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俺は一体どうしたら……


 《さぁ、お戻りなさい》



  横に転がっている肉塊にそう告げる。

 すると、肉塊が光に包まれるや否や、瞬く間に肉塊は元の原型を取り戻し、二つの人型を形成した。



 「こ、怖ぇよ……クレルさんマジパねぇ……」

 『相変わらずすぐ怒るな君は』



 クレルによって破壊され、そして修復された俺とシン(仮)は、間もなくして説教を食らった後、穏便な話し合いを進めることとなった。



  《それでは、私が進行を務めさせてもらいます》

 


 コタツに入り、向かい合うようにして座る俺とシン(仮)。その間を見張るようにして座るクレル。その三人が揃い、今度こそ真の事実を知る時が来たのだ。



 《マスター、早速このシン(仮)に答えて欲しい事を質問してください。一つずつですよ》



 俺はじっとシン(仮)を見つめる。

 こいつが俺を騙した。皆を騙した。

 どうせ何かしらの事情があるのだろう。しかし、分かっていてもこいつは許せない。俺はこの腹立つ顔を今すぐにでもぶん殴りたいという感情を押し殺し、一つ目の質問を口にする。



 「先ず、お前の……いや、お前らの本当の目的を教えて欲しい」

  『随分とアバウトな質問だね』

 「ちっ、面倒臭いな」



 一呼吸置き、形を変えて質問する



 「お前が俺を騙した本当の理由を答えてくれ」

 『大きな理由は二つあるんだ。先ず一つは、君の力を最大限に解放させる為だよ』

 「力を解放?」



 うんと頷き、シン(仮)は説明を始める。



 『君は魔力がずば抜けて高い。でも、元々君は戦いから無縁の生活を送り続けていた。だから、僕が君のトリガーとなり、暴走に近い形で君の力を解放させようとしていたんだよ』



 その説明で俺は幾つもの疑問が生じ、首を傾げる。



 「ちょっと待て、それだとお前は俺が地球にいた時から俺の中に潜んでいた事になる。それにどうやって無数にいる人の中から、たった一人の俺という存在を見つけた? 他にもおかしい所が結構あるぞ」



 疑問を口にする俺に対し、シン(仮)はやれやれと首を振る。



 『質問は一つずつと言われたばかりだろう?』

 「それは……悪かった」



 謝罪する俺に、シン(仮)はまぁいいやと言って続ける。



  『まあ、二つ目の理由を説明すれば分かると思うな』

 「な、なんだよ、その理由ってやつは」

 


 ごほんとわざとらしく咳払いするシン(仮)。




 『それはね、“この世界の均衡を保つ為だからだよ”』

 「???????」



 ごめん、全然分かんね。



 『んじゃ、一から説明するよ〜』

 「頼む」



 またぶっ飛んだ話の予感がする。



 『この星ってさ、魔界と人間界があるじゃん』



 それは分かっている。



 『んで、その二つの世界を見張り、均衡を保つ役割を成すのが、神界という世界』

 「あ、ああ」



 ちょっと理解が追いつかなくなりそう。



 「つかさ、神界ってどこにあんの?」

 『ん〜、地球で言うところの“月”にあたる所かな』



 ほうほう



 『普段は魔界と人間界には何も干渉はしないんだけど、ここ最近退屈していた一人の神が、人間界と魔界に()()()()を落っことしたんだよ』

 「鏡……っ、あっ!」



 ピンと来た。

 思い出されるのは、スーン王国の国王が言っていた、人間と魔族がお互いの存在を知るきっかけとなった鏡。


 てか、最近つっても人間界では遥昔の話だぞそれ



 『その鏡から始まり、暇を持て余した神々が、様々な道具をこの星に落とした』

 「もしかして、それが宝物?」



 うんとシン(仮)が頷く。



 『君も確か持っていたよね』

 「ああ、色々な場所へ転移することが出来るやつ」



 実は結構使っている。おつかいとかおつかいとかおつかいとか。



 『実はそれが、均衡を崩している原因になっているんだよ』

 「ふむ」

 『本来お互いを知りえないでいた人間と魔族。しかし、とある神が落とした鏡を切り口に、様々な宝物……我々の世界では宝具と呼ばれる存在が生まれた事により大変な事になったんだ』

 「なんだよそれって」



 ここでシン(仮)が初めて緊張した面持ちになる。




 『人間界の中に密かに、魔界を侵略しようと企む組織が出始めたんだ』

 「そうか……」

 



 だから、結構前にクレルが人間と戦争になるだとか言ってたのか。



 『このままだと確実に、人間界と魔界は戦争になる』



 宝具を手に入れた人間は、力を手にすることで欲を膨らませ、普通なら敵わない魔族とやり合おうとしている。



 『しかも厄介なことに、人間界には勇者とその御一行が居るんだ……しかも一人一人が馬鹿みたいに強くてね』



 このまま行くと、宝具を使う魔族ですら人間に負ける形となる。



 『そして、この星は人間の星となり、魔族は迫害される一方になる』



 確かにそれは頂けない。



 『その為に連れてきたのが、君、津田朱音という存在さ』

 「俺?」



 何故俺なのか。



 『過激派の神々が均衡を崩そうとしている今、それに反発する我々も黙って見ているわけにもいかない……そこで使ったのがコレさ』



 と言ったシン(仮)の手には、いつの間にやら水晶玉が存在していた。



 『これは“希望への導き”という、神界の宝具の中でもかなり貴重な代物さ』

 「んで何するやつだよそれ」

 『これに祈りを込めると、この水晶が文字通り、希望への道しるべを写してくれるんだ……んで、この宝具に写った希望が――』

 「俺か?」



 ピンポーン。



 『とまぁ、そんな成り行きで君を連れてきたわけだが、如何せん君は唯の人だ。ポテンシャルを十分に秘めているが、それにすら気がついていないから、所謂木偶の坊状態』



 地味に傷つくなおい。



 『じっくり、完璧に成長させたかったんだけど、そこまでの時間がない……そこで考えたのが、僕が君の自我を持った魔力という設定のもと、君をサポート、そしてリミッター解除の役割を担う事にした』

