第50話~援軍~
ここで、時は昨日まで遡る…
「戯言はここまでだ。セレスタ王!!!」
「ランデス!!!」
二人は擦れ違いざまにそれぞれの剣を振るい、2歩ほど進んだところでその体を停止させた。
“ピシャー…”
「……アンティムを……どうか幸せに………」
“バタン…”
「…そなたの想い、しかと受け止めた。安らかに眠るがよい」
刀身についた血糊を地面に叩き付け、セレスタ王はそれを鞘へと収めた。
「こやつは余に敵対した者だが、最期は騎士として余と闘い、そして散った。反逆者としてでなく、他の兵と同様、この戦場で散った一人の騎士として、弔ってやってくれ」
「陛下………御意にございます」
ランデスがセレスタ王に討ち取られ、戦場で散った一人の騎士として弔われることになったその時、俺たち4人はその場に立ち会っていた。
「アルモ殿の仲間の皆よ…感謝する。そなたらがこの場におらねば、ランデスではなく余の死体が、この場に横たわっていたであろう。名を…聞かせてはもらえぬか?」
「………」
「………シュー殿、サリット殿、レイス殿にリーサ殿、ありがとう」
「陛下…もったいなきお言葉です」
「…ランデスは討ち取られ、残るは将軍インドゥーラ率いる、ワイギヤ教軍のみとなった。だが…」
セレスタ王に倣い周囲を見渡すと、あちこちから火の手が上がり、横たわる無数の兵の死体を弔うため、生き残った両軍の兵が、遺体を整然と並べ始めていた。
「インドゥーラの策略で、落とす必要のない無数の命が、この戦場で散ってしまった…だが、明日には、インドゥーラを討ち取るため、彼奴と会談の場を持たねばならぬ…」
「陛下…私たちにも、この戦場で命を落とされた方々の埋葬を手伝わせて頂けないでしょうか?」
サリットの提案に、セレスタ王が俺たち4人を見渡す。
俺たちは、サリットの言葉とセレスタ王に、力強く頷いた。
「……我が臣でないにも関わらず、本当にすまない。だが、よろしく頼む」
「お任せください!!」
「余は、これから明日の会談に向けた準備を進めねばならぬ。近衛兵長に皆のことを伝えておく故、よろしく頼む」
「陛下も、どうか気を付けて」
「恐らく、アルモも明日に回復します。インドゥーラとの会談の際は、アルモとアコードを護衛としてお付けください。彼女らも、了承するでしょう」
「分かった。では、さらばだ!」
“ザザッ…”
“パカラッパカラッパカラッ…”
白馬に颯爽と飛び乗ったセレスタ王は、幕舎へと戻っていった。
「さて、俺たちも動くとしようか」
「そうね。セレスタ王には、アルモとアコードが護衛につくとは言え、相手はワイギヤ教の将軍。何が起こるか分からないもの…」
「私たちの加勢が、きっと必要になるはずだ」
「他の兵士さんたちと協力して作業を終わらせて、私たちも会談の席に向かわなくてはなりませんわね」
「ああ!」
こうして俺たちは生き残った両軍の兵と共に、戦場で散った騎士達の埋葬の手伝いを始めた。
時間は正午を過ぎ、あと数刻もすれば日が傾く位の時刻となっていたが、俺たちは兵たちと共に懸命に動き、騎士達を埋葬していった。
だが、日が落ちて、夜の帳が下りても、全ての埋葬を終えることは叶わず、作業は翌日まで続き、正午手前あたりでようやく埋葬作業から解放されたのだった。
「…ようやく終わったな」
「シュー!セレスタ王とワイギヤ教の将軍との会談は、もう始まっているんじゃない!?」
「………何やら、胸騒ぎがする」
「レイスの勘は、当たることが多いですわ」
「そうだな。みんな、疲れているだろうけど、急いで会談の場まで向かおう」
「ええ!!」
こうして俺たちは、セレスタ王とインドゥーラ将軍の会談が始まってから数刻後に、ようやく会談の場へと向かうことができたのだった。
***
インドゥーラが光の槍の切っ先を少しだけ横にスライドさせると、俺の喉元に水平方向に数センチの傷がつき、血がにじみ出る。
「その人を………アコードを傷つけないで!!」
それまで強気の態度で応じていたアルモが一転、目に涙を浮かべ、俺を傷つけないようインドゥーラに懇願する。
「伝説の英雄………いや、罪人の子孫も、己の感情には叶わない、ということか………我がこの男を傷つけるか否かは、お前の行動にかかっている」
「………分かったわ…」
“カン………”
アルモが右手の力を緩める。
刹那、その場に月明りの剣が落下し、乾いた地面にぶつかると、アルモに敗北を悟らせるかのごとく、乾いた金属音を奏でた。
「…これで、終いだ!!」
“ザザッ”
“バサッ”
次の瞬間、インドゥーラの分身が消え、その場に俺が投げ放たれると同時に、アルモにとどめを刺すため、本体が突撃を繰り出した。
だが………
“ギィン!!”
「何…だって!?」
そこには、倒れた俺を介抱するシューとサリットの姿が、そして、インドゥーラのアルモへの一撃を二人がかりで食い止めたレイスとリーサの姿があった。
「…随分と、こっ酷くやられたみたいだな、アコード………サリット、薬草の準備を!」
「わかっているわ」
サリットが手早く薬草をすり潰して液状にすると、俺の口へと流し込む。
それが即座に効果を発し、俺は意識を取り戻した。
「シュー…それにサリット………助けに、来てくれたんだな…」
「当たり前だ!」
「全く、大魔法使いの子孫が、酷い有様ね」
「面目ない………アルモは!?」
「レイスとリーサが加勢に入った。心配ないだろう」
シューの言葉にアルモ達の方向に目をやると、インドゥーラ将軍と3人が、各々の得物を手にし、対峙していたのだった。