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背水は力となり枷となる


 「ほぉ……!」



 男が高揚混じりに声を上げる。



 「疾ッ!!」



 音とともにレオが消える。



 「否、私の察知能力ですら捉えきることができない程の速度で駆けているのか……」



 状況を把握出来ない男の推測でしかない。



 「……ぬっ、」



 いつのまにやら、男の背にはレオの掌が置かれていた。



 「波ッッ!」



 五臓六腑への攻撃。放たれる波動は、内蔵を損傷させる。



 「ぬぅ、ん」



 気道から逆流する苦い液体が、吐瀉を促す。



 「ぐぬぅぅ……!」



 持ち堪え、そしてすぐさま防御の姿勢をとる。



 「これはこれは、厄介ですね」



 先程の攻撃が余程堪えたのか、言葉に先程までの余裕は感じられない。



 「しかし、これ程までの爆発的な強化には代償が付き纏う……」

 「話している余裕は無さそうだが?」



 レオの拳が男の頬を捉える。



 「ぐっ! ……っ、ふふ、貴方も残り数分戦うことすら厳しい状況なのでしょう?」 



 男の目には、勝利を確信した“色”が伺える。



 「なら、尚更貴様を手早く片付けなければ、なあァ!」



 レオの容赦ない猛攻に、男は為す術もない。



 「……」



 男の顔は、もはや原型を留めていない。



 「右腕三箇所、左腕二箇所、右脚四箇所、左足一箇所、肋三本、胸骨をそれぞれ骨折。その他多数打撲。大まかにそういった感じか」



 男はもう立つこと以前に、動くことすらままならないだろう。



 「審判、勝負は着いた。判定を――」

 「まだ、です」



 絞り出したような掠れる声で、男が言った。



 「何?」

 「わ、私の意識、があ、る限り、敗北、は認められ、な、い……」



 確かに理屈は通るが、男の状態は極めて危険と言える。



 「ふん、下手な意地を張っていないで、さっさと負けをみと、めろ……!」



 優勢だったレオだが、急に膝を地につけた。



 「ふ、ふふっ、いっ、たでしょう? 代償がある、と」

 「ぐっ!」



 レオにもそれを十分に理解していた。だから他の試合でも使うことは無かった。



 魔装は、レオがたまたま目にした資料で知った強化系魔術。資料には効率的ではないと一蹴されていたが、レオはその魔術に可能性を見出し、会得した。



 初めての発動は散々であった。

 発動数秒で気絶。目を覚ました時は翌日の朝。  


 なんとか数をこなし、身体を慣れさせてやっと使い物になるレベルまでに上達した。




 しかし、その代償はそれでも身体に相当な負荷をかける。


 その代償とは、『持続的な魔力の消費』。



 発動中、自身の魔力は急速に減り続ける。



 魔力が完全に底を尽きるまで……



 一度決壊したダムの水が止まらない様に、この魔術は発動後、魔術を解くことは出来ず、枯渇を待つのみ。



 「ぐぁあっ!」



 激しい魔力の消耗とともに、頭痛の頻度も増す。


 身体が遅れて疲労感を覚える。




 「これで、私の勝ち、だ……!」



 勝ち誇る男。だが、彼も又唯ならぬ痛みと戦っているだろう。



 「まだ、だァ!」



 己を鼓舞したレオが、ゆっくりと立ち上がる。




 「なっ……」



 男の驚愕の表情。



  「これで、これで終わらせてやるッ……!」



 身体に纏う光が、再び手に集中していく。



 「まさか……まだそんな力が」



 絶望に歪む男。



 「勝利の鉄槌(ラストナックル)ッッ!!」



 光速の拳を、男の顎へ振り上げる。



 「あ、ああっ……」



 吹っ飛んだ男は、そのままダウン。



 「かった……これで、終わり、だ……」



 完全に魔力が切れ、その場に倒れ込む。


 大丈夫だ。意識はまだある。

 後は審判の判定を待つのみ。



 『勝者……』



 ああ、これで安心だ……


 結果を聞き届ける前に、レオは意識を手放した。




 




 『勝者……()()()()!!』



いつも読んでいただきありがとうございます!

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