そりゃないよぉ!!
「ん」
いつの間にか、俺の手には剣が握られていた。
「その剣ってもしや……いや、ないな」
レヴィは驚いた表情を見せたが、すぐに気を取り直す。
「亡者の叫び」
恐ろしい断末魔が、こちらの精神を崩壊へと誘う。
一つ一つの魔術は、確実に相手を“破壊”する威力。
それを躊躇なくこちらへ放つレヴィは、俺にとってまさに悪魔そのもの……
……だった。
「大天使の抱擁」
薄い絹の様な防壁は、恐ろしい断末魔を心地よい音色に変換する。
「っ、なんと忌々しい……」
レヴィは顔を顰めながら、次の術式の準備に取り掛かる。
「精霊籠」
それをさせまいと、すかさず魔術の発動。
「なっ!?」
光が降り注ぎ生成される“籠”は、レヴィを閉じ込め魔力を封じる。籠内では争いを許さない、絶対の平和が約束される。
「詰みだ」
そう言って俺は、自分が手に持っている剣に視線を落とす。
ーーー……なんだこれ、力が溢れてくる? いや、そうじゃない
「俺の力が、最大限に引き出されていく……」
これは武器ではなく、己自身が生み出した、己の力を引き出すための引き金。
ーーーどんな仕組みだよ、めんどくさいな
正直片手塞がるし、邪魔だ。
ーーー離したいけど……
「んっ!」
無理だ。持ち手の左手が言う事を聞かない。
ーーーけど、俺の勝ちはもう――
カシャン
何かが崩れ、割れる音がした。
「ふぅ……」
崩れた籠の残骸を退かしながら、ゆっくりとレヴィが出てくる。
「また油断してたよ、そう言えばもう君は強いって僕認めてたもんね」
現在の自身最高の封印魔術が、こうもあっさりと破られるとは、もうやってられなくなる。
「黒線」
パチッと、刹那の間、視界を黒く染めた。
「えっ?」
突然、遅れたようにやってくる衝撃と、腹に焼けるような痛みが走る。
「ぐっぅ!!」
確認すると、腹が黒く焦げているように見える。
「驚いた。あのほぼ光の速度の攻撃を防ぐなんて」
超反射は防御魔術まで発動してくれるようになっていた。
お陰で体は動いてくれる。
「聖響《サウンド》」
安らぎの“響”も、束ねると騒音となり、武器になる。
幾重にも響を重ね、彼女の体内に衝撃を与える。
今俺が出せるのは、何故か防御に特化した魔術。そのため、工夫して攻撃手段を見つける。
ーーーおい、これ思ってたやつとなんか違うぞ
内心で愚痴を零しつつ、レヴィの様子を確認する。
「がはっ! げぼっ……!」
思ったより、かなりダメージを与えることに成功。
ーーーゲロるとは思わなかったけど……
「天使とかそういう系のヤツ苦手とか」
思い返すと、楽しんでいたはずのレヴィが、その時から一切笑顔を見せていない。
「あーもう、君のこと大嫌いになりそうだよ」
うんざりした様子で言われる。
「えぇ、勝手に好きになっといてからに、一方的に拒絶するんすか」
「ああ言えばこう言う。そんな人嫌いだよ」
「俺も面倒臭い奴嫌いだよ」
もう何も言わずとも、お互い、魔力を集中させる。
「はぁぁぁ……」
「ぅぉぉおっ……」
手の探り合いはこれ以上必要ない。
後はどちらが強いか。純粋な魔力で、お互いの最大の術をぶつける。
集中させた力は大地を揺らし始める。
「「いくよ(ぞ)っ!!」」
これが最後。決着だ。
会場も、仲間も、誰もが、息をするのを忘れている。
「魔光ッ――」
「奥義ッ――」
『はぁい、すとっぷー! 侵略しに来たよ〜』
全てをぶち壊しにする存在が、空から降りてきた。
いつも読んでいただきありがとうございます!