戦争
――VIPルーム――
「どうやら、ベルゼ王国のようですね」
オーマンが厄介そうにため息をつく。
「透化を使って移動していたようじゃな」
「でどうするんだよ魔王様」
オーガスが言い、そこから皆の視線がリリィへと向けられる。
「その前に、ヴァンピィはどうした?」
いつの間にか、愛娘が姿を消していた。
「あぁ、それなら結構前に、“パタさんが迎えに来た”って言って出て行きましたよ」
「おいっ、それは前もって報告しなきゃいけないやつだろバカ!」
セラがヘリィを叱る。
「よい、取り敢えずヴァンピィは安全じゃろう」
改めて一人一人を一瞥する。そして、通信魔具を展開し、この場にいない各隊長へ通信を行う。第十部隊を除いて……
「敵は恐らく、デモン王国への攻撃も仕掛けてくるじゃろう。その為、第二、第四部隊はデモン王国への加勢に徹しろ」
「「はっ!」」
二部隊との通信が切れる。
「続いて第五、第七部隊は非戦闘員の防衛と避難指示を」
「「はっ」」
もう二部隊との通信も切れる。
「最後に、第一、第三、第六、第八、第九部隊……我が国を、貴様らの命を持って守り抜け」
直後、音も立てずに、はたまた初めからリリィ以外誰もいなかったのかと思える程に、五人の隊長らは己の気配すらも残さずに散らばっていった。
「第十部隊……いや、レヴィ、お主は自らの意思に従うしかないのじゃ」
▽
「っておい! 誰だよ大事な時に邪魔しやがって!!」
そう憤慨する俺は、空から降りてきた青髪のニヒルな口のイケメンを怒鳴りつける。
「どうやら、敵さんの国の方らしいね」
「お?」
レヴィが魔力を収めて、青髪男に視線を向ける。
「いや〜、こんなにも注目を集められるなんて、俺緊張しちゃうっす〜」
ーーーうっ、ぜぇ……
どこぞのサバンを彷彿とさせる口調と笑み。
「てか、敵だったら他の人たちの避難とか……あら」
スタンドにはもう、誰一人として残っていない。
「サラブレさん達は!?」
控え席も誰もいない。
「どうやら、其方には優秀な誘導員がいるみたいだねぇ」
「誘導員? 勘違いしないでよね、皆阿呆みたいに強いんだから」
レヴィが戦闘の構えをとる。
「へぇ、んまぁゆっくり侵略していこうかね。幸い俺の部下は腐る程いるから人員には困らないしね」
しかし、今ここに敵と言える存在は彼しか目に捉えることが出来ない。
「口が減らないのは困り事じゃない?」
先手はレヴィの黒線――
「別にそうでも無いよ……」
「なっ!」
魔術の発動を封じられている。
「口が減らないお陰で、君を拘束する為の時間稼ぎができた」
ーーーくそっ、なら俺が……!
「そこの坊やも無駄だよ」
「ちぃ!」
青髪男の両隣には、二本の槍が一本ずつ浮かんでいる。
「おめでとう、初の尊い犠牲者は君達だ」
身動きが一切取れない。
そして、槍が二人の命を刈り取り――
「……あぁ、もう面倒臭いなぁホント」
青髪男の声がする。
「え?」
槍は、二人の胸を貫く手前で、一枚の薄い盾によって防がれていた。
「はいはい、お二人さん、後は僕たちに任せて避難しておいで」
優しそうな青年だ。
「ったく、みっともないわよ二人とも。クソガキといい勝負じゃないの、レヴィも」
セラさんは相変わらずだ。
「うんうん、キミがツダ君だねぇ?」
「え?」
「なかなか可愛い顔してるわねぇ」
人に言う割には、“どちらかと言うとそっちが可愛らしい”な小さな女の子。
「おうおう! お前らの戦い中々面白かったぜ!」
ーーーおぉ、ゴリゴリマッチョマンだ
「おい、敵の前だぞ、警戒を怠るな」
そして安定のくそ真面目のゼロ。
これがこの国の最高戦力の一人一人……
「いや〜、こりゃちと手厳しいね」
青髪男は、指を弾き、“下僕”とおぼしき集団を召喚した。
「それじゃあ取り敢えず戦ってみますか」
彼のその一言で今、国同士での争いが始まった。
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