第21話~ジェンダー~
月明りの冠は、月桂樹の葉の付いた枝をリング状に編んだ、月桂冠のような形をしていた。
アルモの手中に収まり光を失った冠を、彼女はおもむろに戴いた。
「…綺麗、だな…」
「えっ!?……あっ……ありがとう……」
思わず口から出た俺の言葉に、アルモは顔を赤らめる。
「アコードの言う通り…アルモ、よく似合っているよ」
「昔話に出てくる、戦乙女みたいね」
「皆さんの言う通り、よく似合ってますよ!」
月明りの冠は、まるで計算され作られたかのように、アルモの頭にフィットしていた。
「エレーロ殿。俺たちは、この冠を探しにここまで来たんだ!」
「ええ。私が傍受した本部からの電信で、おおよそのことは理解しているつもりです。故に、クレス像の光が、本部からの電信と何らかの関係があると踏んで、休息頂く前にご覧頂いた次第です」
「これで、聖遺物が3つ揃った、という訳だ」
「さて、喜ぶのは休息を取り、十分に体力を回復してからでも遅くないはずです。クレス像の光の原因も判明し、無事に解決できました。今度こそ、十分に休息なさってください」
「そうね。お言葉に甘えさせてもらうわ」
「さぁ皆さん、こちらです」
クレス像の間で月明りの冠を手に入れた俺たちは、エレーロに先導され、休息を取るべく別室へと移動した。
それから、十数時間後…
「皆さん!本部との相互通信を復活させることができました!!」
十分な睡眠をとり、食事を済ませ、素振りや筋トレ等で腹ごなしをしていた俺たちの元に、エレーロが吉報をもたらした。
「総帥ザイール様が、皆さんと話をしたいそうです」
「私たちも、ザイールに次の大陸のことを聞きたかったところなの」
「漆黒の翼に戻れば解決する話だが、停泊させている場所まで、ここから軽く一日はかかるからな…」
「渡りに船って奴ですね…皆さん、こちらにお出で下さい」
エレーロの案内で、俺たちは通信室と呼ばれる部屋へと足を踏み入れた。
「ザイール様。アルモ様ご一行を連れて参りました」
漆黒の翼にあるような、巨大なモニターが設置され、見慣れた姿がその先に映し出されていた。
『皆、無事で何より。そして、月明りの兜……いや、冠も無事に手に入れることができたようだな』
「『兜』って聞いていたから、ちょっとびっくりしたけど、ね」
「騎士クレスが身に着けていた頭の防具だと聞いていた故に、私は兜だとばかり思っていたのだが………まぁ、この際それは問題なかろう」
「ザイール殿。俺たちは次にどこに向かえば!?」
『これを見たまえ!』
ザイールの姿見から一変、モニターには世界地図が映し出された。
『今いるタマーン大陸の西に、セレスタ大陸があろう。距離的にも、次はそこに行くのが良いと私は考えている』
「セレスタ大陸の同盟支部には、何が隠されているの?」
『私が調べたところによれば、クレスが身に着けていた鎧が封印されているはずだ』
「…で、そこで鎧を手に入れた後は、その北にあるサプコッタ大陸に行くんだな!」
『アコードの言った通りだ。そこの支部には、クレスの靴が封印されているようだ』
「そうと決まれば、早々に漆黒の翼に戻って、セレスタ大陸へ向かうべきだな」
『エレーロ殿は、そこで待機し同盟員の帰還を待ち、体制を立て直してくれ。体制が整うまで、君を支部長代理に任命する』
「ザイール様…かしこまりました。精一杯頑張ります」
「クビラ達が、また戻ってくるかも知れない。油断せず、警戒は怠らないようにすることだ」
「レイス殿…ご心配、感謝します」
『では、何かあったら漆黒の翼から通信をよこしてくれ。健闘を祈る』
ザイールがそう言うと、目の前のモニターは光を失った。
「エレーロ殿、世話になった。レイスの言うように、教軍はまたここを探りに来るかも知れない。俺たちが去った後は、再び入口を地下に埋め、同盟員が帰還した時も、十分に気を付けてくれ」
「重々理解しております。皆さんも、どうかお気をつけて」
こうして俺たち5人は、タマーン大陸の同盟支部を後にした。
「レイス………大変だったわね」
タマーンの同盟支部を出た後、俺たちは漆黒の翼へと向かっていた。
「今回の件は、元盗賊であるにも関わらず、背後を取られ捕まった私に非がある。本当に申し訳ない…」
「でも………そのお陰でタマーン支部への入口は爆撃されなかったわけだし、結果オーライってことでいいんじゃないか?」
「シューの言う通りだ。支部は守られ、レイスも無事に俺たちの元へと戻ってこれた。それで良しとしようじゃないか」
「レイスには、私たちは助けてもらってばかりだったし………これで少しは恩が返せたかな?」
「アコードにサリットまで……私も、今まで以上に精進し、皆の役に立つよう頑張らせてもらおう!」
「頑張りすぎて、身体を壊さないようにね」
「それにしても、月明りの冠は、本当にアルモに似合ってるよな…」
「それは、ここにいる全員の意見だぜ!?」
「ええ。まさに戦乙女と呼ぶに相応しいと思うわ」
「そんな………褒めても何も出ないわよ!」
皆の称賛の言葉に、アルモが顔を赤らめる。
「……私は、英雄クレスはずっと男性だと思っていたのだが、もしかして、クレスは女性だったのではなかろうか?」
レイスの言葉に、全員が歩を止める。
「…私は、この『月明りの剣』の記憶を過去に見たわ。その時、ワイギヤとクレスが、この星の魔力を杖に集める最初の場面を見たのだけれど、思えばその時のクレスの声は、女性と言っても可笑しくない位、とても透き通っていたわ。三日月同盟の史実で英雄クレスと言われていて、今まで先入観で男性だと思っていたけれど…」
「漆黒の翼のステラが知るクレスは、今のアルモの数年後の姿形をしていたようだったし、冠の形状は、今のこの世界では結婚式の時に新婦が身に着ける冠に使われている位だ…」
「当時は、男性もこの形状の冠を身に着ける風習があったかも知れないけれど、アルモの見た剣の記憶、ステラが知るクレスの姿形、そして冠の形状のことを考えれば、英雄クレスは女性であった可能性が非常に高い、ということになりそうね」
そんな話をしているうちに、俺たちは漆黒の翼へと無事に戻っていた。
そして、俺たちを乗せた漆黒の翼は、一路セレスタ大陸の同盟支部へと移動を開始したのだった。




