主人公補正、掛かります
「またここか」
暗い、暗い場所。俺の意識の中。
どうやら情けないことに、気絶してしまったようだ。
『おや? どうやら情けないことに、気絶してしまったようなツダ君じゃないか』
「シン(仮)……」
『その、“(仮)”やめてくんない?』
大きなソファの横になりながら、シンが不服そうに言う。
『よく出来ました』
「なんの事だよ……それより、珍しくクレルは居ないんだな」
普段なら、こういう状況にはクレルがサポートしてくれる。
『クレルだけに?』
「チェンジで」
『おいおい、冷たすぎない?』
こいつと二人きりだと、話が一向に進まない気がする。
クレルが居ないと確実にレヴィにやられてしまう。
「っていうのに……」
ーーーなんでこんな重要な時にお前が出てくるんだよって話
『初めからクレルが頼みの綱だってことかい? 情けないねぇ』
わかり易く挑発され、ムッとする。
「クレルは元々俺のアシスタント。お前にとやかく言われる筋合いはない」
『そんな初めから答えを求めて、君自身が本当の意味で成長するとは言えないと思うけどなぁ』
お前に何がわかる。
「俺自身は魔力だけ高いが他は何の力も持たない、ただの一般人。その俺がここまでやってこれたのは、大体クレルのお陰だ。彼奴に頼らずして誰に頼るっつーんだよ」
自分で言って自分を下げる。
帰ってきたのは、そんな俺に対する嘲笑。
『愚かだねぇ、実に愚かだ』
「あぁ?」
『何故君が選ばれたのか、先日説明したはずだろう? もし君が、本当に君が言う一般人なのであれば、君はこの世界に絶対に送られることは無かった』
何が言いたい。
『君は愚かだ。故に己に眠る力を他人に委ねる……知ってるかい? 自身は、自身でしか高めることは出来ない。もし君が今の状態で力に満足しているのであれば、それはもう君ではなく、君の皮を被ったナニか。“君だけ”はもう無くなってしまっているんだよ』
ーーー“俺だけ”……
「一体何をすればいいんだよ」
『ほら、すぐに答えを求める』
「ぐっ……」
反論も何もできない俺に、満足そうな表情をして笑みを浮かべるシン。
『ならひとつ、とっておきの助言をしてあげよう』
「なんだよ、人に答えを求めるなって言っておいて――」
『安心するんだ、君は愚かだが、“君だけ”の能力がある。だから選ばれた。そして君自身、それに気がついているようだ。それだけで君は誰にも負けない英雄となる』
「俺だけの能力」
確かに俺はそれに気がついている。だがその勇気がなかった。
『そうなったら君が絶対の信頼を寄せるのは、もう君自身なんだよ』
「はぁ……お前に心を動かされる時が来るとはな……」
さっさと力を見せつけたい。さらけ出したい。
不思議と恐怖はない。あるのは戦う欲のみ。
「いってくる」
自分だけはせめて俺が信じてやってもいいじゃないか。
ーーーんじゃあ行くぜ俺の身体、 ぶっ壊れんなよ!
▽
《意識が戻りましたか》
『みたいだね』
《あなたも素直じゃないですね、本当は彼が心配でならないのでしょう?》
『それは君も同じだろ。でも、まるで我が子の成長を見てるみたいで、嬉しくも寂しくもあるよ』
《安心なさい、彼は愚かですので、貴方の言ったことなどすぐに忘れてまた我々に助けを求めてきますから》
『はははっ、違いない』
《だから見届けましょう、彼の英雄の道への一歩を》
▽
「ゆ……」
「おや?」
気絶したはずの男が何か言葉を発している。その事実に驚くレヴィ。
「ゆうしゃ……もぉォォドォォォォオッ!!」
本来の、捨てたはずの、偽物の。勇者という名の……
ーーー俺が主人公! 俺こそが至高! 俺こそがっ!
「俺こそが、勇者だァァァァァッ!!」
正義もクソもない。己を昂らせる為だけに、至上の称号を名乗るという傲慢。
勝つ。それが今の彼に与えられた、彼自身の望み。
「勝つッ!!」
彼の手には、絵本でも描かれる伝説上の人物が使用していたという、最高純度の魔力で生成される『魔剣』……それと酷似した剣が握られていた。
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