第56話~共闘~
「灰色の大地…だと!?」
私を助けた、ロザンと名乗る青年は、私のことを『アンジャナ』と呼び、自らを灰色の大地の人間だと言う。
そして、ロザンの言葉に困惑したのは、私たち3人だけではなかった。
「可笑しなことを言う。灰色の大地の人間が、こちらの世界に来れる訳がなかろう!!」
私たちは『灰色の大地』という言葉を、生まれて初めて耳にした。
だが、ワイギヤの将軍達は、どうやら違うようだ。
「私は、正真正銘『灰色の大地』の人間だ。その証拠に、これを見るがいい!!」
ロザンが右腕の衣服の袖を捲し上げると、そこには三日月のアザがあるように見えた。
「えっ!?」
「そのアザは………」
私とワイギヤの2将軍が、同時に困惑に声を漏らす。
「このアザは、灰色の大地の民に刻まれた、お前たち青の大地の民が私たちに刻んだ呪い。これでも、私が灰色の大地の住人ではないと言い張るのか!ワイギヤの将軍共!」
「ぐぬぬぬぬ…」
三日月のアザが決定的な証拠であることを裏付けるように、2人のワイギヤの将軍は歯軋りをするばかりで、返す言葉もないようだ。
「アンジャナ。私が来たからには、もう大丈夫だ。なんの心配もいらないよ」
将軍らに向けていた眼光とは打って変わった、穏やかな眼差しで私を見るロザン。
「ロザン……」
私は彼の名を独白し、記憶の大海原に彼の名を探すも、それを見つけることはできなかった。
「……アンジャナ?」
私の独白を聞き取っていたロザンが、心配そうに私を異なる名で呼ぶ。
「ええい!お主が灰色の民であろうとなかろうと、我々には関係のないこと。そこにいる異端者もろとも、我が得物の錆としてくれる!行くぞ!!メキラ殿!!」
「おうよ!!」
“ザザッ”“ザザッ”
2人の将軍が、今度は正面から私たちに向かって突撃を繰り出す。
「あなたと私が何者なのかは、目の前の将軍を倒してからにしましょう!」
「…そうだな。どうやら、君と私の目標は、同じようだからな!!」
ロザンを含めた、私たち4人が2将軍の突撃に備えて、それぞれの得物を目の前に構える。
“ギィン!!”
初めに刃と刃がぶつかったのは、私を守るように身構えているロザンと、メルクーリュスのクビラだった。
「…小癪な!」
「そちらこそ、私の力と対等に渡り合うとは…さすがは、ワイギヤの将軍、と言ったところか?」
「ほざけ!!そんなことをぬかして、手元が震えているではないか!!」
クビラの言葉にロザンの手元を見ると、確かにクビラの力に耐えかねた手元が、プルプルと震えている。
“ギィン!!”
それを見かねた私が、月明りの剣をクビラの剣に重ね、ロザンの援護に回る。
「アンジャナ!その剣は、まさしくクレスの剣!やはり、その剣は青の大地に眠っていたのだね!!」
「ロザン…さん。申し訳ないけれど、私はアンジャナではないわ。人違いよ!」
「そんなはずはない。金色の髪、顔立ち、そして何よりクレスの剣を使っている…君はアンジャナ以外の何者でもないはずさ!」
「違うのよ!私はアルモ!!三日月同盟のソレイユとリュンヌの娘、アルモなの!!」
「ええい!!何をごちゃごちゃとぬかしておる!!」
“ブゥン!!”
私とロザンが、私の出自について言い合ってしまったせいで隙が生まれ、二人で押さえつけているはずだったクビラが強引に私たち2人を押し返し、私たちは後方に仰け反ってしまう。
が、すぐに態勢を立て直した私たちは、再びクビラに向け、それぞれの得物を構える。
“““ザザッ”””
3人が同時に地面を蹴る。
“ギィン!!”
私よりもスピードの速いロザンが、クビラと刃を交える。
そして…
「ハァァァァァ!!!」
“ブゥン!”
「なんだと!?」
ロザンが気合を入れた掛け声と共に、自らの得物に力を込め、刃を交えているクビラの得物を上空へと吹き飛ばした。
「アン………いや、アルモ、いまだ!!」
得物を上空に飛ばされ、丸腰状態となったクビラに向かって、私は月明りの剣を振り下ろそうとする。
だが…
「我には水銀があることを忘れたか!?」
「!!まずいわ!ロザン、この場から離れて!!」
「アルモ、何を言って…」
「いいから言う通りにして!奴の…クビラの魔法は、まずいわ!!」
“ザザッ”“ザザッ”
クビラに飛びかかろうとした私はすぐに態勢を整えると、クビラとは反対方向に飛び退いた。
そして、私の忠告を聞き入れたロザンもまた、私よりもワンテンポ遅れて、クビラとは反対方向へと飛び退いた。
「その程度の距離で、我の魔法を完全に防げるとでも!?」
「安い脅し文句ね!この前の戦いで、あなたの魔法は見切っているのよ!?」
「ほほう。強くなっているのが、まさか自分たちだけだと、思い込んでいるだけなのではないか!?」
「なんですって!?」
「まぁ良い。我の魔法を見れば、すべて分かることよ。水銀の味、とくと味わうがいい!!メルクーーーーーリュス!!」
次の瞬間、以前戦った時よりも広範囲に、水銀の雨を降らせる雲が立ち込めると、一瞬のうちに水銀の雨が周囲を包み込んだのだった。