勝たなければならない理由が出来たようだ
「すいませんでしたァ!!」
土下座する俺を、リリィが鼻で笑う。
「見るからに安っぽい土下座など、逆に相手を不快にさせるだけじゃ」
「で、でも、俺には今これしか出来ない……」
迂闊な行動をした俺に、ただ許しを乞う自分自身に腹が立つ。
「他に何か言いたいことはあるかの」
寛容な心をお持ちのリリィは、俺に弁明の機会を与えてくれた。
「言い訳をさせてください」
「言い訳とな、よかろう」
俺はありのままにこの不祥事の詳細を話した。
「ふむ……つまりお主は、レヴィを男だと今日まで思い続けていたと。故に男同志の接吻は深く気にする必要は無いと判断したのじゃな」
「はい」
リリィはジッと、俺の目を見つめる。
ーーー目が離せない……というより離したくない
美しい瞳に意識を持っていかれそうになる。
「すごく、綺麗だ」
「ふぇあ!? はっ! んんっ、ど、どうした急に」
「ああいや、あまりにも綺麗だったので無意識に」
つい零した一言に、リリィはその不意打ちに顔を赤く染めるが、直ぐに仏頂面に戻った。
「と、とにかく、お主が嘘をついていないことはわかった」
どうやら俺の目を見て、真偽を判定していたようだ。
ーーー目を見て分かるもんなんだな実際
「そこでお主にチャンスをくれてやろう」
「本当か!?」
俺が喜ぶのも束の間、リリィからは何やら疲労を感じさせる溜息が見て取れた。
「どうかした?」
「実は、お主がレヴィに敗北すれば、レヴィがお主を婿として迎え入れるそうなのじゃ」
「正気か!?」
どうやら、俺とキスをしたことが原因で、意外(と言ったら失礼だが)にも乙女だったレヴィは、他のお嫁にはいけないと言い出し、だったら俺を婿に入れるべく、リリィへ俺自身を介して俺をかけた勝負を持ちかけたそう。
「それで、勝ったらリリィは俺のことを許してくれる」
「負けたのなら、お主と我の関係はこれまで……ということじゃな」
ここまで来ても、リリィからは焦りといった様子は見受けられない。
「やけに落ち着いてるな」
ーーーまさか、俺はもう見限られてるのかな……
不安な気持ちになるなか、彼女は不思議そうに俺を見て言った。
「何を言っておる? 始めからお主が負ける未来など見えておらん」
「リリィ……」
安堵して座り込む。杞憂だったようだ。寧ろ、完全にリリィを今でも信じきれていない事実に落胆する。
「アカネ」
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、リリィが俺を名を呼ぶ。
「はい」
顔を上げるが、罪悪感で顔を合わせるのが辛い。
そのため、自然と顔を上げることが遅くなる。
リリィへ目を向けようと、やっと、顔が上へ向いた時、リリィの顔がすぐ近くまで迫っていた。
「り、リリィ?」
息がかかる距離まで近づいたリリィとの距離が、更にどんどん縮まって行く。
そして……
「んんっ……!?」
俺の唇をリリィの唇が塞いだ。
「っ〜〜〜!」
今まで溜め込んでいた気持ちを、ぶつけるように、俺の頭を抱え、強く唇を押し付けて離そうとしない。
「り、りぃ、たんま、ちょっいたたた」
無理やり口を開き、小さく動く唇でギブアップを伝える。
「ぷはぁ!」
「はぁ、はぁ……」
じんじんと痛む唇を撫でる。
「どうしたんだよいきなり」
驚きが強く、照れる暇がない俺はすぐさま真意を問う。
「“上書き”じゃよ」
ベッ、と舌を出し、不貞腐れた顔で会場の方へ歩いていった。
「………って、一緒に行こーよー!」
惚けている間に、結構離れてしまった。
「なら走ってこいなのじゃー!」
リリィは両手をぶんぶん振りながら言う。
「へいへい……」
ーーーまったく、可愛いやつだな
今回のリリィとのキスはそれこそ不意打ちだったため、何も感じなかった。
ーーー大会が終わったら、優勝を報告してから、改めてだな
そんなロマンチックで気持ち悪い想像をしながら走り出す。
顔がなんだか熱を帯びている気がするが、そういう事ではない。ないったらない
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