ようやく使命が出来たような気がする
俺は二人の願いを聞く。
『魔界、人間界に存在する全ての宝具を破壊してほしい』
「ごめん無理だわ」
カッコつけて言ってみたのはいいもの、これほどの無理難題は、俺でも出来ません。
だって探すのだって大変だし、守護する神獣だっているし……それに持っている人も探すとなれば計り知れない程の時間がかかる。
《まぁそうでしょうね》
「あ、あっさり引いてくれんのね」
クレルらしいと言えばらしいが……
『全て破壊出来たらどんなに楽なことか』
《この問題の解決に楽な道などありませんよ》
嘆くシン(仮)を戒める。
「んじゃ、俺はどうしたら?」
《今後、人間界と魔界との戦争は避けられません》
宝具をもった人間が、超人的な力を持つ勇者を連れて進軍してくる。
考えてみるとゾッとする。
《恐らく、人間界側が宝具の力を使って魔界へ攻めてくるでしょう》
「つっても、ここに来るまでが大変だと思うんだけどな」
思い当たる宝具は、転移直後に説明された転移門。
大量の力を消費してやっと開いたかと思えば、いざ魔界へ到達したら、直後に到達者は死亡したというへっぽこ宝具。
《苦労すると思われますが、あちらには勇者がいます》
「規格外マンのことだな」
《勇者ならば、ごり押しで人間界と魔界との次元の壁を両断する事くらい容易いでしょう》
「お疲れしたー」
『ちょまって』
むりむりむりむり、ヤバいって何それ本当ヤバいやつだってこれ! と絶望する。
《その事実を承知して頂いた上で、再度お願いを申し上げます》
「嫌な予感がするのは気のせいか?」
《後に魔界へ攻めてくるであろう人間軍を、マスター率いる魔族軍で撃退・撤退させてください》
無茶ぶりに耳を塞ぎたい。
「先ず俺率いるってなに」
《文字通り、マスターが魔界のトップに立ち……》
「いいかいいか? 撃退とかだったら、俺にそんな役職要らんでしょ」
『甘い』
《チョコレートのように》
倒置法腹立つ。
《圧倒的な力を見せつけて人間を退けたのなら、残る必要なものは、それに先だった者としての“称号”です》
「はぁ?」
『強き者がそれを掲げることにより、今後神界を含めた他所の世界が横槍を入れないよう、抑止力となる役割を持つのです』
言いたいことは分かる。
「でもさ、その抑止力になるには君たちの世界の人より、更に強くならないといけないんじゃね?」
《当たり前ですけどなにか?》
課題が一つ一つ増えていく。
「それって、始めにシン(仮)が言った願いよりきつくないか」
《さぁどうでしょう》
『頑張って』
ダメだ。ゲロ吐きたい。
《取り敢えず目標はただ一つ、強くなれば良いのです。誰にも負けないくらいに》
『簡単だね。ちゃっちゃとトップに立っちゃえ』
「お前らそんな簡単に……」
と、ここで意識が遠のいていくのを感じる。
《さっさと現実に戻って事を始めてください》
『そしたら道は開ける』
「道って、途方もない距離の一本道ですが」
最後に自分への皮肉を言って、俺の意識は現実へと戻っていった。
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