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Valkyrie of Moonlight~月明りの剣と魔法の杖~   作者: 剣世炸
Episode8「聖遺物を求めて」
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第32話~方針転換~

 アルモの精神感応テレパシーの魔法で、エプールマウンテンで修行をしているシュー達とコンタクトを取ることに成功した俺たちは、クレスの鎧が手に入り、セレスタ国王が一緒にいることを告げた。

 当然のことながら、バルデワを出た時と比べ事態が180度変わっているため、シュー達は状況の説明を求めてきた。

 俺とアルモ、そしてレイスは、当初は予定通りセレスタの首都アーチスに向かっていたものの、燃料切れにより進行の停止を余儀なくされ、燃料補給のために降り立った湿地でセレスタ国王率いる遊軍と出会い、中立地帯での出来事やバルデワの領主ランデスの目論見とセレスタ国王の考えを知り、それに賛同したことを説明した。

『………バルデワから逃げるように出たときから、何となく波乱の予感はしていたが…』

『本来、私たちの味方であるはずのザパート連合公国が敵で、敵であるはずのセレスタ王国が味方だなんて………』

『…でも、結果的にセレスタ国王陛下のご高配で、聖遺物アーティファクトの一つを手に入れることができたのですから、よろしいのではなくて?』

「リーサの言う通りよ。そして、私たちは陛下の恩義に報いるためにも、そしてこの世界のためにも、ターパの領事で公国の盟主でもあるアンティムさんを救出しなくてはならないわ」

『陛下、その、アンティムさんが捕えられている場所というのはお分かりなのですか?』

「それが、斥候からの報告では、幽閉されているということだけしか分かっておらぬのだ」

『…では、こちらとそちらのちょうど中間地点にあたる中立地帯付近で合流し、一度バルデワに戻って情報を収集する必要がありそうですわね』

「そうしてもらえるとありがたい」

「…という訳で、私たち3人はアンティムさんの幽閉先の情報を掴むため、シュー達と合流したいと存じます。陛下は、これからどうなさいますか?」

「余もそなた達と行動を共にしたいところではあるが………我が軍の指揮を余がしないわけにもいくまい…余が我が軍を使ってザパート軍を引きつける。バルデワ内も手薄になろう。その隙をついてアンティムの情報を掴み、幽閉先から救出後、我が軍に再度合流して欲しい」

「合流後は、公国軍を撃退した後、セレスタ軍の一翼を担っているワイギヤ教軍と将軍を殲滅する、という訳ですね」

「うむ………だが………この作戦で、アンティムを救い出し、ザパート軍とワイギヤ軍を一掃することができるであろうか?」

『陛下!大丈夫でございます!!英雄クレスの子孫にワイギヤの子孫もいる上、俺とサリットは忍術を修得しました。大船に乗ったつもりでいて下さい!!』

『ちょっとシュー!まだ私たちは忍術の基礎を修得しただけよ…そんな大言を吐いて…』

「おお!バルデワの一部のシティシーフのみが身に着けているという秘技を!!それは心強い!」

『国王陛下!こちらの二人はまだ修行中の身でございますが、闘いが始まるまで、私が責任を持って指南を続け、きっと陛下のお役に立てるようにしてみせます。ご安心くださいまし』

「リーサ、と申したな…余の家臣でもないのに、苦労をかけるな…」

『アルモ様。そちらから中立地帯に向かうのに、いか程かかりますの?』

「そうね…車の燃料補給に今日1日が必要ね。補給さえ終わってしまえば、すぐにでも中立地帯に向かえるはずよ」

『了解ですわ。私たちも、アルモ様方が中立地帯に到着する頃合いを見計らって、エプールマウンテンを出発することにいたしますわ。その間も、シュー様とサリット様の修行を続けさせて頂きますわね』

「リーサ…よろしく頼む!」

『他ならぬレイスの頼みですもの。任せて下さいまし』

「それじゃ、精神感応テレパシーを終わるわね」

『中立地帯で、また会おう!』

「シュー!気合入り過ぎて、失敗しないようにな!」

『アコードこそ、身体に気をつけろよ!』

”フゥン…”

 漆黒の翼や車での通信が終わる時のような音と共に、シュー達との交信は終わった。

「シュー達は、修行に一区切りできていたみたいね」

「ああ。リーサと同じような力がシューとサリットに身に付いたのだとすれば、俺たちにとっては心強い力になるだろう」

「あれでリーサは、力の半分もアコード達には見せていない。シューとサリットは、私たちが魔法を使えるのと同様の力を手に入れたと思って間違いないだろう」

「…さて、余は余の役割を果たしに行くとしよう。アンティムのこと、くれぐれもよろしく頼む」

 一国の王が、俺たちに頭を下げる。

「国王陛下、どうか頭をお上げ下さい」

「陛下が役割を果たされるように、俺たちには俺たちの役割が………使命がございます。その使命を、果たしに行くまでです」

「例えそうであったとしても、余はお主たちに頼みたい。どうかアンティムを……どうか………」

 よほどアンティムのことが心配なのだろう。セレスタ国王の瞳に、大粒の涙が浮かんでいる。

「陛下………お任せ下さい!」

「………情けないところを見せてしまったな」

「いえ。そんなことはございません。愛するもののために正直に涙を流せる。王様は、素晴らしい方です」

「英雄の子孫にそう言ってもらえるなら………」

「陛下も、どうか道中お気をつけて」

「お主たちも、十分に気を付けるのだぞ。では、さらばだ」

“バサッ……コツコツコツコツ…”

セレスタ国王はそう言うと、マントを翻して洞窟の出口へと向かっていった。

「それじゃ、俺たちも車に戻るとしようか」

「ええ。アコード、レイス。私の手を取って」

 俺とレイスがアルモの手を握ると、瞬間移動テレポーテーションの魔法が発動し、次の瞬間には燃料補給をしている車の付近へと移動していた。

 そして翌日、俺たちは車に乗り込み、シュー達と落ち合う予定になっている中立地帯へと向かったのだった。


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