勝てねぇなこりゃ
――VIPルーム――
「ふんぬぬぬ……頑張るのじゃぞぉ」
リリィが中々の形相で鼻息を荒くしている。
「おいおい魔王様、選手より気合い入ってんじゃねぇのかぁ?」
がはがはと笑うオーガン。どかりとソファに深く腰を掛ける彼は、一人で一般の二倍以上もの身体の大きさを誇るのではないか。
ここで、コンコンと扉がノックされる。
「し、失礼します。お茶をお持ちに参りました」
入ってきたのは、メイド服姿の若い女性。新入りだろうか、緊張で声が上ずっている。
此処にそぐわない場違いな存在。上司や同僚からいじめだろうか。
明らかな格差のある面子と対面し、今にも気絶しそうである。
震える手で、一人一人に茶を渡していく。
「ご苦労様、ありがとう」
最後の一人、オーマンへ手渡すとき、彼女の手は彼の手にそっと包まれる。
「ぴっ!?」
驚きのあまり、今まで出したことの無い声が出た彼女。
「これで少しは落ち着いたかい?」
「ひゃい……」
優しく微笑むオーマンに、赤面している。
擬音をつけるならば、プシュゥ……といったところだろうか。
「オーマン、逆に緊張させてない?」
「顔が沸騰するとは、まさにこの事じゃの」
ヘリィとリリィが面白そうに見守る。
……だがここで、穏やかな空気が一変する。
「魔王様」
アルバートがリリィの名を呼ぶ。
「わかっておる」
どうやらここにいるメイド以外の者は皆、迫り来る“何か”を察したようだ。
「へっ、えっ?」
「おっと」
「ナイスストップだよオーマン!」
「ヘリィ、ふざけてる場合じゃないだろ」
状況を理解できないメイドは、困惑の表情をした後、張り詰められた余りにも重すぎる重圧に耐えかね、何が起こったのか分からぬまま気絶していまう。
「それで、大会はどうします?」
セラが問う。
「続行する。もしもの事があれば、寧ろ一箇所に集められているここが最適……なにより、その“何か”が特定できない限り、無闇に中止するのもいただけない」
魔王の言葉に皆が頷く。
「ゼロ、休暇を取っている第七部隊を至急、調査に向かわせるのじゃ」
「はっ」
魔道具を使用しコンタクトを取り始めるゼロ。
「残る各名は目立たぬよう会場の見回りを、怪しい者は徹底的にマークするのじゃ」
「「「「はっ!」」」」
ゼロを残した隊長らが散っていく。
「嫌な予感がするのう……」
恋人と恋敵との戦いを眺め、ぽつりと不安を口にした。
▽
津田朱音、ただ今ボロクソにやられています。
「っ! だァァア!!」
レヴィへ殴りかかるが、ひらひらと躱される。
え? 魔術使わないのかって?
「それが出来たらやりたいっつゥの!」
「あははっ! どうしたの急に」
「るっさい!」
腕が大振りになる。
「しまっ――」
「てい」
レヴィによるデコピン。
「ぐぁあああっ!!」
魔力が込められたデコピンの威力は半端じゃない。
威力に耐えられず、体が後方に飛ぶ。
「ぐっ、うぅ……」
「魔術、使わないの?」
レヴィが煽り気味に言ってくる。
「はぁはぁ、つ、使えねぇんだろうが……!」
この試合が始まり、レヴィの初手の魔術により俺は魔術の使用を封印された。
「くそっ、やべぇぞこれ」
魔術を使えない俺はただのヒト。レヴィが少し本気を出せば一発で終わり。
勿論、死ぬという意味で。
「たっぷり可愛がってあげるね、子猫ちゃん」
およそ普通女子が使わない言葉で俺を追い詰める。
ーーーマジでマジでマジで! どうする!?
魔力の動き自体は正常。ということはつまり、魔術の封印は完全ではない。
それを対処できれば、何とかなるかもしれない。
ーーー……でも、それまでに時間制限が来てしまいそうなんですよね
「そんな不安にならなくても大丈夫だって、優しくするんだから」
ーーーって言いながら鞭生み出しましたよこの人……
俺が罠にかかったか弱い小動物であれば、彼女はそれを見て木の枝でツンツンとイタズラをする……ゴリラ。
ーーー力の制御ガバガバやんけ!
この試合勝てますかね。
いつも読んでいただきありがとうございます!