で結局だれが雇った
本日は魔術大会準決勝。
早朝から賑わい、人が溢れかえっている会場のとある一室だけ、張り詰めた空気が漂っていた。
▽
――VIPルーム――
「して、何故お主はその様な暴挙に出た?」
魔王、リリィ・サタンが、一人の人物に問う。
その場にいる隊長らでさえ、リリィの放つ威圧感に気圧される。
そんなプレッシャーを与えられている本人は、薄らと笑みを浮かべる。
「何故って、魔王様があの男を戦争に送り出すと言うので、実力を測ったまでですよ」
「ほぅ、しかしそれが他二人を巻き込んでよい理由になるのか?」
何故かツボにハマったのか、その人物は吹き出す。
「何が面白い」
「たかが二人をハンデに、あのレベルの“殺し屋”にやられる国の代表が居ますか?」
続けてその人物は問う。
「そもそも一体何故、魔王様はあの男……ツダ・アカネを選出したのですか? その真意を伺いたい」
この問は他隊長らにも知らされておらず、皆耳を立てる。
「それは……ん? 何故だったかの」
「「「「は?」」」」
リリィの言葉に、隊長らは間抜けな反応をする。
「ふふっ、つくづく読めない御方だ」
「しかし彼奴を送り込まなければならない。そんな気がしてならんのじゃ」
「お言葉ですが、その様な理由でアカネを戦争へ送るのは如何なものかと思います」
リリィの言葉に、セラ・アルバートが口を挟む。
「だそうですよ魔王様。これこそ先程私に仰った、“暴挙”ではありませんか?」
「口が過ぎるぞ」
唯一沈黙していた、ゼロ・アルバートが口を開く。
「我々は魔王様の下僕。下僕如きが魔王様と対等などとは思うなよ」
「おーこわいこい」
ゼロの発言により、場が静まる。
「……取り敢えず、主の動機はわかった。じゃが、結局主は何がしたい?」
「と言いますと?」
「主はこの大会に出場しているのじゃろう? 今までこちらに顔を出さずにいたと思ったら、今になって現れた。しかも、殺し屋を雇ってアカネ達を襲わせたと、自らの立場を危険に晒すことを言って」
改めて思うと、不可解だ。
「理由を話す前に一つ、言っておかなければならない事があります」
「なんじゃ?」
するとその人物は、先程までと打って変わり、赤く染まる頬に手を当てて少し躊躇いながらも言葉を口にする。
「じ、実は先日、不可抗力ではありますが、彼とその……く、口付けをしてしまいまして……」
「……へっ?」
間の抜けた表情になるリリィ。
「もう他のお嫁にはいけません。ですから……」
魔王に宣言する。
「第十部隊隊長……いや、ミラ学院所属、レヴィ・ウリウスは、決勝でセンス学院を降し、ツダ・アカネを婿として向かい入れますっ!」
「「「「はぁああああ!?」」」」
「本気か貴様?」
隊長らは驚きを隠せない。
そして当のリリィはと言うと……
「あ、あああアカネが、他の女と、せせせ、接吻じゃと……」
ショックの大きさから、口から魂が抜けそれどころではなかった。
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