第18話~クビラとの闘い~
「水の精霊ウンディーネよ…その力で嵐を引き起こし、私たちを護りたまえ!」
「ノテローーース!!」
”バシャッ”
アルモが詠唱を終え魔法を放つと、全身が水色の美しい半魚人姿のウンディーネが姿を現し、ウィンクをする。
次の瞬間、ウンディーネが姿を消すと共に、クビラが俺たちに向かって放った白い粉全てを包み込むように嵐が巻き起こった。
白い粉は次々と嵐の中に消え失せ、元の水銀の姿へと戻っていく。
そして、その嵐はクビラの元へと移動した。
「そんなちんけな魔法で、我を倒せるとでも!?」
クビラは顔の前で両手をクロスさせ、防御態勢をとる。
嵐はクビラをも巻き込もうとするが、クビラの防御に阻まれ、その身体をもっていくことができない。
数秒後、クビラを巻き込むのを諦めたかのように、嵐は上空へと消え去り、静寂が辺りを包み込んだ。
アルモの魔法を耐え抜いたクビラの全身には、無数の傷がつけられていた。
「やるではないか、反逆者よ。我が水銀魔法を打ち消す魔法を使えるとは…」
「伊達に教団の指名手配を掻い潜ってはいないわ。それに、私には仲間がいる。あなた一人で、私たち4人を相手にするには、分が悪いのではなくて?」
「この私を挑発しているつもりか?お主ら4人を同時に相手にするなど、造作もないことよ」
「ハァァァァァァァァ!!!!」
“ゴリ………ゴリゴリゴリゴリ………”
クビラが気合の咆哮をあげると、骨と肉が擦り合う鈍く不快な怪音が辺りに木霊する。
そして、クビラの両肩の後ろから、新しい2本の腕が姿を現し、背中に用意してたであろう剣をそれぞれ手にする。
「これでも、まだ分が悪いと言うのかね、反逆者諸君?」
「…試してみる!?」
“ザザッ”
アルモの合図で、クビラを囲むように四方に散っていた4人が、一斉に攻撃を仕掛けた。
“カン…キンカンキンカン……”
最初にクビラに届いたのは、サリットの短曲剣による攻撃だったが、すべて新しく生えた腕が振るう剣によって撃ち落されてしまう。
「アージェンテ!!」
“ヒュンヒュンヒュン…………ギュギュ!!”
その隙に俺はウィル・オ・ウィスプを召喚して、クビラに対し戒めの光を放つと、4本の腕全てを拘束することに成功した。
「小癪な真似を!その程度の魔法、解けないとでも思うたのか!」
「グウォォォォォォォォォォ!!」
“パリィーン…”
俺の戒めの魔法は、呆気なくクビラに破られてしまう。
だが、そこにクビラの隙が生まれたことを、俺たちは見逃さなかった。
“スタスタスタスタスタスタ………”
“ブゥン!”
いつも以上のスピードでクビラに近づいたシューが、クビラに一撃を浴びせる。
“ヒラッ”
だが、クビラは体をねじらせ、すんでのところでシューの攻撃をかわした。
“ザシュッ”
“シャーーーーーーーーー”
ところが次の瞬間、シューの攻撃をかわしたはずのクビラの新しい腕の一本が切り落とされ、腕の付け根から鮮血がほとばしった。
「グッ……グゥワァァァァァ!!!」
あまりの痛みに、地面の底から響き渡るような咆哮を上げるクビラ。
”シャッ……カチッ”
月明りのようにぼんやりと輝く刀身に付着した血液を振り落とし、再び目の前に構える剣の主。
「きっ………貴様!!!!」
「だから、『試してみる』って言ったでしょ!?それに、私たち4人を相手にすることは、造作もないことではなくて?」
「ほざけ!!!」
”ブゥン”
”キン………カンキンキンキンカンカンカン…”
クビラのクレイモアと、アルモの月明りの剣が激しくぶつかり合い、四方八方から火花が飛び散っている。
「アコード……アルモの援護には……」
「あの状態で、アルモの援護に入るには危険すぎるし、アルモの邪魔になるだけだ…だが、いつでも援護射撃できるように、準備はしておこう」
「そうね!」
「ああ!」
その時だった。
”ドドドドドドドド…”
後方からの地響きに振り替えると、丘の麓から無数の砂煙が上がっている。
”キンカンキン…カンカンキン…”
「……ようやく来おったか!」
「えっ!?」
”カァン!……ザザッ”
クビラの攻撃を跳ね返し、自身も数歩後方へ退いたアルモも、麓の様子を確認する。
「あれは!?」
「反逆者共よ。我が一人でお主らを倒すなどと、いつ言ったかね!?」
”ギィン!”
アルモとの距離を瞬時に詰めたクビラが、強力な一撃を繰り出す。
”カァン!”
その攻撃をどうにか受け止めたアルモが、再びクビラを跳ね返し、数歩後ろへと下がる。
”ドドドドドド……”
麓から立ち昇る砂煙は、あっという間に丘の麓全体に広がり、俺たちはクビラの軍勢に包囲される形となっていた。
「アルモ!!」
「えぇ!分かっているわ。でも、まずは目の前の敵を片付けないと」
「我をそう簡単に片づけられると、思わないことだな!」
”ギィン!ブゥン!カンキンカンカン…”
再びアルモに猛攻撃を仕掛けるクビラ。
「(…このままでは、殺られる!)」
そう思った次の瞬間…
「スピリットドミネーーーーーション!!!」
聞き覚えのある声で魔法が発動し、クビラの魔法とは少し色合いの異なる紫色の雲が、麓から立ち昇る砂煙のおよそ半数を包み込んだのだった。




