第27話~親友~
レイスが指し示した場所は、バルデワの遥か東方、セレスタ大陸の東端と言ってもいいであろう場所だった。
「レイス………そこは、今の俺たちから見ると『敵地』なのでは?」
「その通り。セレスタ王国の首都アーチスさ」
「『虎穴に入らずんば虎子を得ず』ってことですわね…」
「三日月同盟に所属しているはずのザパート連合公国内で、同盟を裏切るような状況が発生しているんだ。敵地セレスタ王国の状況がどうなっているのか、確認する必要があるだろう?」
「確かに、今俺たちが掴んでいるセレスタ王国の状況と言えば、クレスの鎧がセレスタ王国によって盗まれたらしい、という位だしな」
俺たち3人は目を合わせると、全員が同時に力強く頷く。
「行こう、セレスタへ!」
「俺とサリットも、修行が終わり次第、セレスタへ向かう」
「道中、気を付けて」
「ありがとう、シュー、サリット!」
こうして俺とアルモ、レイスの3人は、シューとサリットをリーサに預け、セレスタ王国の首都アーチスへと向かった。
***
「………行ったわね」
「ああ。だが、伝説の英雄の子孫に、伝説の魔法使いの子孫、そして元盗賊のCAメンバーさ。ちょっとやそっとのことで、やられることはないだろう」
「私はCAのメンバーではありませんが、CAが伝える正史を存じておりますの。確かに、アルモ様が英雄クレスの子孫で、アコード様がワイギヤ教団の祖の子孫ならば、問題ありませんわね」
「さて、私たちも早速修行を始めるわよ。リーサ、お願いしてもいい?」
「ええ。よろこんで、ですわ」
「忍術の修行って、まずは何から始めるんだ!?」
「まずは、本当にシュー様とサリット様が忍術に耐えうる体力をお持ちか、テストさせて頂きますわ」
「…どうやって!?」
するとリーサは、レイスが広げたままのセレスタ大陸の地図の、ある一点を指し示した。
「そこは?山のような絵が描かれているような気がするけど…」
「サリット様のおっしゃる通り、山ですわ」
「山なら………こことか……ほら、そこにもあるんじゃないのか?」
リーサの答えに疑問に思った俺は、バルデワの北や東にある山を指し示しながら問う。
「確かに、シュー様の示した山でも良いのですが………私が示した山『エプールマウンテン』は、忍術を扱う者達の間では有名な、活火山ですの」
「活火山!?」
「火口から溶岩が現在進行形で噴き出していて、その周辺は、およそ人が生活することが困難な山のことですわ」
「修行も命懸けって訳か…上等じゃねぇか!!やってやろうぜ、サリット!」
「いつになく熱いのね、シュー!」
「当たり前じゃないか!アコード達に使える魔法にも似た力が手に入るかも知れないんだ!このチャンスをものにしない手はないだろう!?」
「………シュー………、もしかして、特殊な能力に目覚めたアコードに嫉妬して…」
「あら、そうでしたの!?」
俺は思わず頬を赤らめてしまい、二人の視線を回避するため、明後日の方向に顔を向ける。
「ち………違う!そういうことじゃなくて、俺はあくまでアコード達の旅の役に立ちたくてだな………」
「昔から、あなたとアコードは『ライバル』だったからねぇ…」
「これが、男の友情って奴ですのね!素敵ですわ!!」
「………勝手に言ってろ!!!」
「さて、シューをからかい倒したところで、リーサ、出発は!?」
「何だかんだ言って、お前も乗り気なんじゃないか!!」
「あら、私はあなたの言ったことを否定はしていないわよ!!」
「!!」
「シュー様は、サリット様の尻に敷かれるタイプですわね………出発は、明日にしませんこと?数日で帰って来れる訳でもありませんし、いろいろと準備をしなくてはなりませんので…」
「分かったわ!」
「了解。ところでリーサ、俺たちが準備するものは?」
「それはですわね………」
こうして俺たちはエプールマウンテンに向かう準備を始めた。
***
リーサの元を出発した私たちは、領事の追っ手をどうにか搔い潜り、バルデワの入口へと戻っていた。
「それにしても、シューのあの提案にはびっくりしたわね」
「ああ。だが、あいつらしいと言えばあいつらしい、かな…」
「…同じようなことが過去にあった、と言わんばかりに私には聞こえるが??」
レイスの質問に、清々しい顔つきでアコードが空を仰ぐ。
「昔から、俺はシューやサリットと家族のように過ごしてきた。どんなに困難なことでも、一緒に乗り越えてきた。故に、俺とシューは小さな頃から好敵手と呼ぶに相応しい関係だったんだ」
「確かに、私がフォーレスタ村を訪れた時も、君たち3人は自警団として守り人をしていたわね」
「で、俺はアルモと出会い、村を旅立ち、レイスと出会った。そして自らの出自を探るため、村に戻った」
「そこで、君は本来の力を取り戻した」
「それまで好敵手だった親友が、ものの数か月の間に遠い世界へと行ってしまった、ということか?」
「そう思われても仕方ないだろうな…この世界では禁忌とされている魔法を、俺は使えるようになったのだから…」
「…アコードは、良き親友を持ったのだな!」
「そう思うよ。そうじゃなきゃ、誰が好き好んで厳しい修行の道を選ぶものか………」
「でも、それって裏を返せば…」
「俺たちがこれからしようとしていることも、成功させなきゃいけないってことだ」
“フゥゥゥゥゥゥン………”
ステルス機能を解除した車の姿が、目の前に露わとなる。
「さて、それじゃ私たちも目的を果たすために出発しましょう!」
「ああ!!シューとサリットも頑張っているんだ。負けていられない!!」
こうして私たちは、無事に隠していた車に乗り込むと、セレスタ王国の首都アーチスに向かって走り出したのだった。




