一つの道
レヴィが生み出した鞭を地に叩きつける。
その箇所は大きく砕け、その威力を物語る。
「ひっ……」
反射的に悲鳴が上がる。
「ふふっ」
俺の反応を見て満足気に笑うと、彼女はパッと手を離し鞭を消した。
……どうやら威嚇だったようだ。
「君にこれを使ってしまうのは、少し酷だね」
「……」
自分の無力さを痛感する。
「まったく、不思議でたまらないね」
「え?」
「そんな実力で、なぜ君が戦争へ向かわなければならないのか、ね」
レヴィの言葉に目を見開く。
「じゃ、じゃあもしかして……」
「そう、僕は君と同じく魔王様に推薦された、特別戦闘員だよ」
特別戦闘員……通常、選ばれた成人を戦闘員として向かわせるのだが、特別戦闘員は特例として、成人年齢に達していない者が魔王から推薦を受け戦闘へ向かう制度。
ーーーでも何故って言われても……
クレル達が興味本位でそうさせたとしか言えない。
ーーーってか、基本この世界には干渉しないって言ってなかったか?
彼女達には、《棚上げの達人》という称号を授けよう。
「って、余計なこと考えてる暇無いだろ……!」
「さっきから一人で何してるの?」
レヴィが心底不思議そうにこちらを伺う。
ーーーっ! いまだっ!
「監獄!」
大量の魔力を代償に、魔術封印を解くことに成功する。
そして、無数の魔力棒が彼女の周りに降り注ぐ。
「面白い芸だね」
尚も余裕な笑みを浮かべている。
「電撃!」
一部の魔力棒が振動し、電気を発する。その電気は別の魔力棒へ、その電気はまた別へ移動する。
そして間もなく、電撃は彼女へ到達した。爆発音が響き、その威力を物語る。
「ど、どうだ!?」
少々やり過ぎた気もしなくはないが、相手は格上も格上。実力差を考えるならば、仕方の無いことだと自分に言い聞かせる。
が、
「ん〜、ぬるい、ぬるいねぇ」
心配は無用だったようだ。
彼女には傷一つすら、付けることが出来なかったのだから。
「くっ、そぉ……」
一度に大量の魔力を消費した反動は大きい。
「はぁ、正直期待外れもいい所だよ。さっさと終わらせて僕と婚約しようか」
一歩、また一歩と終わりの時間が近づく。
「ほ、本当にそれでいいのか?」
「ん?」
彼女が歩みを止める。
「知り合ってまもない男と結婚だなんて……」
意味の無い時間稼ぎだ。
「ふふっ、成程。いいよ、教えてあげる」
やはりわかり易かったのか、しかし彼女は乗ってくれた。
「僕はね、子供になりたいんだよね」
「へ?」
「生まれた時から天才だったからさ、同い年の子達の事が分からなかったんだ。話すことは支離滅裂で、とても現実味がない」
「分かるような、分からないような……」
幼少期はそういうものだ、俺だってそう。
そんな事が言えるのは“普通”の者だけ。
彼女にはその“普通”が分からない。
「だから僕は、知りたいんだ。最も不可解な子供の心を」
「は、はぁ……」
「口づけをしたら結婚だなんて、夢見る少女が考えそうな事じゃないか。だからそんな馬鹿げたことを、僕の人生を掛けて検証したい」
ーーー馬鹿は君では?
「僕は馬鹿だと思うだろう?」
「いや! 別にそんなことっ」
「それでいいんだ! 馬鹿を言うのも子供だろう?」
彼女の言葉に熱がこもる。
「僕は子供になりたい。普通の子供時代を過ごしたかった……だけど今からでも遅くない。そうは思わないかい?」
彼女が再び歩み出す。
「だから」
あと一歩で俺に届く距離まで近づき、再び止まる。
そして、俺に手を差し伸べる。
「僕と一緒に、“子供になろう”」
それが彼女の告白。
差し伸べられた手を、俺は力強く、だけど痛みを与えないように……
「無理ぃい!!」
弾いた。
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誤字修正をしてくださった方、ありがとうございました。