶の蓋を開けると、中に入っていた液体を飲み干した。
そして数秒後…
“ゴリ………ゴリゴリゴリゴリ………”
ランデスの周囲に、骨と肉が擦り合う鈍く不快な怪音が木霊したのだった。




