消えるとかセコいぞ
「え〜、どこいんだ? レオわかります?」
「わからん」
どこを見渡しても、ピエロ男の姿は無い。
「大丈夫ですかね、サラブレさん」
俺が心配しても仕方の無いことだが、どう考えても不利な状況に立たされた彼女の身を案じ、祈るように手を組む。
「……」
その頃サラブレは、目を閉じ、佇んでいる。一見、ただ棒立ちしているようにも見える。
「〜♪」
独特の鼻歌のような“音”をサラブレの耳が捉える。
「っ……」
捉えた瞬間、背後からの殺気。
予めどの攻撃にも対応できるよう、構えていたため体を横に逸らす。
すると、何も無かったはずの空間から脚が出現し、踵が振り下ろされる。
「なるほど」
そこで何かの答えにたどり着いたのか、再び先程と同じように目を閉じ、その場に立ち尽くす。
「〜♪」
そして直ぐ、今度は横から腕が出現した。
「ふっ!」
長い爪で肉を抉ろうと迫るが、これも彼女の予測範囲内の攻撃だったため、易々と躱される。
「疾ッ」
躱されたことで、再び姿を消そうとする腕へ、クナイのような投擲武器を放つ。
「やっぱり」
腕にこそ命中はしなかったが、腕が消えた直後、クナイも同時に消えたのだ。
「何故!?」
「なるほどな」
驚愕する俺を他所に、一人納得するレオ。
「一体どういうこ――」
「おそらくあの奇妙な男は、自らが作り出した別の空間に身を潜めているのだろう。男が攻撃する間とその後数秒は、空間への入口が開かれたまま。そう考えたサラブレは飛び道具を入口と思われる場所へ投げた……結果は見ての通り成功だな」
ーーー流石だなぁ
と、サラブレを賞賛していると、彼女に異変が起こった。
「くっ……」
油断した。脚に突き刺さる、自ら投げたクナイを一息に抜きそう唇を噛む。
クナイを投げたところまではよかった。相手の居所に攻撃を仕掛けることが出来た。
そこで少し心が弛緩し、後ろから迫る己の攻撃に気づくことなく、柔らかな肉をぶっ刺した。
「……♪☆」
挑発を含んでいるかのような“音”が頭に響くように鳴る。
「……いいわ、面白い」
今大会初めて、いや史上初めて、彼女に熱い火がゆっくりとと灯り始めた。
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