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力も速度もえげつない奴にどう勝つか


 「効かぬ! 効かぬ! 効かぬわぁ!!」



 先程から高威力の魔力弾を撃ち続けているのだが、強力な筋肉の鎧で大したダメージならない。



 「セェイッ!」



 筋肉男がこちらに迫る。

 丸太のように太く、そして竹のような靱やかさを合わせ持つ腕を俺へ叩きつける。



 「っ!」



 後ろに跳ぶことで回避を試みるが、その腕が馬鹿げた威力を持つらしく、風圧で体が吹き飛ばされてしまう。



 「……っぶね!」



 丁度木にぶつかりそうになるが、脚を利用して衝撃を和らげることに成功する。



ーーー身体強化系の魔術か……



 驚異的な肉体を目のあたりにすれば、それしか考えられない。



ーーー外からのダメージはほぼ無効



 となると、



 「やっぱ内から攻めるしかないよな」

 


 勝利への兆しが見えてきたところで、筋肉男が“飛んでくる”。



 「ハァッ!!」



 筋肉男の掌底を、身を屈めて回避。後ろの木が、破裂音と共に木っ端微塵となる。



ーーー回避も面倒だな



 擬似的な遠距離攻撃にもなる彼の攻撃は、攻撃する動きと垂直に回避しなければならない。でないと、先程のように風圧で吹き飛ばされてしまう。



ーーーどうにかして隙を見つけないとな



 しかし相手は殺しのプロ。易々と隙を見せることは無い。



ーーーつか、もう二人はなんだったんだ? 弱すぎなかった?



 「セェェエイッ!!」



 取り敢えず余計な考え事は後回しだ。



 「隙が出来ないなら、作るまでだっ」



 と言いつつ、準備は整った。




 「ぬっ!?」



 ピタリと動きが止まる筋肉男。



 「これは……糸か」



 忌々しげにこちらを睨む筋肉男。



 「正解、正しくは魔力糸て言うんだけど」



 髪の毛一本分の太さにも満たない細く透明な糸を生成し、攻撃を回避しながら、糸を木や彼の身体に巻き付け、拘束することに成功した。

 本当は誘導されていたことを知らずに。



 「こんなものぉ……ヌゥゥウン!」



 見た目よりも、かなり強度が高い糸だが、易々と引きちぎられた。



 「監獄プリズン



 しかし、直後に宙から降り注ぐ魔力棒により、閉じ込められてしまう。




 「小賢しいわぁあ!!」



 これもまた、強力な腕を薙ぎ払うことで、吹き飛ばされてしまう。



 「ぬわぁ! はっはっ! 万策尽きたということか!」



 豪快に筋肉男が笑う。




 背後に忍び寄るひとつの影に気づかずに。



 「永遠無力……“浪費”」

 「ぬおぉ!?」



 筋肉男の両耳を掌で塞ぎ、特殊な状態と化した魔力を注ぎ込む。



 「何をするか貴様ァ!!」



 激昴する筋肉男。

 怒りに身を任せ、俺を殴り殺そうとしているが、もう遅い。



 「なぁっ……ち、力が……」



 ガクンと、膝から崩れ落ちる。



 「なに、を……」

 「地獄を見せてあげよう」



 そう言って、少し放置する。



 「っ、ぁあっ! ぐぁあああっ!!」



 筋肉男……いや、魔術の反動で痩せこけた男は、苦しみだし、次第に自らの身体を抱くようにして、のたうち回る。



 「俺があなたにした事は、耳から魔力を注ぎ込んだだけ。あとはその魔力があなたの魔力と上手く適合して、あなたの魔力は、注ぎ込んだ魔力に勝手に向かってしまう。そして同時にあなたは力を失い、注ぎ込まれた魔力は次第に膨れ上がって身体の内側をじわじわと傷つける」

 「……」



 そこからまた結構放置しているが、これまた中々面白い表情になっている。しかしまだまだこれから。



 「魔力って自然に回復してくるよね?」

 「え……?」

 「まだ頭が回るのか、凄いね……って、感心している場合じゃないか」



 そろそろ彼の精神が壊れる頃だ。



 「てことはつまり、その魔力も取り込まれるって事だから、あなたは永遠に魔力を使うことは勿論、()()()()()()()()()()()()()()()()というわけだ」

 「は、ひゃ」



 理解した彼は絶望に染まった表情で、涙と鼻水をだらだら垂れ流している。



 「あー、そうそう。気絶とか自殺なんて出来ないから。もう既に俺の魔力があなたの身体の主導権握っちゃってるみたいだからね」

 「あひゃ……あひゃひゃひゃひゃひゃ!!」



 そして暫くの間、彼は壊れた様に……否、精神を崩壊した彼は、笑い続け、そして最期には泡を吹き、電源が切れた玩具のように突然静まり絶命した。



 これが俺の編み出した、もしもの時の為の“殺す魔術”。



 「はっ!」



 そういえば、レオとサラブレがいることを忘れていた。


 慌てて確認するが、どうやら魔力の枯渇で気絶しているようだった。



 「危ねぇ……っ! うぅ……!」



 急な吐き気が俺を襲う。



 「うっ、おぇぇ!」



 初めて己の意思で人を殺し、その光景と、己の言動がフラッシュバックし、堪えきれずに吐いてしまう。



 「ごほっ! はぁ、はぁ……」



 木にもたれかかり、空を仰ぐ。



 「ははっ、こんなにも人は変わるんだな」



 あの時の俺は、正真正銘の俺だ。操られてもいない。



 「怖い……」



 身を守るとはいえ、殺すことがこんなにも己を変えてしまうとは思わなかった。



 「これじゃマジもんの化け物じゃねぇか……」







ーーーなーんて、ただアドレナリンがバンバン出てただけなんだけどねぇ



 この前殺しに来てくるやつは殺していいと、クレルが教えてくれた。

 

 ある時、戦争行くとしても、人を殺すのが怖い。なんて言ったら、



ーーー《覚悟を決めて下さい》 訳)何時までもメソメソしてビビってんじゃねぇぞゴラ



 と説教を食らったばかり。


 正直完全に克服した訳では無いが(さっき吐いたし)、何とか頑張れそうだ。



 「そろそろ起こすかな」



 もうすぐ日が沈む。



 「起きてくださーい」



 起きない。



 「暗くなりますよー」



 起きない。


 余程の魔力消費だったのか、起きる気配がない。



ーーー死んでんのか?



 大丈夫だ、息はある。



 「あー、どうすっかな〜」



 危険な夜の森にはなるべく居たくない。しかし、一度に二人を運ぶのは困難。



 「うーむ」



 頭を悩ませていると、



 「ギャイギャイ」



 ゴブリン が あらわれた!

 



 



 


 



 


 



 




 


 







 



 






 

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