第59話~アンディラとの闘い~
時間は少し遡り………
今は森林の一部となりつつある、数カ月前に焼け落ちてしまったアルモの元生家前で彼女らと別れた俺、シュー、サリットの3人は、三日月同盟のサプコッタ支部の入り口を探るため、湖の畔に向かって歩いていた。
「こんな森林の真ん中に湖があるなんて………避暑にでも来ているみたいだわ」
「アルモが言うには、実際このフェワ湖は、避暑地として使われているらしい」
「教団と戦うことにならなければ、俺もサリットとここに新婚旅行、なんてこともあったのかもな…」
「シュー、アコード達と一緒に教団と戦うことになったこと、後悔してるの?」
「いや、そうじゃない。俺は、自分が決断したことは、間違っていないと思っているよ。サリットを巻き込んだことは、少し引っかかってはいるけど…」
「私のことは、気にしなくていいのよ。シューが『駄目だ』って言っても、間違いなく首を突っ込んでいただろうし。後悔してないならいいの!」
「教団との戦いが終わったら、改めてフェワ湖に旅行に来るといい。俺から二人にプレゼントするよ!!」
「………だそうよ!私たちも、アコードとアルモに、何かプレゼントしないと、ね!!」
「そうだな!!」
「えっ!?俺と、アルモに!?それは………」
そんな、他愛もない話をしている最中だった。
「「アコード!!!」」
「えっ!?」
“ヒュン!!”
“グサッ”
幼馴染二人から同時に声をかけられた俺が歩を止め振り返った瞬間、俺の項を何らかの形で飛ばされた短剣がかすめると、樹木に突き刺さった。
項から、若干だが血がにじみ出る感覚が伝わってくる。
「アコード!大丈夫!?」
サリットが俺の元へ駆け寄ると、『兵』と呼ばれる印を結び、俺の負った項の傷口に対して忍術を発動する。
だが…
「うっ………」
呻き声をあげたのは、俺ではなくサリットだった。
「サリット、大丈夫か!?」
「リーサに教えてもらった治癒の術を発動させたんだけど………やっぱり、私にはまだ早かったみたい………」
そう言うと、サリットはその場にしゃがみ込んでしまう。
俺は右手で短剣がかすめた項を確認すると、指先から伝わってくる感覚的には傷は癒され、血の流れた形跡もなくなっている。
だが、癒されたはずの傷の内部、即ち項付近から、ズキンズキンと痛みが生じている。
「まさか、お前らの中に癒し手がいるとは………だが、短剣に塗られた猛毒までは、消し去ることができなかったように見える」
木陰から、ワイギヤ教軍の将軍と思しき人物が姿を見せる。
「私はアンディラ。私からの贈り物、快く受け取ってもらえたかね!?」
腕組をし、俺たち3人を眺めるアンディラ。
腰にはベモーと呼ばれる、成人女性の身の丈程もありそうな剛剣を携えている。
俺たちは、というと、俺は項の痛みが少しずつ全身に回りつつあり、意識ははっきりしているものの、このままではアンディラと対峙することは難しそうに思える。
俺を癒そうとしたサリットも、その場にしゃがみ込んだまま動けずにいて、戦闘に参加することは難しそうだ。
故に………
「アンディラ、だったか。俺を戦闘不能の状況にしなかったのが、運の尽きだったな!!」
一人、何の被害も被らなかったシューが、アンディラに啖呵を切る。
「裏切者の始祖の末裔と癒し手が戦闘に加われない中、残されたお前に、何ができるというのかね!?」
腰のベモーを鞘から抜くと、シューに向かって身構えるアンディラ。
それに呼応するように、シューもまた、くないと呼ばれる短剣を逆手に持って構える。
「俺を、この二人の荷物持ちか何かだと思っているのか!?」
「………そうではないが、私を楽しませてくれるようには見えないものでね…」
「先ほども言ったが、俺を戦闘不能にしなかったのは、お前の判断ミスと言っていい。弱いと思っている俺に、お前はこれから打ちのめされるのだからな!!」
互いに身構えたまま、挑発を繰り返す両者。
「………問答は、この位にしておこう。お前を片付け、私はあちらと合流せねばならぬのでな」
「アルモ達のところにも………お前らの仲間が行っている、というのか!?」
全身に毒が回り、その場に腰を下ろした俺が問う。
「お前に教える義理はないが………反逆者クレスの末裔のところには、クビラ殿とメキラ殿が言っている。今頃、2人の将軍に、お前らの仲間が捕らえられているころだろうさ」
「俺たちの仲間は、そんなに軟じゃない。それに、ここにいる俺たちも、な!!」
“ザザッ”
必要最低限な情報を聞き出せたと判断したシューが、アンディラに先制攻撃を仕掛けるため、利き足で地面を蹴る。
“ギィン!!”
シューの先制攻撃は、成功し掛けたところでアンディラの素早い剣捌きで防がれてしまう。
「まだだ!!」
“ザザッ”
攻撃を防がれたところで若干後方に退いたシューだったが、追い打ちをかけようと、さらに地面を蹴る。
“ギィン!!”
しかし、シューの攻撃は再びアンディラに弾かれた。
「なかなかやるではないか!だが………これなら、どうだ!!」
そういうとアンディラは、懐から二振りの短剣を取り出した。
そして、
“ヒュン”“ヒュン”
「やめろーーーーーー」
二振りの短剣は、アンディラの手を離れると、未だに立つことのできていない俺とサリット目掛け、一直線に飛んでいくのであった。