痛い!
「おっと」
弾かれた手を摩り、レヴィは少し驚いた表情を見せる。
「わかった、お前が子供になりたいのはよくわかった」
誕生して直ぐに、心の面も成熟していた彼女は、未熟な心を知りたいと思っている。
「そのうえで、俺がはっきり伝える」
「なんだい?」
魔王軍の隊長としての彼女とその部下達の為、これから先、今のような変な行動を起こさないようにするために、今の内から止めておかねば。
「子どもになるだなんて、そんな事もう無理に決まってんだろうが」
当たり前のことを言う俺氏。
「何故? 現に僕は子どものように振舞って――」
「子供のように? お前は“子供になりたい”んだよな?」
痛いところを突かれたのか、彼女から反論の言葉は出てこない。
「自分でもわかっているんだろう? くだらない考えだってことが」
「……少し、黙って貰えないかな」
レヴィの言葉に怒りの感情が含まれてきた。
「嫌だね」
ーーーこっちだって挑発に必死だっての
「確かに、お前は天才だ。そして子どもへの探究心が芽生えたんだよな?」
「そう。だから? それがどうしたの」
先程までの様子と比べ、明らかに彼女から苛立ちが見える。
「んじゃあ言ってやる……お前は、そんな馬鹿げたことを考えている自分自身に酔ってる結構痛い少女だって事だよ」
「んなっ!」
赤面。これが答えだ。
「うんうん、わかるぞ。年頃だもんな……俺だってそんな時期あったさ」
突然芸術に手を出し始めたり、洋楽を聞き始めたり……どこが良いのか全くわからないけど、他とはちょっと違う私かっこいい。
ニュアンス的にそんな感じだろう。
「そ、そんなこと無い! 私は本当に――」
「ん? “私”?」
「はぅあッ!!」
先程まで一人称が“僕”だったのに、今……“私”?
「うんうん、わかるぞ。普通から抜け出すにはキャラ作りも大切だもんな」
「う、うるさい!」
「んでも、今まで僕っ娘だったと思ってたからなんか騙された気分だよ……」
「うわぁああああっ!!」
これ以上聞かせてくれるなと、耳を塞ぎ絶叫している。
「何とかなった……」
何ともなっていない。
実力差が歴然ということには変わりない。
「はぁ、はぁ……」
息を切らしたレヴィは、どこか清々しい表情をしている。
「えっと?」
気がつけば二人の間には沈黙が流れていた。聞こえるのは観客の一部からのせせら笑う声。
「ツダ君」
「はいっ」
一変して、貼り付けられたような綺麗な笑みをこちらへ向けてくる。
「お命、頂戴いたします」
俺とレヴィとの距離は十メートル程あった。
が、その言葉が聞こえたのは耳元。
つまり
「い、つのまに」
真正面。体と体がぎりぎり触れない距離まで近づかれ、先程までの彼女からは想像できない、艶めかしい声が耳元に絡みついた。
刹那、囁かれた耳の反対側……右側からの殺気。
気がついた時には既に遅し。悟るのは己の……
ーーー死……!
思わず目を閉じる。
「……」
少しの時間が経ち、未だに意識があることを確認し死を免れたことを知る。
状況を知るべく、ゆっくりと目を開く。
始めに映るのは、相変わらず近いレヴィの体。
「ん?」
次に伝わるのは、右手が何かを掴んでいる感触。
ーーー……え?
信じられなかった。恐らく耳元に顔を置いているレヴィも驚いているだろう。なんせ俺が一番驚いているのだから。
レヴィが本気で俺の頭を貫こうとした彼女の左腕……それを、俺は無意識で掴んでいた。
“超反射”
捨てたはずの能力の一部。その名前が頭をよぎった。
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