魔王との出会い(二)
自己紹介が終わり、俺は魔王──リリィに、疑問に思っている事を口にする。
「あのー少し質問してもいいですか?」
「何じゃ?申してみろ」
「リリィ様って魔力がとても高いんですよね?」
「フッフーン、そうなのじゃ! 我はこの国で一番なのじゃ!」
「どのようにして魔界から人間界への干渉を行ったのですか? それと何故リリィ様は人間界へ魔物を送り込んだのですか? 人間界への干渉は魔力が影響しているんですよね?」
ーーー確か、新しい魔王……つまりリリィ様の影響で人間界に魔物が侵入して来たんだよな
矢継ぎ早に質問を投げかける、一種のコミュ障を発揮する自分に嫌悪感を抱く。
俺の言動に彼女は気にした風もなく、律儀に答えてくれた。
「ん? なんの事なのじゃ? いくら我でもそんなこと出来るはずなかろう。他の魔王も例外では無い」
ーーーへぇー魔王って他にもいたんだな。………って、魔王は関係ない!?
「っ、一体どういうことなんですか!?」
「知らぬ、初耳じゃ………それよりその話は本当か?」
リリィの雰囲気がガラリと変わった。
ーーーこれが、魔王。………さっきまでのリリィ様と全く違う
俺の頬に汗が伝う。射抜くような視線に体が硬直する。
「は、はい」
「どういう事じゃ? 鏡が消えて以来、人間界の様子は確認することは出来なかった。一体その間に何があったのじゃ?」
「俺はこの話を国王から聞きました」
「名は?」
「アルド・スーンです」
「ふむ、スーン王国か」
「あの、それが何か?」
「スーン王国は転移門完成させた国じゃ。それと何か関係しているかも知れぬ………」
ーーーやっぱりあの国……いや、国王達は怪しい
「ま、それについては後で考えるとして、お主に頼みがあるのじゃ!」
「頼み?」
さっきまでの雰囲気とは一変して、努めて明るい口調で俺に言ってきた。
「この国に新たなダンジョンが発見されたのじゃ。そこを攻略してきてほしいのじゃ」
「は!? なんで俺なんですか?」
か弱き人間への唐突な無茶ぶりに目を剥く。
「アルバートから聞いておるぞ? お主、あの森にいたそうじゃな?」
「はぁ、森にはいましたけど……」
「彼処は詳しくは言えないが、この国では極秘扱いとなっておる。それこそ、知ってしまった者には死が与えられる程にな」
「なっ!?」
ーーーそんなやばい所だったのか!?
「お主はこのままじゃと死刑は確実じゃろうな」
「し、死刑!?」
アホみたいなパワーワードだ。まさか自分が死刑の対象になるなど思いもしなかったので、嫌な汗がダラリと流れる。
「うむ、そこでお前に生き残るためのチャンスを与える事にした」
「それが、ダンジョン攻略……」
「そうじゃ」
「一体どれくらい危険なのですか?」
俺の質問には答えず、代わりにリリィは俯く。
「……………」
「っ、答えてください」
「ほぼ確実にお前は死ぬ。百人編成の軍で行っても、半分も攻略出来んだろう」
「そんな」
「我とてこんな事はさせたくない……しかし、我はこの国を統べる魔王じゃからな」
「リリィ様……」
ーーーそうか、彼女も一国の王だ。王は王らしくあるべきでないといけない
多分彼女にとって苦渋の選択だったのだろう。しかしどうも感情の起伏が激しい。精神年齢が幼いが故の純真さなのだろうか。
ーーー仕方ない、俺も腹を括るか……
「分かりました。精一杯足掻いてみせましょう」
「そうか……しかし、攻略してきた暁には魔界での安全な生活を保証しよう!!」
ーーーおいおい、そんな顔すんなよ
リリィは無理矢理笑おうとしたが、その顔は酷くぎこちない。
「えぇ、約束ですよ」
「あ、あぁ、うっ、やくっ、そく、じゃからな」
リリィは、驚く程綺麗なその蒼い目いっぱいに涙を溜めていた……だが
「うっ、うぁぁぁぁん!」
とうとう堪えきれずに可愛らしい顔をぐしゃぐしゃにして泣いてしまった。これで今日二度目だ。
「どうかお泣きにならないでください」
俺がいちばん泣きたいとは口が裂けても言えない。
「うっ、だって……」
「だって、何ですか?」
「だって! 初めてあんなに楽しく話すことが出来たのじゃ!なのに……もう居なくなってしまうのじゃ……初めて友達が出来ると思ったのに……」
ーーーなぁんだそんな理由か
正直大した会話をしたという感触はあまりないが、彼女も彼女で中々コミュニケーションに飢えていたらしい。
「何を言っているんです? リリィ様」
「うっ、ひぐっ、うぇ?」
「なら今、俺と友達になりましょう」
先程から明らかに一介の王に対する態度ではないが、この提案は甚だ度が過ぎていると自分でも思う。現に、これまで黙って様子を伺っていたアルバートの殺気が半端じゃない。
しかし、どうも転生前の呑気な環境で暮らしていた影響か、どうしてもリリィを威厳ある王としてではなく、普通の少女として見てしまう。尚、年齢は考慮しないものとする。
「っ、ほんとか?」
少し表情が晴れるリリィだが、すぐに曇らせてしまう。
「………じゃがお前は生きてここへ戻ってくることはできないのじゃ」
「いいえ、俺は死にはしません」
「何故そんなことが言えるのじゃ?」
「大事な友達を置いてぽっくり死ぬわけにはいかないでしょう?」
「そ、そうか!大事な友達か……えへへぇ」
そう言われ、だらしなく顔が緩むリリィ。
「えぇ、だから簡単に死ぬわけには行かないんですよ。それも魔王様が友達なんですから死んだあとの方が怖いですよ」
「本当に戻ってくるのか?」
「はい!」
「本当か?」
「勿論!」
「本当に本当か!?」
「はい、必ず戻ってきます」
「そっかぁぁぁぁ!」
パァァァァ! っと満面の笑みを浮かべるリリィ。これも本日二度目だ。
ーーーさっきもこんなやり取りしたような気がする……でもこの約束は絶対に守り抜いてみせる! 大事な友達のために!
大切な友のために。そうアカネは決意した。
「魔王様、出発は何時にしますか? それといくらソロ攻略とはいえ、道中の護衛までは付けてよろしいでしょうか」
アルバートが問う。小っ恥ずかしいやり取りを、空気に徹して見守ってくれていた気遣いに、そして礼を知らない俺に形なりとも協力してくれる姿勢に頭が下がる。
ーーーん? ソロ攻略……?
とんでもないワードに目を剥いたが、この空気だ、何も言えない。というよりも、脳が現実を拒否している。
「アカネに任せよう。どうする? アカネ」
「と、とりあえず明日でいいですか?」
「明日か……そうか」
リリィは俯いて表情を暗くしてしまう。
「言ったはずですよリリィ様、俺は必ず戻ってきます」
一人での攻略が当然というような流れには抗えず、カラ元気で彼女を鼓舞する。
「そうじゃったな、これでは魔王失格だな……では津田朱音よ、そなたにダンジョン攻略の任務を依頼する!!」
「では行ってきます。リリィ様」
「友達なのに様付けはよさんか」
と、不貞腐れたように言う魔王様。
「分かりましたよリリィ」
「敬語もいらん」
「んじゃ、行ってくるぜリリィ!」
「うむ!」
ドアが締まり、アカネとアルバートが退室した。
「……達者でな。我が友よ」
一人になったリリィが小さくそう呟いた。
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