第52話~最後の聖遺物(アーティファクト)を求めて~
セレスタ大陸が統一された数日後、俺たちは新生セレスタ王国でも首都と指定され、当初の予定ではそこを目指そうとしていたアーチスの迎賓館にいた。
この数日内で、セレスタ大陸の東西両極に位置する旧ザパート連合公国とセレスタ王国の首都で戴冠式並びにセレスタ王とザパート連合公国盟主アンティムの婚姻の儀が執り行えたのは、アルモの瞬間移動の力と、漆黒の翼・車による高速移動の成せる業であり、俺たちは国賓としてもてなされていた。
全ての国事が終わった翌日、俺たちは休息にとアーチスの迎賓館に招かれ、十分な休息をとった。
そしてその翌日、俺たちは次の大陸を目指し、セレスタ大陸を離れることにした。
「…名残惜しいが、いつまでも引き留めるわけにもいくまい…」
「この恩に報いるためにも、私と陛下はセレスタ大陸をより良きものにしていくと約束しよう」
「セレスタ陛下、それにアンティム妃殿下、どうかお幸せに!」
「うむ。して、次はどちらに行かれるのか?」
「この大陸の北東にある、サプコッタ大陸に行く予定です」
「そこに、私の先祖が残した最後の聖遺物があるそうなので」
「そうであったか。あの、空に浮かぶ船………魔道船といったか、で行くのならば心配はいらぬだろうが、気をつけて行くのだぞ!」
「陛下、そして妃殿下もお元気で」
セレスタ王とアンティムに別れの挨拶をした俺たちは、迎賓館前に停めていた車に乗り込むと、魔道船『漆黒の翼』に向かった。
「…漆黒の翼に着いたら、アルモの瞬間移動で、一度バルデワに行ってもらえないだろうか?」
「レイス?バルデワに、何か忘れ物でもしたの?」
「そうですわ!一刻も早くサプコッタ大陸に向かった方がよろしいのではなくって?」
「リーサ…君を送り届けるためだよ」
「!!」
レイスの言葉に目を大きく見開くリーサ。
「リーサは、元々バルデワのシティシーフ。今回の騒乱の中で、私たちに力を貸してくれたが、その騒乱もひと段落した。リーサが私たちにこれ以上付き合う必要はあるまい」
「…レイスは、もう私の力は必要ないと、そうおっしゃるのですね…」
レイスの言葉に、涙を浮かべるリーサ。
「!!リーサ!私は決してそんなことは…元の生活に戻る方が、君のためになるのではないか、と思っただけで…」
「…本当に、私の力は必要ない、ということではないのですね!?」
「ああ。もし、君がこのままついて来てくれるなら、大歓迎さ」
助けを求めるかのように、俺とアルモにアイコンタクトを送るレイス。
「リーサの忍術には、俺も命を救われた」
「リーサの忍術がなければ、私もインドゥーラを倒すことは叶わなかったと思う。リーサが良いなら、このまま私たちと一緒に来てくれるとありがたいわ」
俺とアルモの言葉に、シューとサリットも力強く頷く。
「…決まりだな」
「リーサ。引き続きよろしく頼む」
「ええ!これで、引き続き私の力をレイスのために役立てられますわ!!」
そうこうしている間に、車は漆黒の翼の元へと到着した。
「という訳で、バルデワには行かず、このままサプコッタ大陸に向かうってことでいいのよね!?」
車を降り、漆黒の翼の船内に入って、コックピットに向かう椅子に座り自動移動しながら、アルモが確認する。
「そうだな。アルモ、サプコッタ大陸って、確かアルモが生まれ育った大陸だったよな!?」
「ええ。生家は、一度アコードと行動を別にした時に、ワイギヤの将軍クビラによって燃やされてしまったけれど、両親は健在よ」
「三日月同盟のサプコッタ支部に行ったことは?」
「何回かあるわ。でも、ここから場所も遠いし、何かあった時のために、瞬間移動の力はとっておいた方が良いでしょ!?」
アルモの瞬間移動の魔法は、アルモが一度行った場所に行けるという便利な魔法だが、一日1回しか使えず、移動距離が長ければ長い程、移動人数が多ければ多い程、アルモの魔力を消費する。
人数は多かったが、アンティムとターパ軍の兵士たちをセレスタ大陸中央部の戦場に送り届けた際も、瞬間移動使用後、アルモはその翌日まで体を動かすことが叶わなかった。
サプコッタ大陸までは、地図上で見る限り、セレスタ大陸の端から端までを一往復できる位の距離があるため、例えアルモの瞬間移動が使用できる状況であったとしても、その後の休息時間を考えれば、漆黒の翼で移動した方が良いということだ。
“プシュー”
会話をしている間に、俺たちを乗せた椅子はコックピットに到着。目の前の巨大モニターに、久々に見るナビゲーターが姿を現した。
“アルモ様とアコード様、そしてお仲間の皆さま、お帰りなさいませ………そちらの方は…”
「リーサですわ。以後、お見知りおきを!」
レイスから別段で話を聞いていたのだろう。物怖じすることなく、ステラに向かってリーサが挨拶をしている。
「ステラ。車から情報を送った通り、これから俺たちはサプコッタ大陸の同盟支部に向かう。準備はできているか?」
“はい。すぐにでも出発することが可能です”
ステラの言葉と同時に、入り口から乗ってきた椅子がその場に固定され、ベルトによって体が固定される。
「それじゃ、最後の聖遺物を目指して、サプコッタ大陸に出発よ!!」
こうして俺たちは、セレスタ大陸を後にし、クレスの残した最後の聖遺物を目指して、歩を進めたのだった。