これが俗にいう、“ワンチャンある”ですかね?
――サタニウス王国 ・ 上空――
「ベリス様、もう少しで目的の地に到着します」
「りょーかい」
どこから調達したのか分からない、サタニウス産の紅茶を嗜むベリス
「お前ら、ここからは気を引き締めろ。戦いはもうすぐだ」
表情こそは真剣なベリスだが、声色が全然なっていない
が、それに反して下級兵達は、迅速に行動し始める。
「ベリス様、少しお伺いしても?」
「なんだ」
フィオから質問してくるとは珍しい。
「いくら奇襲だとしても、我々と他二部隊のみで一国を攻めるのは流石に難しいのでは?」
忘れていた。作戦の趣旨を部下たちに伝えていなかった。
「あーそれはな、実はとある情報で、近くにサタニウス王国とその同盟国であるデモン王国がウチに仕掛けてくるって話来てたんだよね」
「それは信用に値する情報なのです?」
「魔王様が言ってたことさ。信じる他ない」
真っ直ぐ外の景色を眺めながらベリスは続ける。
「だから俺たちは先にサタニウス王国へ奇襲を仕掛けて、当然同盟国として救援に向かわざるを得ないデモン王国へ、戦力が分担したところで別の部隊が攻めるという作戦だよ」
「それを聞く限り、我々は捨て駒ということでよろしいですか?」
フィオからは動揺の色は見られない。
「だが、いくら国のためとはいっても死ぬのは嫌さ」
「何を今更」
「だから……これを利用するのさ」
床へ指を指すベリス。
「これとは」
「大規模破壊装置。その名も天使の祝福」
「完成していたのですね……」
天使の祝福……天使はこの世界では死と破壊の象徴として恐れられている。この装置は超高密度の魔力を許容量の限界まで溜め込んだ器を投下し、大爆発を起こす物。
魔力の解放と同時に、予め付与されている質量を倍増させる魔術により、単純な威力は二倍と化す。
「運がいいことに相手は一箇所に避難していると見られる」
「そこを狙うのですね」
返答の代わりにベリスの不敵な笑み。
「悲惨な光景になるだろうけど、俺らが死ぬよりはマシさ」
だが、その言葉はどこか憐れみが含まれているようであった。
▽
「今まで本気を出してなかったの?」
「さ、さぁ?」
バッと、手を振りほどきレヴィが距離をとる。
ーーーいやぁ、びっくり。火事場の脊髄反射ってヤツ?
「でも、今度は逃がさないよッ」
レヴィが高速で此方へ、フェイントを掛けつつ接近する。
ーーーいや、何も見えてないんだけどね!?
そして多方から拳、蹴り等が飛んでくる。
「ふっ、ふっ、ほっ」
自分でも驚いたことに、彼女の攻撃の一発一発を綺麗にいなす。
と、真っ直ぐに引かれた一筋の糸の様に、一つの道軌道が見えた。
「ダァッ!」
身体強化に完璧な体重移動を上乗せした、渾身の突きを放つ。
「っ! か、ぁ……!」
腹へもろに当たったレヴィが派手に吹き飛ぶ。
「な、なんで?」
ーーー見える、攻撃が見える!
クレルが何かしたか?
ーーー《だいぶ遅れて、少し成長したようですね》
ーーーえ?
ーーー《今は戦いなさい、そして見せつけるのです。己自身に、己の力を》
ーーーなにを言って……
ここでクレルの言葉は聞こえなくなる。
「ぁ、かっ……はぁ、はぁ」
よろよろと立ち上がるレヴィ。彼女の口端が上がっている。
「やっと、やっと……本気が出せる」
「まだ本気じゃなかったのかよ……」
口から血が零れているにも関わらず、楽しそうに笑っている。
しかし恐ろしいのはそこでは無い。
ーーーなんだよ、なんだよそれ!?
彼女の身体を、禍々しい魔力が纏う様子が肉眼ではっきりと見える。
「死なないように、頑張ってね」
「えっ?」
強烈な衝撃とともに、遅れてやってくる激痛。
「ギィッ、ぃぃっ」
見えない壁。それに押し当てられ、俺の腹にめり込む髑髏を模した魔弾。ケタケタと笑いながら今も尚深くめり込んでいく。
「ぃぃ……」
腹が押しつぶされる所為で、送られてくる空気で発しようとしなくても声帯が震えて声が出てしまう。
桁違い。何も見ることすら出来ずに攻撃を食らった。
再び大きな実力差を思い知り、俺の意識が薄れていく。
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