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幻想



 ――サタニウス王国 ・ 上空――



 「……あれぇ、郊外にちらほら誰かいるみたいだけど、都市の方誰もいなくない? と言うより、一部に人口が集中してるなぁ」 



 最大百キロメートル先の物体を見ることが出来る魔眼を駆使し、その光景を見た彼……べリスは困惑する。



 ーーー勘づかれたか?



 流石に巨大な騎空艇には擬態を施しているが、相手は一国家。バレていたとしてもおかしくない。



 「お前ら少し速度を上げよう、おいフィオ」

 「如何なさいました」

 「後どれくらいであっち着く?」

 


 フィオと呼ばれた、彼の秘書は眼鏡を指で押し上げ、一言一言が決め台詞と言わんばかりのドヤ顔で話すのが特徴的。



 「あっちとは目標地点、つまり城郭都市ということでよろしいでしょうか」

 「ああ、そうだ」



 べリスも慣れているようで、軽く流す。



 「でしたら、この速度で順調に進めば……後三十分程で到着します」

 「三十分ねぇ」



 奇襲が成功するかしないか、ぎりぎりの時間。



 ーーー尤も、お相手さんに気づかれていなかったらの話だけど

 


 「さぁ、いよいよ始まるかな……ベルゼ王国の時代が」




 ▽



 「えっ……」



 俺こと、津田朱音はただ今困惑しています。

 

 いや何回目だよと言われるかもしれませんが、今回ばかりは本当に理解が追いつきません。


 

 えっ? 何のことかだって?



 レオとミラ学院との試合だよ。




 開始二分程はよく見る、魔術を繰り広げる攻防戦という感じで観衆も湧いていた。



 だが、対戦相手の男がボソリと何かを呟くと、レオはぴたりと動きを止め、だらんと両腕を力なく下げて虚空を見つめ始めた。



 すると唐突に、レオは対戦相手でもない、おそらく彼にしか見えない別の何かと会話を始める。



 すると今度は属性弾を、対象物もない全くの見当違いな方向へ連射し始める。



 流石に会場がざわつき始める。



 ここでさらにレオは声を荒らげ始め、遂には己を己自身で傷つけ始めてしまう。



 これはいくらなんでも様子がおかしいと、俺は審判へ試合を中止するようジェスチャーを送ったが首を振られた。



 つまりこれは一種の魔術だという。




 そして遂に、レオは己の切り札を使い、己自身にトドメを刺して試合は幕を閉じた。




 「やっぱ分かんねぇな……」

 「男が施したフィールドに干渉する魔術に仕掛けがあるわね」

 「そうっすよねぇ」




  ーーー《仕方ありませんね、ここは私の出番ですか》



 「おっ」

 「?」



  ーーー久々の登場ですね



 こういう時に助かるクレル大先生。この世界のG○○gle。



 ーーー《隠せてますそれ》


 ーーー……そ、それであの魔術の正体ってなんなの


 ーーー《魅了チャームです》



 kwsk



 ーーー《文字通り、相手に魅了を掛けます。と言っても、今回は()()()()()()()()()魅了されるという言い方がわかり易いでしょうか》


 ーーーえっと、つまりレオがレオ自身に魅了されたってこと?


 ーーー《ええ。ですがこれはあくまでもお豆腐のように脆い脳みそをお持ちのマスターへのわかり易い例であって、本題は勿論ここからです》


 ーーーやっぱ容赦ないな




 久々に食らうクレルの毒。



 ーーー《今回、彼は自分自身に傷を付けましたね》


 ーーーああ、先ずそこが分かんなくてよ


 ーーー《先ずと言うより、これから話すことが、解説の本質です》


 ーーーあハイ


 ーーー《今回の彼の敗因は、“慢心”です》


 ーーー慢心……



 

 普段のレオとはあまり結びつかない単語だ。



 

 ーーー《彼は己の強さ故に、更なる実力者を求めていました》


 ーーーはいはい、何となくわかる


 ーーー《そこで、今回のフィールド系魔術に掛かった彼は、心のどこかで願っていた、強者をよびよせたのです》  


 ーーーん? どこに?


 ーーー《勿論、彼自身の世界にですよ》



 そこで俺はハッとする。



 ーーーつ、つまり、レオは自分の生み出した幻覚と戦ってたってこと?



 ーーー《ええ、しかも面白いことに、彼の望みを読み取った対戦相手は見事な魔術選択で力をほぼ使うことなく勝った……》


 ーーーそうか、仮にレオの望むものが別なものだとしたら、全く検討ハズレな結果になるかもしれなかったのか



 恐るべし頭脳プレイヤー。



 もうクレルの声は聞こえない。



 「ちょっと」

  「ん?」



 そういえば隣にサラブレがいたのを忘れていた。



 「どうしたのよ急にぼーっとして」

 「ああいえ、大したことないっすよ」

 「まったく、貴方もレオみたいにおかしくならないでよ」

 「おぉ、心配してくれて嬉しいです!」



 喜ぶ俺へ、サラブレが俺の脛を蹴る。



 「いっづぅうああ!」


 のたうち回っている間に、サラブレは紅茶を啜っていた。



 ーーーなんと速い移動、俺でも見逃しちゃったね



 と、冗談はここまでにしておいて……




 『次の選手前へ』




 「うしっ!」




 頑張って。後ろから微かに、しかし確かに聞こえた声援を受け取り、俺は頬を叩き気合いを入れ直した。

 



 「さて、出陣といきましょう!」

いつも読んでいただきありがとうございます!

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