 「んな事、事前に説明しても良かっただろ」



 ノンノンと、人差し指を振り振りするシン(仮)。



 『君は甘いねぇ。覚えていないかい? あの時僕が君を取り込もうとしたこと』

 「覚えているけど、アレも嘘だったんだろ?」

 『何言ってんのさ、馬鹿なの君』



 突然の罵倒に、驚く。心做しか、シン(仮)の言葉に怒気が混じっているように感じた。



 『宝具が君へと導いたのに、君は全く成長しないし、極めつけは女神様から授かった力をも自ら捨てた……あの時は流石に腹が立ったね』

 「でもあの後の試練では助けてくれたじゃねぇか」

 『それは君が出られなくなったら、僕も出られなくなるからに決まっているだろう?』

  「あ? 神界のヤツなら俺を置いてけぼりにして出ること出来ただろ」

 『分かってないね、君が器になる必要があったんだよ』



 器?



 『僕達は原則として、人間界と魔界に干渉出来ないだから、君の身体を器にして、僕が乗っ取り、事を収めることを考えた』

 「ああ、乗っ取るとか言ってたな」

  『そんなことしようとしてんのに、態々君と馴れ合う必要はないからね。だから言わなかった……言う必要が無かったんだ』



 アレ本気だったのかと少しゾッとする。



 『でも冷静なクレルは僕に言った』

 「なんて?」

 『彼は私たち神界の問題に巻き込まれた哀れな人の子。それなのに貴方は彼を殺すのは、余りに理不尽ではないか。とね』

 「クレル……」



 俺を影で助けてくれていたとは、泣けてくる。



 『そこではっと我に返った僕は、君に勝負を吹っかけて、お互いの自我をかけた戦いをするという名目で僕は君から一旦離れた』



 思い出されるのは、魔術大会前の、自我を持った魔力(シン(仮))を喰らい、俺が吸収した記憶。

 そういえば、レシファにアイツを蘇らせて欲しいと言われてたな。そんなこと、俺にもう出来ることは無い。



 『そして今、勝手にこの世界へ転移させた僕達は、改めて君へ謝罪とお願いをしに、来たというわけさ』

 「あー、はいはい成程」



 分かって貰えたようだねと、シン(仮)が微笑む。

 そしておもむろに、シン(仮)とクレルがコタツを消去した。



 「ん?」



 コタツが無くなったと思ったら、二人が俺に向かって土下座していた。



 『君にはとても申し訳ないと思っています。こちらの都合で勝手に転移させ、危険な目に遭わせ、挙句の果てには君を騙して精神を追い詰めた事もある。そして今後も更に危険が待っている……取り返しがつかなくなるかもしれない。そんな中、遅すぎますが、謝罪をさせて下さい。僕達が出来ることなら精一杯のサポートをさせていただきます』  



  ここで、始めに押し殺していた感情が溢れ出てくる。


 正直二人をぶち殺せる力があるならそうしたい。家族を残し、これからの俺の幸せを踏みにじった事実は拭えない。リリィだって、ヴァンピィだって、皆だって、偶然の出会いであって、出会わなかったとしても俺は地球で“平穏”という今以上の幸せな生活を送っていたであろう。ぶっちゃけ自分の命と愛する者を天秤にかけたら、自分の命の方が大切だ。今でも時々地球を思い出して泣きそうになる。確かに死にそうな時もあった。でも、それから解放された後の生活は今のリリィとヴァンピィとの生活と比べても、圧倒的に幸せであった。地球に戻りたい。今でも思う。



 俺の心情がダイレクトに伝わる二人は、一体どんな表情をしているのであろうか。

 掴みかかって、ぶん殴って、罵倒を浴びせて。そして心の底から叫びたい……“地球へ帰らせろ”と。



 激しい怒りに頭がおかしくなりそうだ。



 「ぁあああああぁぁあッッ!!」



 叫ぶ。ここは俺の意識の中だから、喉が潰れることは無い。



 「クソっ! クソっ! クソがァ!!」



 だが俺は、この怒りを二人へぶつける事はしない。



 「クソっ……わーったよ、俺は気にしてない」



 もう二度と、この二人へ怒りをぶつけることはないだろう。

 


 《気にしていない様には思えませんが》



 頭を上げたクレルが余計なことを言う。



 「るっせぇな……俺はただ借りを返すだけだよ」

 『借り?』



 シン(仮)も頭を上げる。



 「まぁとにかく、俺はもう気にしちゃいない……それに今はここでの幸せを守らなくちゃいけない」



 なんだかんだ言いつつも、俺が幸せだということには変わりない。それを守らない理由はない。改めて気がつく。



 地球で幸せを取り戻せたのも、シン(仮)のお陰だしな。

 これが借りだ。あのクソみたいな叔父をシン(仮)は殺してくれた。それだけでも俺は感謝してもしきれない。憎む心はあれど、それ以上に感謝の方が大きい。

 妹を守ってくれてありがとう。これからの幸せを与えてくれてありがとう。


 この恩を、やっと今回返せるかもしれないのだ。もう子供みたいにうじうじ弄れたことを言ってはいられない。



 愛する者とその幸せを守る。そして恩返し。その為に、俺はこの二人の願いを聞き入れることにしよう。



 

 「さぁ、汝らの願いを聞き入れよう」


   


 


いつも読んでいただきありがとうございます!

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