表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Valkyrie of Moonlight~月明りの剣と魔法の杖~   作者: 剣世炸
Episode8「聖遺物を求めて」
113/115

第58話~英雄の子孫vs水銀使い~

“ギィン!!”

“カン!………カン!!”

 私とクビラの一騎打ちが始まり、四半時余りが経過していた。

「はぁ…はぁ…」

「ふぅ……ふぅ……」

 私もクビラも、互角………いや、私が少し劣勢での剣の打ち合いが展開し、互いが肩で息をしているような状況だった。

 息を整えながら身辺を見渡すと、素肌が露出している部分に傷がつき、朱色に滲んでいる箇所が散見される。

 一方、クビラはというと、私よりも幾分生傷が少ないように感じた。

「アンジャ………いや、アルモが、おされているな…」

「………このまま打ち合いが続けば、或いは………」

「レイス!不吉なことを、言わないでくださいまし!」

「リーサ殿、だったな。だが、レイス殿の心配も、私たちはしておかなければなるまい」

「………」

“ギュゥ…”

「ゥゥ…」

 メキラを縛り上げる途中だったリーサの腕に思わず力が入り、気絶しているメキラから、小さなうめき声が漏れる。

「万が一、アルモさんがやられてしまった場合は、次は私たちの番、ということですわね」

「ああ」

「アルモが善戦すれば、私たち3人でもしのげるかも知れない…」

「…その前に、英雄クレスの子孫の力が、この程度だとは思わないのだが、な…」

 レイスの言う通り、私とアコードはこれまで、ピンチを迎える度にそれを成長へと転換させてきた。

 ある時は自分たちの力で…。ある時はご先祖様の力で…。

 このままクビラとの打ち合いが続けば、先に倒れるのは恐らく私の方だろう。

 だが、ここにいる仲間のためにも、そして、別の場所で支部を探しているアコード達のためにも、私がここで倒れる訳にはいかなかった。

“ハァァァァァァ!!!!”

“ザザッ”

 私は気合の雄たけびを上げると、再びクビラに向かって突撃した。

「気合でどうにかなるなら、我は今頃教団のトップに立っているだろうな!!!!」

“ザザッ”

 そしてクビラもまた、私に負けじと地面を蹴った。


***


“ギィン”

「もらった!!」

“カァン”

「あぁ!!」

“ヒュンヒュンヒュンヒュン………ズシャッ”

 クビラと私が一騎打ちを始めてからちょうど一刻が過ぎた頃、一瞬のスキを見逃さなかったクビラが下段からの攻撃を仕掛け、私の手から月明りの剣が離れ宙を舞い、次の瞬間には地面へと突き刺さった。

“カチャ…”

「………」

 私から5・6歩のところの地面に突き刺さった月明りの剣を取りに向かおうとしたその時、クビラが私の首の右側に、得物の切っ先を当てた。

“タラァ…”

 クビラの切っ先が首の薄皮を破り、一筋の血が流れる。

「はぁ………はぁ………我との戦いを、ここまで渡り歩いたのは、お前が初めてだったぞ。反逆者アルモ。だが………」

 私の首を落とそうと、クビラが切っ先を首から離す。

「これで、終いだ!!」

「アルモ!!」

「逃げて下さいまし!!」

 仲間たちの声が聞こえてくるが、一刻に渡るクビラとの闘いに、私の身体は悲鳴を上げていて、私の意思とは裏腹に、身体が動くことはなかった。

 クビラの切っ先が、私の首めがけて吸い付くかのように振り下ろされる。

 すると、クビラの切っ先の動きが酷く鈍くなり、私の脳裏には、幼少時代にはじまり、アコードと出会い、これまで旅を続けてきた思い出が、刹那に思い出されていた。

“あぁ………これが『走馬灯がよぎる』という奴なのね………アコード………ごめんなさい。私は、どうやらここまでみたい…”

 そう思った瞬間、私の瞳は、アコードの笑った顔、怒った顔、泣いた顔、悲しい顔………これまで私と過ごしてきた、アコードの喜怒哀楽全ての顔で埋め尽くされた。

“アコード………私………死にたくない………死にたくないよぉ!!!!”

 アコードの顔で埋め尽くされた私の瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。

 その涙が、地面に着いた、その時だった。

“ピカッ!!”

 突然、私が装備しているクレスの聖遺物アーティファクトが神々しい光を放ち始めた。

「これは、一体………」

 時間は相変わらず………いや、今は完全に止まっていて、首に吸い付こうとしていたクビラの切っ先は、数10センチのところで微動だにしていなかった。

 そして、次の瞬間………

“ピカッ!!”

 私の周囲が神々しい光で埋め尽くされ、世界が白く塗りつぶされると、一瞬にして光は消え、代わりに私の足元には他の聖遺物アーティファクトと同じデザインの靴が両足に装備されていた。

「アルモ!!」

 数分前に、私の脳裏を支配した人物の………私が、恋焦がれた人物の声が、周囲に響き渡る。

「アコード!!!」

“ヒシッ”

 そして、彼は私の視界に入るか入らないかのところで、私を抱擁した。

「アルモ!!無事で………本当に無事で良かった!!!」

 見上げたその先にある彼の顔からも、大粒の涙が零れ落ちている。

 そして、クビラの得物の切っ先は、相変わらず数10センチのところで微動だにしていない。

「アコード………一体、何があったの!?それに、この靴は………」

「その靴は、湖の底にあった、三日月同盟サプコッタ支部に安置されていたクレスの聖遺物アーティファクト。そして、今この場を支配しているのは、そこでアルモのご両親から俺が授かった、時間停止ストップの魔法だよ」

「湖の底に?でも一体、どうやって?それに、私の両親に会ったの?時間停止ストップの魔法って!?」

 死を覚悟してからの生還、そしてクレスの聖遺物アーティファクトの取得、更にアコードが私の両親に会い新しい魔法を教授された………新たな情報が一気に入り込んで整理が追い付かず、私は錯乱しかけた。

“ヒシッ”

 それを感じ取った彼は、私を再び抱きしめる。

「アルモ………大丈夫だから。これまでの経緯いきさつを、順を追って説明するよ」

 そう言うと彼は、私、レイス、リーサの3人と別れた後、シューやサリットと共にこれまでの数刻の間に起こったことを語り始めたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