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Valkyrie of Moonlight~月明りの剣と魔法の杖~   作者: 剣世炸
Episode8「聖遺物を求めて」
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第26話~忍術~

“ドドドドドドド…”

「…突入!!」

“バタン”

“ドドドドドドドド…”

「…」

“ヒュゥゥゥゥゥゥ…”

「…誰もいません!」

「どうやら、あそこの窓から脱出した模様です…」

 兵士が指さした窓へ、一人の男が向かう。

「…こんなところから脱出を手引きできるのは、シティシーフしかおるまい…皆の者、今から戒厳を布告する。戒厳令に則り、アルモ一行を捕らえるのだ!」

「「「「かしこまりました!領事様!!」」」」

「…何としてでも、あやつらを捕らえて英雄の武具を我が物とし、この大陸に覇を唱えるのだ!!」

 領事は踵を返すと、自らの執務室へと戻っていった。


***


“ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…”

 バルデワの町に、太くたくましい音が鳴り響く。

「リーサさん…」

「リーサ、でよろしくってよ!?」

「じゃあリーサ。この音は一体…」

「…何だか、この音が鳴り始めた瞬間から、住民の動きがあわただしくなったような気が…」

 確かに、それまで普通に道路を歩いていた歩行者たちは鳴りを潜め、作業をしていた住民たちも、そそくさと自宅へと入り、ガチャンと鍵を閉めている。

「領事が………ランデスが戒厳を布告したのですわ…」

「俺たちを、捕まえるために!?」

「そういうことになりますわね…少し急ぎますわよ!皆さま、遅れないでくださいましね!」

 それまで歩行者の群れに隠れるように歩いていた俺たちだったが、一転リーサを先頭に建物の影に隠れながら、全力疾走で領事の館からずんずんと離れていった。

 一刻程直線に走ったところで、リーサは突如として進路を左に変え、数メートル進んだところでリーサが両手を使って何かの紋様を描くと、突き当りの建物の壁としか認識できない場所にぽっかりと入口が出現し、躊躇なく中へと入っていく。

 俺たちもリーサに倣い、その入口へと全員が入ると、次の瞬間には入口が消えていた。

「壁しかなかった場所に、突然入口ができるなんて………何だか、キツネにでも化かされた気分だわ…」

「リーサも、レイスと同じように魔法が使えるんだな」

「…リーサが使ったのは、魔法ではない」

「えっ!?」

「この大陸の北、サプコッタ大陸よりも更に北にあるリーベンの地で受け継がれている『忍術』というものですわ」

 そういうとリーサは、俺たちの前で入口を出現させた時の紋様を、両手で形作る。

「これは『印』といって、術を発動させる際に用いる動作ですの」

「俺やアルモ、レイスが魔法を発動させる際に使う『詠唱』みたいなものと考えればいいのか?」

「そういうことだ。形が異なるだけで、忍術を使うにも、星に眠る魔力を利用していることは変わらない」

「ちょっと質問なんだけど………」

「シュー?」

「アルモ。魔法を使うためには、気が遠くなる程長い期間の修練か、天性の素質が必要なんだよな?」

「ええ。その通りだけど…」

「リーサが俺たちに見せた『忍術』は、どうなんだ?」

 いつになく真剣な面持ちで、リーサにシューが質問する。

「『忍術』を扱うためには、体力的な修練、そして9つある『印』を覚える必要がありますわね。『印』を覚えたら、今度はその組み合わせを覚えて、魔法のようなさまざまな奇跡を出現させますの」

「つまり、体力的に相当な修練ができていれば、あとは『印』とその組み合わせを覚えるだけ、ということなんだな!?」

「まぁ、簡単に言ってしまえば、そういうことになりますわね………立ち話も何ですから、とりあえず中にお入りになってはいかが?」

「リーサの言う通りだ。この話の続きは後にして、休息を取ろう」

「ここは、私の隠れ家ですの。術でこの建物全体に結界を張っておりますから、ランデスに見つかることは百に一つもありませんわ。ゆっくりしてくださいまし!」

「リーサ、ありがとう!」




 リーサの隠れ家で十分な休息と食事をご馳走になった俺たちは、今後のことやシューの質問の続きについて、ミーティングを開いた。

「さて、まずはリーサにお礼が言いたい。俺たちを…アルモをランデスから救ってくれて、本当にありがとう!」

「私は、レイスからの連絡を受けて、バルデワに待機していただけですわ!お礼を言うなら、レイスに言ってくださいな」

「いや…私は仲間のために当然のことをしたまでで…」

「それでも、レイスがリーサに連絡を取っていなければ、私たちは間違いなくランデスから逃れることはできなかったわ。ありがとう、レイス!」

 正面からお礼を言われ、レイスは頬を赤らめている。

「さて、シューの質問の続きだが………シュー、もしかして…」

「ああ、そのもしかして、だ」

 シューと共に、サリットがその場に立つ。

「シューと話したのだけど………リーサ、私たち2人に、その『忍術』を教えてもらうのはダメかしら?」

「確かに私は、体力的な修練ができていれば、『印』とその組み合わせを覚えるだけ、と申しましたが…」

「俺とサリットは、アコードやアルモの魔法の力にも勝る位の鍛錬をして、これまで難局を乗り越えてきた。それなりに、体力には自信があるんだが…」

「私たちも、今まで以上にアコードとアルモの役に立ちたい。忍術が私たちの旅の力になるのなら、どんなに辛い修行にも耐えるつもりよ」

「………そこまでの覚悟があるのなら………レイス、私、シュー様とサリット様に、忍術を教えて差し上げようと思いますわ」

「いいのか!?」

「ええ。他ならぬ、レイスの仲間の頼みですもの」

「ありがとう、リーサ!!」

「さて、シューとサリットが忍術修行をしている間、俺たち3人はどうしたものかな?」

「それについてだが、私に考えがある」

 そう言うとレイスは、セレスタ大陸の地図を目の前に広げると、ある一点を指し示したのだった。

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