第60話~意外な援軍~
“ヒュン”“ヒュン”
「やめろーーーーーー」
シューの雄たけびにも、悲痛の叫びにも似た声が響く中、立ち上がることもままならず、その場にしゃがみ込む俺とサリットに向け、アンディラが放った二振りの短剣が一直線に飛んでくる。
俺にはアンディラの最初の投擲で負った毒が回り、そしてサリットからは慣れない治癒の術の行使により精神力が奪われていたため、アンディラの攻撃を避けることは叶わないはずだった。
だが…
“タッタッタッ…ザザッ”
“ブゥン”
“キィンキィン”
突如、俺たちの前に現れた男の人影が、細剣で器用に二振りの短剣を薙ぎ払う。
「だれだ!!」
自ら放った短剣で勝利の確信を得ていたアンディラが、新たな敵の出現に狼狽の色を隠せずにいる。
“ザザッ”
「もう一人、いるのか………」
更に草むらから、一人の女性がその男に寄り添うように姿を現す。
「私はリュンヌ。そしてこの人は…」
「三日月同盟サプコッタ支部代表代理のソレイユだ。君たちは、アコード君にシュー君、それにサリットさんで間違いないね!?」
「ソレイユさんに、リュンヌさん………アルモのご両親!?」
「まぁ、『本当の』ではないがね。育ての親、という奴だな」
「あなた!!」
「ああ。話はこの位にして………リュンヌは、アコード君とサリットさんを頼む」
「分かったわ」
「シュー君には申し訳ないが、私と共闘してもらいたい。できるかね!?」
「もちろんです!!」
「ふん!私もなめられたものだな………まぁいい。ソレイユ、それにリュンヌと言えば、アルモに次いで、これまで教団に仇なしてきた人物。それらを倒せたなら、軍団長の座も夢ではないな。私の出世の、踏み台になってもらおうか!!」
「できるものなら、な。シュー君、行くぞ!!」
「はい!」
“ザザッ”“ザザッ”
ソレイユの合図で地面を蹴る二人。
「これまで共闘したことのない者同士が、私に勝てると思うなよ!!」
“ヒュン”
“キィン…”
アンディラの言葉が終わるか終わらないかのところで、シューはクナイと呼ばれる忍者専用の短剣をアンディラに向かって投げつけたが、正面からの突撃だったこともあり軌道を読まれ、簡単に弾かれてしまう。
だが…
「…奴は………どこにいった!?」
クナイを投げたシューの姿がその場から消え、アンディラの正面にはソレイユのみとなっていた。
そして…
「臨!!」
「!!!上か!?」
アンディラの言葉に、突撃を仕掛けているソレイユ以外全員が上空を見ると、シューが『臨』の印を結びながら叫んだ後、シューと瓜二つの人影が、一つ、また一つと上空に増えていった。
“スタッ…スタッ…スタッ…”
5………いや、6人となったシューが地面に着地し、各々がクナイを逆手に握って構える。
そして
“ザザッ”
6人のシューが、先行するソレイユに合わせて同時に突撃を繰り出す。
「小癪な真似を!」
「共闘したことのない者同士の連携は、屁でもなかったのでは!!!」
“シュシュシュシュシュ…”
ソレイユが細剣を使用し、アンディラに猛攻撃をかける。
“キンキンキンキンキンキン…”
アンディラもそれに負けじと、剛剣ベモーを、常人ではあり得ないスピードで振りかざし、ソレイユからの猛攻撃を防いでいる。
「………さすが、長年教団のA級戦犯リストに名を連ねているだけのことはある」
「それは、誉め言葉と捉えても良いのかな?だが、生憎教団に評価してもらって喜ぶ質ではないのでね!!」
“ザザッ”
ソレイユが突然猛攻撃をやめ、後方に引き下がる。
「なっ!!」
それと同時に、6人のシューがアンディラを取り囲むように6方向からクナイを投げつけた。
「ヤァァァァ!!」
“ブゥン”
“キンキンキン………グサッ!!”
6人のシューが投げた6本のクナイのうち、半数をベモーで叩き落したアンディラだったが、残りの3本はアンディラの身体に深々と突き刺さった。
「グヌヌヌヌ!!」
“キン……キンキン……”
急所は外れたものの、身体の3か所に突き刺さったクナイを抜き去ると、アンディラは地面に叩きつけた。
クナイが刺さった跡からは鮮血が流れ、アンディラの身体を赤く染めていく。
「やぁぁぁぁ!!!」
“ザザッ…シュシュシュシュシュ…”
畳みかけるように、ソレイユがシューの影を突き抜けて突撃を仕掛けると、細剣で猛攻撃を仕掛ける。
“キンキンキンキン…グサッ……グサッ……キンキン…”
初回の攻撃では、ソレイユのそれを完璧に防いでいたアンディラだったが、シューのクナイの攻撃による防御のスピードダウンは明白となり、2回目のソレイユの猛攻撃のうち、4、5発に1発がアンディラに命中していた。
そして………
「アンディラ!覚悟!!!」
“キィィィィィィィン…”
ソレイユが、何らかの魔法を細剣に込める。
“ブゥン”
“ズシャ!!”
「ぎょぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…」
ソレイユの細剣の太刀筋が、一瞬剛剣のそれへと変わると、アンディラを一刀両断し、アンディラは絶命したのだった。