マッスル!
「あっ、皆さん来ていたんですね」
控え室には、早くもレオとサラブレが作戦を練っていた。
「丁度よく来たわね」
「ん? 何かあるんです?」
サラブレが此方へ、ちょいちょいと手招きする。
「今回の対戦相手の話なんだが……」
「少し乱暴な選手が集まっている所よ」
「この試合での乱暴の定義がイマイチ分かりませんが……」
よく分からないが、二人には、今回の試合で苦戦する予感がある様。
「ん〜? 何なにぃ? 何話してんの〜?」
サバン・オブジェ乱入。
「具体的には、戦闘不能にならない程度に、執拗に相手を痛めつけたり、戦闘不能にした後も尚相手に暴行を加えたりする馬鹿共だ」
「うわぁ」
「思うのだけれど、それでよく勝ち残れるわね」
ガッツリ無視されたサバンはしくしく泣くフリをして、彼のチームの元へ戻っていく。カノンに無言で後頭部をスパァンと叩かれた。
閑話休題。レオは正義感というか、相手を尊重する気持ちが強いのだろう。話をする彼の表情はあからさまに不機嫌だ。
ーーーそう言えばレオとサラブレさん言ってたなこの前
―――『チッ、胸くそ悪ぃな……』
―――『あれは確かにいただけないわね』
きっと今回の対戦相手の試合を観て思ったのだろう。因みにあの時俺は座りっぱなしでケツを痛めたため、試合を直接見ること無く外でのんびり散歩をしていた。戻ってきたのは終わった直後。暫くの間、三人は言葉を交わすことは無かった。
「それでどうします? 順番」
「俺は何番でも構わん、ねじ伏せるだけだ」
「同じく」
メラメラと二人の闘争心が燃えている。
「じゃ、じゃあクジで決めましょ」
結果は、レオ、サラブレ、俺の順となった。
『まもなく、センス学院 対 ディアル高校の試合が始まります。選手の方々は準備をお願いします』
「よし、それじゃあ行きましょうか」
▽
『さぁいよいよ大会も後半に差し掛かりました! 準々決勝初戦を戦いますは、センス学院 対 ディアル高校の試合。目が離せません!!』
ーーーあ〜、緊張する
『それでは只今より、準々決勝第一試合、センス学院 対 ディアル高校の試合を始めます』
ディアル高校は三人とも男子生徒。一人はオールバックにゴツゴツの指輪を嵌め、一人はヒャッハーな緑髪モヒカン。
最後一人は眉にかからない程度の前髪、ピチッと制服を着こなしている……至って普通の好青年にしか見えない彼には、一つだけ、異様な箇所があった。
ーーーなんだ、あの肉体……
異常に発達した全身の筋肉は、仲間二人合わせても足りない程である。
「よろしくねっ!」
気持ち悪い程に好印象のスマイルを向けてくる。
『各選手前へ』
「行ってくる」
「ファイトです」
「気をつけて」
レオの相手はどうやらオールバック。
「おーおー、可愛い子連れてんじゃん、今度俺の相手させろよ……勿論、夜の方な」
オールバックはサラブレを見つけ、もう既にレオは眼中に無いようだ。
サラブレは不快そうに眉を顰める。
「……」
「おいおーい、始まる前からびびってんじゃねぇよ」
反応しないレオに、蔑む目で見下すオールバック。
『両者構えて』
オールバックのくちゃくちゃガムを噛んでいる音だけが聞こえる。
『始めぇ!!』
「んじゃ、軽く相手してやっ……がぁ……!?」
ヘラヘラと口数が減らないオールバックの腹へ、鋭いストレートを決める。
「あっ……がっ」
そして呆気なく、気絶してしまった。
『勝者、センス学院!』
「アカネ」
「なんでしょう」
試合をみていたサラブレが、つまらなそうな表情をして俺の名を呼ぶ。
「この試合、過去最高につまらないものになるわね」
「えっと……あぁ、そうですね」
察しが着いた俺は、無表情で筋肉男を見つめ、静かに頷く。
「この試合、終わってからが大変そうですね」
「はぁ……こういうの、非常に面倒だわ」
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