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Valkyrie of Moonlight~月明りの剣と魔法の杖~   作者: 剣世炸
Episode8「聖遺物を求めて」
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第25話~会食~

「…これは、一体………」

 目の前の長いテーブルの上には、5人と1人分の豪勢な料理が並べられている。

「………毒でも、入っているんじゃないか?」

 シューが怪訝そうな目で、並べられた料理を見渡している。

 それもそのはず。バルデワの地下牢に幽閉された俺たちの前に現れた領事は、俺たちを牢から客間サロンへと連れ出し、座らせると縄をほどかせ解放したのだ。

 そして、召し上がれと言わんばかりに両手を前に差し出すと、俺たちの反対側に座った自身はナイフとフォークを手にし、おもむろに食事を始めた。

“モグモグモグ……ゴクン……”

「どうしたのだ?食べないのかね!?」

「いや………この状況で『食べないのかね』と言われて、『はいそうですか』と、出された料理に手を出す者は少ないのではないかと…」

「ならば、魔法でも使って、この料理に毒が入っていないことを確かめれば良いのでは!?」

 領事の『魔法』という言葉に、俺たち全員に緊張が走る。

「そんな緊張しなくとも、本当にこの料理には毒など入っていない。もしここで私が君たちを毒殺などしたら、英雄クレスの子孫たちを殺した悪名高き領主として、末代まで汚名を残してしまうことだろう」

「!!!」

 俺たちだけでなく、その場にいた給仕や領事の部下たちにも、驚きの表情が見て取れる。

「私を………クレスの末裔だとご存知なのですか?」

「こう見えて、私はこのバルデワを取り仕切る領事。小さな国の国王と言ってもいい。その領事が、三日月同盟の正史を何も知らないとでもお思いか!?」

 そう言った領事は、ナイフとフォークをハの字を描くように皿の上に置き、領事の席の後方に立てかけてあった月明りの剣を持つと、アルモのところまで来てひざまずき、剣を両手の手のひらで持ちかえ、アルモに向かって掲げた。

「こちらはお返しします。英雄クレスの末裔、アルモ殿」

「あっ…ありがとう…」

 アルモが剣を受け取り、その場で佩剣はいけんする。

「申し遅れましたが、私は都市バルデワの領事をしております、ランデスと申します」

 その場に立ち上がった領事は、右手を胸に当て軽く会釈する。

「アルモと申します。そして、アコード、シュー、サリット、レイスです」

「この度の皆さんへの非礼の数々、どうかお許し頂きたい。我々ザパート連合公国は、アルモ殿一行を歓迎致しますぞ!」

「…どうやら、本当に歓迎されているようだな」

「みんな、せっかくだから、ランデスさんが用意してくれた料理をいただきましょう」

「アルモの言う通りだ。ここはご厚意に甘えさせてもらおう」

「…」


***


「今日はこちらでお休みください」

 食事をしながら、これまでの経緯をランデスに話した俺たちが、その後に通されたのは豪華な客間だった。

「何だか、至れり尽くせりって感じで、妙な気分だな…」

「突然拘束されて地下牢に入れられた後の、このVIP待遇は、確かにちょっと可笑しな気がしなくもないけど………」

「………兎に角、一度状況を整理しよう。皆、かけてくれ」

 居間にあるテーブルの椅子に、全員が腰かけると、サリットが直ぐに立ち上がる。

「ちょっと、お茶をれてくるわね」

「ああ、ありがとうサリット」

「俺も手伝うよ」

「お願い!」

 給湯室に向かうサリットの後を、シューが追いかける。

「………状況整理の前に、二人に聞いて欲しいことがある」

「…例の、予感って奴のこと?」

「その通りだ。どうも、あのランデスというあの領主は、いけ好かないんだ…」

「元盗賊の勘、って奴なのか?地下牢でも、同じようなことを言っていたが…」

「瞳の奥に宿る虚偽の光というのは、盗賊をやっていた者には分かるというか、何というか…」

「レイスの勘はよく当たるわ。油断せず、気を引き締めておいて損はないってことよね」

「ああ。二人が戻って来たら、用心するように…」

“バタン”“バタン”

 レイスの話がひと段落した矢先、給湯室から鈍い音が木霊する。

“ドドドドドドドド…”

 そして、遠くからは複数名が廊下を走っているような音が聞こえてくる。

「シュー、それにサリット!大丈夫か!?」

 それぞれの得物を手にすると、急ぎ給湯室へと向かう。

「!!」

 そこには、床に倒れた二人の姿があった。

「ぐう…ぐう…」

「スゥ…スゥ…」

 二人の口元からは、深い眠りについていることが容易に分かる寝息が漏れている。

「…どうやら、眠っているようだな」

 ふと、二人が味見をしたであろうティーカップに残された液体の匂いを嗅いだレイスが、眉間にしわを寄せる。

「どうやら、茶の中に睡眠薬が入っていたようだ!」

“ドドドドドドドド…”

 廊下の足音が、少しずつ大きくなっていく。

「早速、レイスの勘が当たったようだけど…」

「これからどうする!?」

 その時だった。

“ヒュゥゥゥゥゥゥ…”

 突然、給湯室と居間をつなぐ通路の窓が開くと、そこには一人の女性が立っていた。

「どうやらお困りのようですわね、元盗賊さん!」

「あなたは誰!?」

「………あれほど派手な登場はやめろと言っていたのに……だが、会えて嬉しいよ、リーサ」

「レイス、この人は…」

「大丈夫、味方だ」

“ドドドドドドド…”

「悠長に話している場合じゃないのではなくって?」

「どうやら、そのようだな」

「さぁ、こっちですわ!」

 俺とアルモでシューとサリットを担ぎ上げると、リーサの案内で領主の館から立ち去ったのだった。

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